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辻直四郎『インド文明の曙―ヴェーダとウパニシャッド―』あらすじと感想~バラモン教の聖典の概要を学ぶのにおすすめの参考書

インド文明の曙
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辻直四郎『インド文明の曙―ヴェーダとウパニシャッド―』概要と感想~バラモン教の聖典の概要を学ぶのにおすすめの参考書

今回ご紹介するのは1967年に岩波書店より発行された辻直四郎著『インド文明の曙―ヴェーダとウパニシャッド―』です。私が読んだのは1988年第21刷版です。

早速この本について見ていきましょう。

ヴェーダはインド最古の文献であり、バラモン教の根本聖典の総称である。その宗教や祭式は多くの変遷を経てヒンドゥー教となり、現代インド人の信仰や生活の中に生きており、また仏教の思想や美術にも入りこんでいる。インド文明の源流ともいうべきこの聖典の成立と思想を、ヴェーダ研究の世界的権威である著者が、平明に興味深く語る。

Amazon商品紹介ページより

この本は古代インドの宗教バラモン教の根本聖典たるヴェーダとウパニシャッド哲学について解説された作品です。

ヒンドゥー教の儀式の多くはバラモン教以来の伝統を継承している(南インド)Wikipediaより

この本やヴェーダについて、著者は「まえがき」で次のように述べています。

ヴェーダはインド最古の文献で、バラモン教の根本聖典の総称である。ヴェーダの宗教や祭式は、長いあいだにさまざまな変遷を経て、ヒンドゥー教へと変貌し、現代も、インド連邦の大部分の住民の信仰や生活の中に生きている。ヒンドゥー教の諸宗派は、少なくも名目の上で、今もヴェーダの権威を認めている。しかし一般のヒンドゥー教徒にとって、実際の聖典はヴェーダでなく、その内容についての正確な知識は早く失われた。ヴェーダの真価を認識し、その内容の解明に努めたのは、一九世紀に出た欧米のサンスクリット学者であった。インド文化の初頭を飾りインドの思想哲学の本源をなす大文献は、ここに発見された。

インド研究のいかなる時代、いかなる分野に志すにしろ、関係の粗密の程度に従い、多かれ少なかれヴェーダの知識を欠くことは許されない。本書はヴェーダの概要を、専門家以外の人に紹介するのを目的とする。従ってこれはヴェーダの研究書ではなく、常識としてのヴェーダの入門書である。細論をさけ、もっとも妥当な見解をとり、学術上の誤りにおちいらない限り簡明と平易とを旨とした。ヴェーダを構成する各種の原典から若干の例を選んで翻訳し、最小限度の注解を添えた。訳例をもっと豊富にするべきであったが、紙面の都合で割愛した。ヴェーダの抜粋翻訳集がまもなく他から出版される予定であるから、本書と互いに補って、ヴェーダの理解に役立てば幸甚である。

岩波書店、辻直四郎『インド文明の曙―ヴェーダとウパニシャッド―』Pⅰ-ⅱ

「本書はヴェーダの概要を、専門家以外の人に紹介するのを目的とする。従ってこれはヴェーダの研究書ではなく、常識としてのヴェーダの入門書である。」

「ヴェーダとウパニシャッド」といいますと何かとてつもなく難しそうなイメージが湧いてきますがこの本自体はここで述べられますように専門家以外の人にもわかるように書かれた入門書になります。

古代インドの宗教において何が信仰されていたのか、どのように信仰されていたのかということを知ることができるのがこの本です。

特にインド最古の文献である『リグ・ヴェーダ』には現在のヒンドゥー教の源流になったバラモン教の神々がたくさん登場します。ヒンドゥー教になる前のインド宗教との違いを感じる上でもこの本は非常にありがたい作品でした。

そして仏教もこうした『ヴェーダ』の世界観の中から生まれてきたのだということも考えることもできます。

古代インドや原始仏教を学ぶ上で避けて通れない『ヴェーダ』や『ウパニシャッド』の入門書としておすすめの一冊です。インドや仏教について全く知識がない方には厳しいかもしれませんが、ある程度全体像を掴み、もっと詳しく古代インドを知りたいという方には特におすすめな作品となっています。

以上、「辻直四郎『インド文明の曙―ヴェーダとウパニシャッド―』~バラモン教の聖典の概要を学ぶのにおすすめの参考書」でした。

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この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

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