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ゴンブリッチ、オベーセーカラ『スリランカの仏教』概要と感想~スリランカ仏教は新しい?衝撃の名著!

スリランカの仏教
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ゴンブリッチ、オベーセーカラ『スリランカの仏教』概要と感想~スリランカ仏教は新しい?衝撃の名著!

今回ご紹介するのは2002年に法藏館より発行されたリチャード・ゴンブリッチ、ガナナート・オベーセーカラ著、島岩訳の『スリランカの仏教』です。

早速この本について見ていきましょう。

なぜスリランカでは今なお仏教が宗教として機能しているのか。現地の宗教事情から、急激な近代化・都市化の影響まで具体例をもとに探究。

近代化、都市化といった社会の急激な変動が、伝統的な宗教生活にもたらした驚くべき変化とは何か。その歴史的背景、諸外国の影響から、神霊信仰との交渉、現代のカルト問題まで、仏教学と文化人類学の権威が、それぞれの観点から、緻密なフィールドワークに基づき、宗教のダイナミズムを明らかにする画期的共同研究。

Amazon商品紹介ページより

スリランカの仏教といえば厳密な戒律を守る上座部仏教というイメージがあるかもしれませんが、実は現代スリランカの仏教自体は最近構築されたものでした。スリランカ仏教は最も原始教団に近い仏教と言われることもありますが、それも実はここ数世紀で作り上げられたイメージだったのです。この本を読めば確実に驚くと思います。スリランカの仏教に対しての印象ががらっと変わると思います。

本書の帯では「発祥の地、インドで滅びた仏教が、なぜスリランカでは生き続けているのか」と書かれていますがまさに本書では現代スリランカ仏教の実態を詳しく見ていくことになります。

スリランカは1815年にイギリスの植民地になって以来、それまでの伝統的な村社会が衰退し、コロンボでは急激な都市化が進んでいきました。さらに英語を使えるエリートたちが積極的にイギリス文化を吸収。特にイギリスのプロテスタント的な宗教観をスリランカ仏教の世界に持ち込むことになりました。これが現代スリランカの仏教に決定的な影響を与えることになります。

また、スリランカ南部のカタラガマという聖地における仏教側の動きも見逃せません。ここは元々ヒンドゥー教の神スカンダ(日本では韋駄天として親しまれている神)の聖地でした。そこにスリランカ仏教徒たちが今大挙して押し寄せているのです。原始仏教に忠実であることを謳うスリランカ上座部の教えからいうとこれは矛盾です。ですがこれは明らかに大きな流れとなっています。この背景にはスリランカの政治や経済の問題も大きく絡んでいたのでありました。

本書では単にスリランカ仏教を思想面から見ていくのではなく、現地でのフィールドワークで得た知見が生かされています。現地で実際に見てきたからこそ見えてくるスリランカ仏教の実態。これは非常に興味深いです。私も大興奮でこの本を一気に読み切ってしまいました。ものすごく面白いです。

ただ、巻末の訳者あとがきで次のような指摘があったのも事実です。

全体としては、基本的にはマックス・ウェーバーの近代化論に基づきつつ、剥奪理論等の宗教社会学の諸理論や、エーリッヒ・フロム流の社会心理学的解釈、結婚式に花嫁が用いる白い布に浄化の象徴を見るというような象徴人類学的解釈等、さまざまな手法と理論を駆使しながら、都市化によるスリランカの宗教の変容という現象が読み解かれており、実にスマートで見事な分析が行われていると言えるであろう。しかしながら、あまりにスマートで見事な分析であるだけに、「都市化によるスリランカの宗教の変容という複雑な事象が、本当にこんなふうに見事に分析しきれるのだろうか」という、素朴な疑問がわいてくるのである。以下若干の疑問点を指摘していきたい。

法藏館、リチャード・ゴンブリッチ、ガナナート・オベーセーカラ、島岩訳『スリランカの仏教』P730

「しかしながら、あまりにスマートで見事な分析であるだけに、「都市化によるスリランカの宗教の変容という複雑な事象が、本当にこんなふうに見事に分析しきれるのだろうか」という、素朴な疑問がわいてくるのである。」

まさにその通り!私も本書を読みながらまさにそのように思ってしまったのです!笑 お見事すぎる!この本の欠点はあまりに面白過ぎる点にあるのです。

ですが上の引用にありますように、訳者によってこの後丁寧に著者への疑問について解説されていきますのでご安心ください。この解説部分を読むだけでも本書のエッセンスがぎゅっと詰まっていますのでこの箇所を熟読することをおすすめします。

何はともあれ、この本は非常に刺激的です。日本人が抱くスリランカ仏教像がいかにその実態とずれているかがよくわかります。そしてそのスリランカ仏教がいかにして出来上がっていったかを社会とのつがなりから見ていけるのは実に興味深いです。700頁超の大ボリュームの一冊ですが全く飽きません。とてつもない本です。

これは日本仏教を考える上でも非常に有益な一冊となること間違いなしです。ぜひぜひおすすめしたい一冊です。ぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。

以上、「ゴンブリッチ、オベーセーカラ『スリランカの仏教』~スリランカ仏教は新しい?衝撃の名著!」でした。

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この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

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