MENU

星新一『ボッコちゃん』あらすじと感想~日本SFの第一人者によるおすすめショート・ショート集!

目次

星新一『ボッコちゃん』日本SFの第一人者によるおすすめショート・ショート集!

今回ご紹介するのは1971年に新潮社より発行された星新一著『ボッコちゃん』です。私が読んだのは2020年第118刷版です。

早速この本について見ていきましょう。

著者が傑作50編を自選。SF作家・星新一の入門書。
バーで人気の美人店員「ボッコちゃん」。彼女には、大きな秘密があった……。

スマートなユーモア、ユニークな着想、シャープな諷刺にあふれ、光り輝く小宇宙群!


表題作品をはじめ「おーい でてこーい」「殺し屋ですのよ」「月の光」「暑さ」「不眠症」「ねらわれた星」「冬の蝶」「鏡」「親善キッス」「マネー・エイジ」「ゆきとどいた生活」「よごれている本」など、とても楽しく、ちょっぴりスリリングな自選50編。

著者の言葉
特徴をもうひとつあげるとすれば、作品のバラエティを多くするよう心がけた。ミステリー的なものもあり、SF的なものもある。ファンタジーもあれば、寓話がかったものもあり、童話めいたものもある。いずれも私が関心を抱いている分野である。だからこの一冊は、私、星新一というあやしげな作家そのものを、ショートショートに仕上げた形だといえるかもしれない。
(本書「あとがき」より)

Amazon商品紹介ページより

この本は日本SFの第一人者星新一によるショート・ショート(超短編)集です。

著者のプロフィールも見ていきましょう。

早川書房S-Fマガジン』1963年12月号より Wikipediaより

星新一(1926-1997)
東京生れ。東京大学農学部卒。1957(昭和32)年、日本最初のSF同人誌「宇宙塵」の創刊に参画し、ショートショートという分野を開拓した。1001編を超す作品を生み出したSF作家の第一人者。SF以外にも父・星一や祖父・小金井良精とその時代を描いた伝記文学などを執筆している。著書に『ボッコちゃん』『悪魔のいる天国』『マイ国家』『ノックの音が』など多数。

Amazon商品紹介ページより

私が星新一作品を知ったのはSF好きな友人がおすすめしてくれたのがきっかけでした。

そして読み始めてみるとその作品のインパクトに驚くことになりました。

この本の最初は『悪魔』という作品なのですが、なんと、ページ数にしてたったの5ページ!ですがその5ページの中であっと驚くような物語が展開されます。1ページ目から「これからどうなるんだろう」と惹き付けられ、最後には予想外なオチにハッとさせられる。

「おぉ!これが星新一か!」

そう思わずにはいられない、独自な世界観でした。これはすごい! こんな短いページ数であっと驚く展開を具現化する力に私はすっかり魅了されてしまいました。

しかも、面白いのはもちろんなのですが私はそこに「なんか、オシャレだな」という思いまで抱いてしまいました。

この本は『ボッコちゃん』という可愛さすら感じさせる不思議なタイトルですが、いやいや、その作品はものすごくカッコいいです。オシャレです。スタイリッシュです。

そしてこれだけ短いページ数でかつ膨大な作品を生み出していったというのはロシアの作家チェーホフを連想させます。

あわせて読みたい
チェーホフおすすめ作品10選~チェーホフは小説も面白い!戯曲だけにとどまらない魅力をご紹介! 強烈な個性で突き進んでいくドストエフスキーは良くも悪くも狂気の作家です。 それに対しチェーホフはドストエフスキーと違ってもっと冷静に、そして優しいまなざしで訴えかけてきます。 私たちを包み込んでくれるような穏やかさがチェーホフにあります。こうしたクールで優しい穏やかさがチェーホフの大きな特徴です。ぜひおすすめしたい作家です!
あわせて読みたい
チェーホフ『すぐり』あらすじと感想~幸福とは何かを問う傑作短編!幸せは金で買えるのか。ある幸福な... 「『すぐり』は短い作品であるが、鋭く人の心を刺す。人は何のために生きるかを、わずか数ぺージに、香り高く圧縮して見せてくれている。 『すぐり』はすばらしい、そしてある意味でおそろしい作品である。小品といってもいい短い形式の中に盛りこまれた内容は一個の長篇小説に匹敵する。」 ロシア文学研究者佐藤清郎氏も絶賛するチェーホフ短編の最高傑作!

チェーホフも膨大な短編を書き、そのユーモア溢れる作風で一世を風靡した作家でした。作家人生の途中からは中編作品が多くなりますが、彼の原点はやはりユーモアあふれる短編にあります。星新一を読みながら大好きなチェーホフを連想している自分に気づきました。

さて、話はそれてしまいましたが『ボッコちゃん』に戻りましょう。

『悪魔』の次はいよいよ表題作の『ボッコちゃん』です。

上の商品解説にもありましたように、この作品は「バーで人気の美人店員「ボッコちゃん」には、大きな秘密があった……。 」という内容です。

この作品も最後のオチが何とも素晴らしい・・・!割と平和な感じでこの物語は進んでいくのですが最後の最後で「おぉっ!」となるまさに星新一の真骨頂です。

そして個人的にこの本の中で一番印象に残ったのがこの次に出てくる『おーい でてこーい』です。

これはある日とある場所に突然出現した「穴」をめぐる物語なのですが、これはとてつもなく深く鋭い風刺が効いた作品です。この作品はぜひぜひおすすめしたいです。

他にも『殺し屋ですのよ』『不眠症』『人類愛』『妖精』などが私のお気に入りです。

特に『妖精』は印象に残っています。仏教的とも言えるその内容に思わず唸ってしまいました。

19歳の女の子の前にある日妖精が現れ、彼女の願いを叶えてくれるという物語なのですがこれがまた頗る面白い!

妖精は何でも願いを叶えてくれます。

たとえば宝石が欲しいと願ったならばそれを得ることができます。

ですが、それにはある条件があります。

それは、自分のライバルにその2倍のものが与えられるという条件です。

つまり、宝石を1個欲しいと願ったら自分のライバルには2個の宝石が与えられることになります。

もし自分が1億円を得られるとしたら、ライバルには2億円のお金が与えられます。

自分の欲しいものは確かに得られるのです。ですが、自分のライバルはそれよりも倍得ることになる。

人間とは不思議なもので、こうなってしまうともうだめです。欲しいと思っていたものも手放してしまうのです。

「あいつが得するくらいなら私はいらない」

そうなってしまうのですね。比較の中でしか生きられない人間の性質。これは仏教でもよく語られることでもあります。

人間の不条理な真理を巧みに描いたこの作品は私の中でも特にお気に入りになりました。

もちろん、この作品は単にこれで終わらず、星新一らしいオチが待っています。私も一本取られました。これは面白いです。

そんな作品がごろごろ収録されているのがこの本です。

星新一作品を読むならまずこの本がおすすめです。

ショートショートというくらいですからひとつひとつの作品はものすごくコンパクトです。

ですのでいつでも気楽に読むことができるのも嬉しいところです。

ぜひぜひおすすめしたい作品です。

以上、「星新一『ボッコちゃん』あらすじと感想~日本SFの第一人者によるおすすめショート・ショート集!」でした。

Amazon商品ページはこちら↓

ボッコちゃん(新潮文庫)

ボッコちゃん(新潮文庫)

前の記事はこちら

あわせて読みたい
逢坂冬馬『同志少女よ、敵を撃て』あらすじと感想~本屋大賞受賞のおすすめ小説!独ソ戦を戦う狙撃兵の... TwitterなどのSNSで話題になっていた『同志少女よ、敵を撃て』 これは面白い!! とにかく読ませます! ストーリー展開や心理描写が非常に巧みで、どんどん物語に引き込まれます。読書への没入感がすごいです。 MGSの小島監督の絶賛をきっかけに手に取ったこの作品でしたが、その賛辞に違わぬ傑作でした。ぜひぜひおすすめしたい作品です。

関連記事

あわせて読みたい
おすすめSF・ディストピア小説16作品一覧~SF・ディストピアから考える現代社会 SF小説はその面白さは言うまでもありませんが、現在を生きる私たちに大きな問いを投げかけます。 楽しんで読むもよし。 今の世界をじっくり考えながら読むもよし。 色んな楽しみ方ができるのがSF小説のいいところだと思います。 この記事ではそんな私のおすすめ小説15作品をご紹介します。
あわせて読みたい
伊藤計劃『虐殺器官』あらすじと感想~ぜひおすすめしたい私の最も好きなSF小説! この作品はここ数年で私が最も愛した作品と言ってもいい小説です。 タイトルが『虐殺器官』という、およそ僧侶のブログではまず馴染まないであろうフレーズということもあり、ここまでなかなかこの作品を紹介する機会がないまま来てしまいましたが、独ソ戦、冷戦、ディストピア小説と来た今の流れならいけるであろうと、いよいよ勇んでの紹介になります。
あわせて読みたい
伊藤計劃『メタルギア ソリッド ガンズ オブ ザ パトリオット』あらすじと感想~『虐殺器官』の著者によ... この作品はメタルギアと初めて出会う方でも読める作品となっています。過去のエピソードなどもうまく盛り込まれていて、その流れをわかりやすく知ることができます。私もこの作品が初めてのメタルギア体験でした。ですが、感動して泣いてしまうほどこの作品に引き込まれてしまいました。本当に素晴らしい作品です。 伊藤計劃さんの思いが詰まったこの本は私の宝物です。
あわせて読みたい
オーウェル『一九八四年』あらすじと感想~全体主義・監視社会の仕組みとはー私たちの今が問われる恐る... 『一九八四年』は非常に恐ろしい作品です。ですがこれほど重要な作品もなかなかありません。現代の必読書の一つであると私は思います。 この作品は「今私たちはどのような世界に生きているか」を問うてくる恐るべき作品です。今だからこそ特に大事にしたい名作です。
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

コメント

コメントする

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください

目次