(21)親鸞の七高僧の最初の一人、龍樹の登場~有名な「空」思想を体系化した偉大なる高僧

『シン日本仏教史』(19)親鸞の七高僧の最初の一人、龍樹の登場~有名な「空」思想を体系化した偉大なる高僧~有名な「空」思想を体系化した偉大なる高僧
ここまでインドにおける大乗仏教の誕生についてお話ししてきましたが、ここでいよいよ日本仏教とも大きく関係する偉人の登場です。

彼の名を龍樹(原名ナーガールジュナ) といいます。
龍樹は紀元150年から250年頃に生きたインドの仏教僧です。「150年から250年頃に生きた」と言いますとものすごいご長寿のようにも思われますが、実はそうではありません。ブッダの生没年が伝承によっては100年近くの誤差がありますように、この龍樹に関しても正確な生没年がわかっていないのです。ですがこの時期に生きておられた実在の人物であることは間違いないようです。
さて、この龍樹の業績で最も偉大なものとしては紀元1世紀頃から作られ始めた大乗経典の思想を大成させたという点にあります。特に『般若経』に説かれる「空」の思想を体系化したのは後の大乗仏教の発展に極めて大きな影響を与えました。そのためインドではブッダにつぐ最大の論師として尊敬され、日本でも「八宗の祖」つまり、日本仏教全宗派の祖として仰がれています。
ただ、教科書的な説明としてはこれが龍樹の功績ということになるのですが、皆さんいかがでしょう。なかなかピンと来ないのではないでしょうか。
大乗仏教を大成し、「空」の思想をまとめた人物。それが龍樹です。
ですがそれのどこがすごいのかと言われてもなかなかわかりにくいというのが正直なところではないでしょうか。
というわけで、極々ざっくりではありますが、なぜ龍樹がこれほどまでに尊敬されたかという背景をこれからお話ししていきます。
まず、「(19)大乗経典の誕生~日本にも伝わった大乗仏教とはそもそも何なのか」の記事でお話ししましたように、インドでは1世紀頃から『般若経』や『法華経』、『阿弥陀経』など様々な大乗経典が作られ始めました。
ですが、これらのお経はインド各地で散発的に作られており、さらには同じ『般若経』や『法華経』にしても多種多様なバージョンが作られ続けたという事情があります。つまり、これらのお経はどこかの大教団が教団の聖典として公式に編纂したものではなく、それぞれの修行者が独自に作り続けていたものだったのです。そのため様々なバージョンの経典が生み出されていったのでした。
これがインドの初期大乗仏教の重要なポイントです。私達は「大乗仏教が生まれた」と言われると、そこに大乗仏教の教団があるように思ってしまいがちですが、実はそうではないのです。
では、教団がないのだとしたら、大乗仏教を信じる人々はどこにいたのでしょう。
かつては大乗仏教は既存の仏教教団とは別の人々が立ちあげた教団というように考えられていましたが、近年の研究ではそれが覆されています。なんと、大乗仏教を信じる人々は既存の仏教教団の中にいて、そこに所属しながら大乗経典を生み出し続けていたというのです。つまり既存の仏教僧侶(上座部仏教)と大乗仏教の僧侶は同じ僧院で共存していたのです。
こういうわけで、大乗経典は生み出されはしたものの、大乗仏教を信じる独自の教団というものはまだ存在していなかったのでありました。
このような状況にあっては、いくら経典が生み出されたとしてもその真価がインド全土の仏教徒に共有されるということはなかなか困難です。やはり、お経だけあってもまだ足りないのです。そのお経の何が優れていて、どこにその奥深さがあるのかを体系的にわかりやすくまとめた解説書が必要なのです。
そうです。それこそ龍樹というお方が成し遂げた大仕事なのでありました。
龍樹は様々な『般若経典群』に説かれるエッセンスをまとめ『中論』という書物を著しました。そして他にも様々な大乗経典の思想をまとめた著作を次々と完成させていきました。これらの仕事によって大乗仏教が従来の仏教と同じくらい高度な思想体系を持つことが証明され、多くの修行者の指針となったのでありました。
もちろん、龍樹以前にも大乗仏教を深く研究した先学は存在していますが、彼らの研究を継承し、大乗仏教を大成させるところまで発展させたのは龍樹の功績です。
こういうわけで龍樹は大乗仏教の歴史において最も重要な位置づけがなされるようになったのでありました。
そしてそれは我らが親鸞にとっても同じでありました。親鸞は自身の仏教において「七高僧」という7人の偉大なる祖師を挙げています。もちろん、その最初のひとりが今回紹介してきた龍樹です。そして次に来るのが世親。さらに曇鸞、道綽、善導、源信、法然という7人になります。
ちなみに龍樹と世親がインド、曇鸞、道綽、善導が中国、源信、法然が日本です。
親鸞は自身の仏教がインドの龍樹・世親から始まり、中国の3人の祖師を経て日本の源信、法然へと展開して届いたのだという歴史観を持っています。つまり、自分の仏教は単なる思い付きではなく、インドから始まった仏教の大きな流れのひとつなのだということを主張しているのです。
私が『シン日本仏教史』と言いながらここまでインドの仏教史を辿って来たのもここに理由があります。親鸞自身が自らの仏教をこのような大きな視点で見ているのです。であるならば私達も親鸞と同じように大きな視点で仏教を見ていかなければなりません。
今回の連載では龍樹の思想自体には触れませんが、仏教の歴史において龍樹がいかに巨大な存在であるかが少しでも伝わりましたら幸いでございます。
続く
この記事で特に参考にした書籍はこちら
〇瓜生津隆真『龍樹 空と論理と菩薩の道』大法輪閣
〇奈良康明『仏教史Ⅰ』山川出版社
〇『シリーズ大乗仏教 第二巻 大乗仏教の誕生』春秋社
〇『シリーズ大乗仏教 第五巻 仏と浄土—大乗仏典Ⅱ』春秋社
〇G・ショペン『大乗仏教興起時代 インドの僧院生活』春秋社
主要参考文献一覧
〇インドの歴史・宗教・文化について知るのにおすすめの参考書一覧
〇インド仏教をもっと知りたい方へのおすすめ本一覧
〇仏教国スリランカを知るためのおすすめ本一覧
〇中国仏教・中国思想のおすすめ解説本一覧
〇親鸞聖人や日本仏教を学ぶためのおすすめ参考書一覧
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