サールナート博物館の至宝アショーカ獅子柱頭とインド仏像の最高傑作「初転法輪像」を堪能!
【インド・スリランカ仏跡紀行】(92)
サールナート博物館の至宝アショーカ獅子柱頭とインド仏像の最高傑作「初転法輪像」を堪能!
さて、サールナート博物館に到着である。この博物館はサールナートの仏跡のすぐ近くなので徒歩で向かった。
こちらがサールナート博物館だ。ここにインドの至宝アショーカ獅子柱頭やサールナート仏の名で知られる初転法輪像が所蔵されている。
そしていざ入場すると、いきなり度肝を抜かれることになった。なんと、入っていきなり真正面にあのアショーカ王柱が現れたのである。
これには驚いた。まさか一番最初にこれをぶつけてくるとは!もう少し「あのアショーカ柱頭はどこなのだろう。いつ会えるのかな」という期待感を持たせてくれてもよいのでは?まさかの出し惜しみなしの全力投球であった。
それにしても素晴らしい。どの角度から見ても圧倒的である。
この彫刻はひとつの砂岩から彫り出されたものなのだそう。これがアショーカ王の時代、つまり紀元前3世紀頃の作品なのである。信じられない。
ライオンの足元をアップで撮ってみた。この光沢も素晴らしいが、牛の肉感も常軌を逸している。この彫刻の制作者の技術は人知を超えているのではないか?古代ギリシャやヘレニズム、ルネサンスなど様々な傑作彫刻が時代や世界を超えて存在しているが、このアショーカ獅子柱頭も間違いなくその中に入ることだろう。とてつもない彫刻だ。
この獅子柱頭はインドの国章にも用いられている。インドの長い歴史において、この彫刻はあまりに突出している。私もこの柱の前でしばらく動けなくなった。単に緻密なだけではない。何かエネルギーのようなものを発散しているように感じられるのである。
他にもこの展示室には優れた彫刻がずらりと並んでいる。この博物館はいきなりハイライトを持ってくるという趣向らしい。
左の仏像はバラ菩薩と呼ばれる彫刻で、マトゥラーで紀元二世紀頃に制作されたものがここサールナートで発見された。このマトゥラーという地はガンダーラと並ぶ仏像制作の一大拠点として知られている。私も後にそこを訪れたので別記事にて改めて紹介したい。(※「(101)ガンダーラと並ぶ仏像発祥の地マトゥラーへ~インドで唯一の阿弥陀仏像を求めて」の記事参照)
そして右の仏像は5世紀頃の作品で、ここサールナートで制作されたものとされている。5世紀頃には仏像制作の拠点がここサールナートに移り、優れた作品が次々と生まれることになった。そしてその最高傑作と呼ばれるものが次の初転法輪像である。
サールナート仏の愛称で親しまれるこの初転法輪像。インド仏像制作の黄金時代となったサールナート期の傑作だ。
あまりに優美、あまりに静謐、あまりに完璧なこの仏像を前に私はただただ絶句するのみだった。
脱力し、リラックスした上半身、特に腕の力感の抜けは完璧だ。まさに自然体。無駄な力みが一切ない。
しかし同時に下半身の安定感は疑いようもなく、悟り後の深い瞑想の境地を感じさせる。
この仏像のショックは美術館を出て宿に帰ってからもずっと続き、この完璧な彫刻に心奪われたままだった。
実際のブッダはこれよりもさらに神々しく、言葉に尽くせぬ姿をしていたことだろう。たしかにこれほどの人が目の前に現れたら、誰しも5人の修行者のようになってしまうのではないか。ブッダは2500年に1人のカリスマだ。そんな人間が目の前に現れたらきっと私も即五体投地したくなるほどの衝撃を受けることだろう。これは喩えではない。私の本心だ。想像もできぬほどの圧倒的な人物に出会うというのはきっとそういうことなのではないかと私は思うのである。
私はこの仏像に心の底から感動した。ブッダガヤで蓄積した負のエネルギーが消し飛んだ。私の心は浄化されたのである。
そしてサールナートからバラナシの宿へと帰る道中、私の中である異変が発生した。
ローマに行きたくて行きたくて仕方がなくなってきたのである。
サールナート仏のあまりの素晴らしさに触発されたのだろうか、私はローマの素晴らしい彫刻達に会いに行きたいという念でいっぱいになってしまったのである。以下の記事はそんな私がこのインド滞在中に猛烈な勢いで書いた記事だ。
私はローマが大好きだ。2019年、2022年と私は二度この地を訪れている。その時体感した美の極致たる聖堂や完璧な彫刻達に私はすっかり魅了されてしまっていた。
サールナート仏は私のローマ愛を燃え上がらせた。なぜかはわからない。だが、今すぐインドを脱出してローマに飛んでいきたい。車窓から見えるインドのカオスを眺めながら心はローマに飛んでいた。
そしてしばらくしてふと気づく。
私は秩序を求めているのだと。ローマのあの完成された美、調和、秩序を求めているのだ。私はこのカオスたるインドに疲れてしまっている。そんな中、完璧な調和を見せるサールナート仏と出会ったのだ。私がこうなってしまったのも無理はない。あぁ、ローマ・・・ローマよ!あなたはなぜそんなに美しいのか!
これはもう重症である。
私はここから帰国するまで、いや帰国した後もローマ病に憑りつかれることになった。それほどサールナート仏は完璧だったのである。
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※以下、この旅行記で参考にしたインド・スリランカの参考書をまとめた記事になります。ぜひご参照ください。
〇「インドの歴史・宗教・文化について知るのにおすすめの参考書一覧」
〇「インド仏教をもっと知りたい方へのおすすめ本一覧」
〇「仏教国スリランカを知るためのおすすめ本一覧」
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