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立川武蔵・大村次郷『聖なるものの「かたち」―ユーラシア文明を旅する』あらすじと感想~人々の生活から「宗教とは何か」を問う

聖なるもののかたち
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立川武蔵・大村次郷『聖なるものの「かたち」―ユーラシア文明を旅する』概要と感想~人々の生活から「宗教とは何か」を問う

今回ご紹介するのは2014年に岩波書店より発行された立川武蔵著、大村次郷写真『聖なるものの「かたち」―ユーラシア文明を旅する』です。

早速この本について見ていきましょう。

聖なるもの……暮らしの中で抱く何ものかに対する畏敬と畏怖……祈りと願望のために為す造形の妙。本書は、広大なユーラシアを舞台に幾星霜をかけて埋め込まれてきた聖なるものの「かたち」の諸相を俯瞰しながら、地域や民族、宗教の違いを超えた聖なるものの地下水脈を丹念に掘り起こしていこうとする試みである。

Amazon商品紹介ページより

前回の記事で紹介した立川武蔵著『ヒンドゥー教巡礼』ではヒンドゥー教の聖地について知ることになりましたが、今作『聖なるものの「かたち」―ユーラシア文明を旅する』ではヒンドゥー教を超えてインド周辺の様々な宗教の姿を見ていくことになります。

この本について著者は「はじめに」で次のように述べています。とても重要な問いが提起された箇所ですのでじっくり読んでいきます。

日本の伝統や文化のみなもとを遡っていくと、ユーラシアの各地にさまざまな淵源を求めるこができる。しかしそういったルーツ探しを重ねていくなかでわたしたちは気付く。風土も生活習慣もまったく異なる場所で、まるで示し合わせたかのように近似した思想が同じように育まれてきている例が少なくないことに。

「聖なるもの」。暮らしの中で抱く何ものかに対する畏敬と畏怖。祈りと願望のために為す造形の妙。本書は、広大なユーラシアを舞台に幾星霜をかけて積み上げられてきた「聖なるもの」の諸相を俯瞰しながら、地域や民族や宗教の違いを超えた、「神々」の地下水脈を掘り当てていこうとする試みである。

「聖なるもの」とは何か。それに「かたち」はあるのか。もしあるとすれば、その「かたち」は「聖なるもの」とどのような関係にあるのか。一般に「聖なるもの」という語からは、例えば聖母マリアのような清らかで神々しいモノを思い浮かべる。では、聖母マリアの像は「聖なるもの」なのだろうか。

マリア像は、聖母の「かたち」を写してはいるが、あくまで一塊の偶像にすぎないと考える人々がいる。一方、マリアの像それ自体を「聖なるもの」として崇拝する人たちがいる。前者にあっては、「聖なるもの」の特質(聖性)と彫像というモノ(あるいは「かたち」)は「離れた」関係にある。後者にあっては、聖性とモノとの関係が、前者よりも「近い」。

聖性とモノの関係は、単に偶像のとらえ方の問題にとどまらず、ユダヤ・キリスト教的世界観の考え方とヒンドゥー教・仏教的世界観の違いに関わっている。それは、世界の創造神を認める立場と認めない立場との違いである。おおまかに言うならば、世界を超越する神の存在を認める場合には、聖性とモノ(「かたち」)の間の距離は大きく、そのような神の存在を認めない場合には、両者の間の距離は小さく、時にはなくなる。

ユーラシア全域に一つの神々の組織(パンテオン)が存在するわけではない。だが、多くの民族はいわゆる神々の存在を歴史の中で認めてきた。それらの神々のイメージや働きは、民族あるいは地域によって異なる。神の存在を認めない人々もいる。しかし、人々は「聖なるもの」と呼ぶ以外にはしかたのない何ものかを認めてきた。この「聖なるもの」とは、歴史を超えて実在するものではない。人間たちの歴史の中で育てられてきた意味なのである。

これから、われわれは「聖なるもの」がその「かたち」を現している諸相を見ていこうと考えている。心の眼を凝らせば、変哲のない日常的な存在が、聖なるものの「かたち」をとってわれわれの眼の前に現れてくるのである。

岩波書店、立川武蔵著、大村次郷写真『聖なるものの「かたち」―ユーラシア文明を旅する』P1-2

「聖なるもの」と「かたち」。

モノそれ自体に聖性があるのかないのか。

これは普段の何気ない日常生活ではあまり意識しないことかもしれません。

ですが、これは宗教とは何かを考える上で極めて重要な問題です。

私たち現代日本人もほとんど無意識のうちにこうした「聖なるもの」と接して生きています。それはほとんど意識されなかったり、文化の世俗化によってそもそも失われてしまっているということもあるかもしれませんが、思わず手を合わせたくなったり、「あぁ・・・」と頭が下がるような習慣は皆さんにも経験があるのではないでしょうか。

私たちは何を以て「聖なるもの」を感じるのでしょうか。そもそも「聖なるもの」とは何なのか。

この本ではそれを「具体的に」見ていきます。水や火、大地、食べ物、聖像、舞踊など様々な具体例を丁寧に見ていきます。

慣れ親しんだ日本に生きているとなかなか気付けないことも、インドやユーラシアという全く異なる文化を題材に見ていくことで知ることができます。やはり異質な他者と比べてみることで自分たちの姿が見えてくるということがあります。

他の文化を学ぶことの大きな意義はそこにあると思います。

この本では写真も多数掲載されていて、まるで異世界を見ているかのような気持ちになります。こういう世界が現実に今もなおあるのだと驚くと思います。

そうした驚きが自分たちの宗教や文化との新たな出会いも促してくれるのではないでしょうか。

宗教を学ぶ入門書としてもこの本は非常に優れていると思います。ぜひおすすめしたい作品です。

以上、「立川武蔵・大村次郷『聖なるものの「かたち」―ユーラシア文明を旅する』~人々の生活から「宗教とは何か」を問う」でした。

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聖なるものの「かたち」――ユーラシア文明を旅する

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この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

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