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(29)コゼットの救出がなかなか進まない?テナルディエの宿屋で一泊するジャン・ヴァルジャン

ユゴーの原作『レ・ミゼラブル』を読む
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「ユゴーの原作『レ・ミゼラブル』を読む」(29)コゼットの救出がなかなか進まない?テナルディエの宿屋で一泊するジャン・ヴァルジャン

『レ・ミゼラブル』 第二部 コゼット 第三章 死んだ女への約束をはたす

運命的な出会いを果たしたジャン・ヴァルジャンとコゼット。

ミュージカル映画ではそのまま宿屋へと帰り、その場でコゼット引き取りに関する取引が行われますが、原作では意外や意外。ここからかなり長い間ジャン・ヴァルジャンは行動に移らないのです。

2人で一緒に宿に帰るまでは同じです。ですがここからジャン・ヴァルジャンは一人の宿泊客として振る舞い続けます。

そしてようやく次の日の朝になってコゼットを引きとろうと打診したのでありました。

さて、これは一体どういうことなのでしょう。ジャン・ヴァルジャンはなぜ可哀そうなコゼットをすぐさま救い出そうとしなかったのでしょうか。

これは私も読んでいて不思議に感じていたのですが、ふとこうも思いました。

「もしかすると、ユゴーはジャン・ヴァルジャンにコゼットがいかにひどい扱いを受けているかを実際に目撃させたかったのではないか?」と。

たしかにそう考えると辻褄が合います。彼自身もファンチーヌから事情を聞いていますので、テナルディエがとんでもない食わせ物だということは予想していたでしょう。ですが、彼は如何せんコゼットと会ったこともなかったのです。その身なりや森の中に一人でいたという状況から彼女がかなり悲惨な日々を送っているのは想像できたでしょうが、ジャン・ヴァルジャンとしてはまだ動くには早いということだったのかもしれません。

そんな彼が宿に滞在している間に目にしたことはあまりにいたたまれないことでありました。「コゼットはこんなにも悲惨な扱いを受けていたのか・・・」とジャン・ヴァルジャンは大きなショックを受けたことでしょう。そしておかみさんにお金を払い、そんなコゼットに束の間の休息や贈り物を与えることになります。

ここでのやりとりはミュージカル版に慣れた私達にとっては少し冗長に感じられるものかもしれません。ですが、ユゴーからすると、どうしてもジャン・ヴァルジャンにコゼットの生活を見せたかったのではないでしょうか。読者たる我々にはすでにコゼットがここで虐待を受けていたことが明かされていましたが、彼はそうではないのです。

そしてジャン・ヴァルジャンの見た光景を通して私達も自然と彼の同情に共感していくことになります。コゼットの気の毒さや、彼から受けた贈り物へのいじらしいまでの喜びは私達も胸が締め付けられるような思いになってきます。ユゴーはこれを狙っていたのでしょう。私達はまんまとユゴー大先生の術中にはまっているのです。

こういうわけで、テナルディエの宿屋での一夜が終わるのでありますが、そこからの取引も見物です。ミュージカルでは夫妻が揃って金をゆすろうとしますが、原作ではその役目はテナルディエに一任されています。頭脳が必要な場面ではおかみさんは一歩引く。これが2人の自然なあり方だったのです。

そして1500フランという大金をせしめてコゼットを見送るのでありますが、ここでおかみさんが発した一言が重要です。

「たったそれだけ!」

この一言がテナルディエを我に返します。

「しまった!もっとふんだくるべきだった!」とテナルディエは痛烈に後悔します。なんと、この時の「たったそれだけ!」というおかみさんの言葉は結婚してから初めて旦那に向けて言った文句だったそうです。それほどこの1500フランというのは彼らにとって安いものだったのでしょう。

冷静で抜け目ないテナルディエでありましたら本来はもっとふんだくっていてもおかしくありません。ですがちょうどこの時1500フランの手形がどうしても必要で、それが頭をよぎってしまったのです。

「コゼットを手放すのが惜しいから安すぎる」のではありません。もっとふんだくれるはずだったから安すぎるのです。ここは忘れないでおきましょう。彼らには1ミリたりともコゼットに対する愛情はありません。

さて、というわけでテナルディエは慌てて2人の後を追い、金をふんだくろうとするのですが、やはりジャン・ヴァルジャンは手ごわい!「鉄砲を持って来ればよかった!」と彼は後悔しますが時すでに遅し。彼の迫力や追っ手をまく技術に彼はついに追跡を諦めることにしたのでありました。

それにしてもテナルディエの執念深さも大したものです。ミュージカルでは1500フランを手にして大喜びしていましたが、原作ではやはり恐ろしい存在です。

いずれにせよ、こうしてジャン・ヴァルジャンはコゼットを救出し、パリへと帰還することになったのでありました。

続く

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ユゴーの原作『レ・ミゼラブル』を読む

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この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

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