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A・ワーナー『写真で見るヴィクトリア朝ロンドンとシャーロック・ホームズ』あらすじと感想~ホームズ人気の秘密や時代背景も知れるおすすめ本!

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A・ワーナー『写真で見るヴィクトリア朝ロンドンとシャーロック・ホームズ』概要と感想~ホームズ人気の秘密や時代背景も知れるおすすめ本!

今回ご紹介するのは2016年に原書房より発行されたアレックス・ワーナー著、日暮雅通訳『 写真で見るヴィクトリア朝ロンドンとシャーロック・ホームズ』 です。

早速この本について見ていきましょう。

ロンドン博物館が収集展示した貴重な図版と資料を中心に、ヴィクトリア朝後期のロンドン――コナン・ドイルの生活からホームズが歩いた町並みを活写。
見たことのない古き良きロンドンがここにある。

名探偵が過ごした19世紀ロンドンを、貴重な写真と絵画で歩いてみる。300点に及ぶロンドン博物館の資料をもとに編集、第一線の研究者による解説で蘇る、世界都市の実像!

Amazon商品紹介ページより

この本はコナン・ドイルのシャーロック・ホームズが生きた19世紀末のロンドンを大量の写真や資料を基に見ていく作品になります。

私がこの本を手に取ったのは実はホームズのことを知るためではなく、最初はマルクスを知るためでした。

カール・マルクス(1818-1883)Wikipediaより

というのも、マルクスは1849年にロンドンへ亡命し、彼が亡くなる1883年までずっとこの街で生活していました。

そしてくしくもシャーロック・ホームズその人がロンドンを舞台に活躍し始めるのが1881年からのことです。

なんと、マルクスとホームズは同じ時代を生きていたのです。

しかもマルクス亡き後エンゲルスが彼の思想を引き継ぎ、マルクス主義がどんどん広がっていくことになります。つまりホームズが活躍していた時代はエンゲルスが活躍していた時代でもあったのです。マルクス、エンゲルスの思想が広まっていった時代背景はどのようなものだったのか、そしてその頃のロンドンはどのような環境だったのかということを知るために私はこの時代の参考書を探していたのです。そして出会ったのがこの本でした。

私はホームズシリーズが好きでこの本と出会う前から長編や短編集を読んでいました。ですので、思わぬところでホームズとマルクスの歴史が繋がって非常に興奮しました。(さらに言えば、そもそもマルクスその人すら私のドストエフスキー研究の一環として読み始めたものでした。そのドストエフスキーが亡くなったのも1881年。つまり同時代です!ドストエフスキーから色んな世界が繋がったことに私は興奮したのでした)

この本はそんなシャーロック・ホームズが生きた時代やその物語がなぜこんなにも世界中で人気になったのかを考察していく作品です。

「はじめに」で著者は次のように述べています。

シャーロック・ホームズといえば、世界で最も有名な架空のキャラクターであろう。(中略)

BBCテレビの『SHERLOCK』や米CBSテレビの『エレメンタリー ホームズ&ワトソン in NY』、ガイ・リッチー監督、ロバート・ダウニー・ジュニア主演の大作映画が立て続けに大評判となった今、ホームズはおそらく人気の絶頂にあるのだろう。映画の興行収入は合わせて約十億ドルにのぼったと言われる。

舞台が過去のヴィクトリア朝だろうと現代だろうとおかまいなく、新たな翻案が大量に生み出されてきたのは、コナン・ドイルの原作にそうした力があったからにほかならない。いつの時代にも、新規のファンが続々とホームズに引きつけられてきたのだ。この探偵とその世界の魅力がいつまでも失われずにいるのは、なぜなのか。その点を探り、明らかにしていきたい。それには、ホームズのもつ個性の重要な側面とともに、急増していく人口と極端な富と貧困をかかえて変貌していく巨大都市、ヴィクトリア朝およびエドワード朝のロンドンという背景についても、考えねばならない。

単なる探偵小説シリーズの域を大きく超えてシャーロック・ホームズが象徴的な存在となったのは、なぜか。それを解明するのが、この小論集の狙いである。(中略)

この小論集が、ホームズという偶像の探偵が一世紀以上の昔と変わらぬ強さで今も読者の反響を呼ぶ、そのわけを解明する一助となれば幸いである。

原書房、アレックス・ワーナー著、日暮雅通訳『 写真で見るヴィクトリア朝ロンドンとシャーロック・ホームズ』 P5-10

この箇所を読めばこの本が単にヴィクトリア朝の写真や資料を集めただけでなく、なぜシャーロック・ホームズがこんなにも人気なのかを探究しようとする作品であるかがよくわかると思います。

ここから先はこの本の中でも特に気になった箇所をいくつか紹介していきたいと思います。

では始めていきましょう。

1880~1890年代ロンドンの治安 平和の街ロンドン?

一八八〇年代から九〇年代にかけて、犯罪のはびこる〝暗黒のジャングル〟ロンドンは、あさましさと危険性、不善と悪事が、ほかに類を見ないほど大量に渦巻く場所だと一般に見なされていた。つまり、ホームズがそれまでグラスゴーやカーディフ、バーミンガム、ブリストルなど〝停滞した〟地方や、その他のヨーロッパの町や首都にも見出せなかったほど、犯罪捜査の機会と犯罪学上の将来性がたっぷりあったということになる。そこで、世界で初めての諮問探偵として、世界第一の都市で仕事を始めようとするのは、いかにももっともなことだ。

ワトスンは〈入院患者〉(版によっては〈ボール箱〉)の冒頭でこう述べている。「未解決事件の噂や影がちょっとでもちらつこうものなら、すぐさま飛びつこうと、情報網をはりめぐらせ、ロンドン五百万市民のど真ん中に陣取っていたいのである」。また別のところでホームズはこの善良なる医師に言う。「人間がこれだけ密集して、お互いの行動が影響しあってくると、どんな出来事の組み合わせも可能になる」

だが実際には、そんなあまりにもホームズ的な期待は空振りに終わることばかりだ。犯罪発生率が低下し、取り締まりが強化される時代。煽情主義の新聞が正反対のことを書き立ててはいたものの、ロンドンは格段に安全な街となりつつあった。暴力犯罪が減って、悪事の大半はみみっちい軽微なものになり、売春と同様、犯罪もたいてい労働者階級に限られた。

そういうわけで、どんなに心から望んでも仕事が何もないと、ホームズがしょっちゅう嘆くことになる。彼は繰り返し不平をこぼす。「近ごろは、犯罪も犯罪者もたいしたものがなくなったよ」。「人間は―というと言い過ぎかもしれないが、ともかく犯罪者たちは、もう野心や独創性をすっかりなくしてしまったのかねえ」。「犯罪の世界じゃ、大胆な野望は絶滅してしまったんだろうか」。持ちこまれた犯罪が「ありふれたものだ」(これがキーワード)と彼は嘆く。興味深い、捜査しがいのある事件ではなく、平凡なものであり、「スコットランド・ヤードの刑事たちでも用が足りそうな、見えすいた動機の間の抜けた犯罪ばかりだ」というのだ。
※一部改行しました

原書房、アレックス・ワーナー著、日暮雅通訳『 写真で見るヴィクトリア朝ロンドンとシャーロック・ホームズ』 P42-43

この箇所は私も読んでいて意外でした。

なんと、ホームズの生きていた時代のロンドンは凶悪事件の少ない平和な街になりつつあったというのです。

たしかに産業革命によって19世紀前半まで労働者の環境は最悪な状況にあったのですが、ビクトリア朝全盛期ともなる19世紀後半には国民全体の生活水準が明らかに上がっていたというのは以前読んだカール・B・フレイ著『テクノロジーの世界経済史』でも説かれていたことでした。ですが、まさかここでホームズに繋がってくるとは。

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カール・B・フレイ『テクノロジーの世界経済史』あらすじと感想~産業革命の歴史と社会のつながりを学ぶ... この本ではなぜイギリスで産業革命が起きたのか、そしてそれにより社会はどのように変わっていったのかを知ることができます。 マルクスとエンゲルスは、機械化が続けば労働者は貧しいままだという理論を述べました。 たしかに彼らが生きていた時代にはそうした現象が見られていましたが、現実にはその理論は間違っていたと著者は述べます。 この伝記は産業革命とテクノロジーの歴史を知るのに非常におすすめな1冊となっています。

ホームズが生きたのはまさしくこうした繁栄を享受していた時代でした。この 『写真で見るヴィクトリア朝ロンドンとシャーロック・ホームズ』 で改めて写真つきで見てみると、知ってはいたもののやはりこうした事実は驚きでした。

マルクスとエンゲルスが『共産党宣言』を発表したのは1848年です。この頃はヨーロッパ諸国の労働者の環境は最悪で、しかもこれから先の展望も絶望的なものでした。そうした中で書かれたのが『共産党宣言』でした。マルクスとエンゲルスは1850年代には世界中で革命が起こり、資本主義は倒れると予想していたのですが、彼らの予想は外れることになります。

そしてマルクスは1850年代以降はずっと亡命者としてロンドンに住むことになります。そこで大英博物館の図書館にこもり研究に没頭。そして『資本論』が1867年に発表されることになります。

マルクスは1850、60年代のロンドンの労働者を見ながら彼の作品を書いています。(厳密に言えば彼の理論はもう少し前の時代の悲惨な労働者を基準にしています。「(40)イギリスヴィクトリア朝の繁栄と労働者の生活水準の上昇~プロレタリアートのブルジョワ化」の記事参照)

もし1880年代以降のロンドンの状況を見ていたらマルクスはどうなっていたのか、これは気になります。明らかに労働者の環境が改善している中で、これまでと変わらず最下層の労働者のみを見続けるのでしょうか。これは「歴史のもし」なので永遠にわかりませんが、これは非常に興味深いものでありました。

ホームズから1880年代以降のロンドンの雰囲気を掴むことができるのはとてもありがたいことでした。これまでただ楽しく読んでいたホームズ作品がまた違った顔を見せてくれたのでした。

気晴らしとしての読書の流行~人気雑誌の目玉としての『シャーロック・ホームズ』

ホームズが初めて出版物に登場してからニ一年たった一九〇八年、コナン・ドイルはシャーロック・ホームズ物語の新作、のちに短篇集『シャーロック・ホームズ最後の挨拶』としてまとめられる一連の作品を、《ストランド》のクリスマス号に間に合わせ、競争が激しさを増す中流教養者向けの雑誌市場においてクリスマス・シーズンを制した。

一八九一年と一八九二年に初期の作品が《ストランド》に掲載されたあと、コナン・ドイルが多額の原稿料を要求したことを考えると、金の卵を産み続ける鵞鳥に対する彼の態度はどこかちぐはぐだった。

シャーロック・ホームズは作者の思惑を超えて走りだし、さらにその先へ走りつづけた。もはやコナン・ドイルが制御しきれないところまで行ってしまったのだ。ホームズは、新種の出版社と新種の大衆階級によって生み出され、養われてきた。それらは、コナン・ドイルが一時的であってもホームズを切り捨てようとしつつ、そうするだけの文化的権限が自分にはないと気づいていたことに、大きく引き裂かれながらも、彼自身の力添えによって築かれたものだ。

《ストランド》は、ジョージ・ニューンズが最初で最高の〝魅力的な〟雑誌というふれこみで創刊した。《スクリブナーズ・マンスリー》や《ハーパーズ》といったアメリカの家族向け月刊誌を手本に、すべてのページに挿絵を入れるというぜいたくさで、価格は一シリングではなく六ぺンスに抑えられた。

創刊してまもなく、特徴的な青色の表紙がいたるところで目につくようになり、コナン・ドイル自身はスミスにこんな感想を漏らした。「かつて外国人は格子柄のスーツで英国人を見分けたものだが、そのうちに《ストランド》で見分けるようになるでしょうね。海峡連絡船に乗っている者は、操縦士をのぞいて誰もが《ストランド》を手にしていました」。

同誌は、新しい読書様式を生み出した新種の雑誌として迎えられた。ジャーナリストのウィリアム・トマス・ステッドは次のように評している。「手軽に隅から隅まで読め、色鮮やかでおもしろく、挿絵つきで、暇つぶしには理想的。また禁じられた憶測をそそのかす心配もなく、重すぎる思考の鍛錬を要求することもない」。〝思考の鍛錬〟をすることなく〝暇つぶし〟のひとつとして読むことは、読者の気晴らしを意味し、それはすなわちホームズ物語そのものの内容と意味の根幹を成しているということだ。これらの物語では必ずホームズの風変わりな性質と集中力が繰り返し強調され、散漫で無思慮な読者によって読まれては忘れられることを企図してつくられた。つまりホームズの物語は、集中力と散漫、短命と消費に関する現代的な観念をうまく利用したのである。(中略)

この読者層は広範囲にわたり、社会階級まで取り込んだ。《ストランド》はまもなくイギリス国内で月に三十万から四十万部を売り上げるようになり、実際には一号あたり約百万人が読んでいたと思われる。

つまり人々はこの雑誌をまわし読みし、図書館や喫茶店で読み、友人たちと共有し、古本屋へ転売したのだ。いくつかの作品は《ティットビッツ》に転載され、そこでまた次の読者を獲得した。この新たに産業化された読者層を形成していたのは、露天本屋から《ストランド》をひっつかんで船や列車や乗合馬車に駆け込み、移動中に読む人々だ。彼らは読み物をさっさと消費し、一時的もしくは部分的にしか集中せず、旅の不快さや息の詰まるような待合室での空き時間、毎日繰り返される通勤から気を紛らせるために読んだ。
※一部改行しました

原書房、アレックス・ワーナー著、日暮雅通訳『 写真で見るヴィクトリア朝ロンドンとシャーロック・ホームズ』 P 232-235

ホームズシリーズが人気が出たのも、こうした気軽に読める雑誌が出てきたという時代背景があったからこそでした。労働者階級の生活が上向き、余暇というものが生まれてきたのもこの時期です。かつては生きるためにやるべきことで精一杯で空いた時間など存在しなかったものが、機械化や産業形態の変化によって「余暇」が生じるようになったのです。また、教育水準が上がり、文字を読める人が増えたこと、そして気軽にレジャーに出かけたり、乗り物に乗る時間も増えた。これらも大きな要因だとされています。

そんな中で気晴らしとして好まれていたのが《ストランド》であり、その中でも圧倒的な人気があったのがシャーロック・ホームズだったのでした。

上の引用でも、『「手軽に隅から隅まで読め、色鮮やかでおもしろく、挿絵つきで、暇つぶしには理想的。また禁じられた憶測をそそのかす心配もなく、重すぎる思考の鍛錬を要求することもない」。〝思考の鍛錬〟をすることなく〝暇つぶし〟のひとつとして読むことは、読者の気晴らしを意味し、それはすなわちホームズ物語そのものの内容と意味の根幹を成しているということだ。これらの物語では必ずホームズの風変わりな性質と集中力が繰り返し強調され、散漫で無思慮な読者によって読まれては忘れられることを企図してつくられた。つまりホームズの物語は、集中力と散漫、短命と消費に関する現代的な観念をうまく利用したのである 」』と述べられているのは非常に興味深いですよね。

かつて、新聞や雑誌は政治的なものでした。19世紀中頃のパリではバルザックなどの小説を掲載していた娯楽新聞もどんどん台頭していましたが、新聞というのは政治や思想に関わるものを宣伝するために活用されていました。

しかし娯楽、レジャーに特化した新聞が出てくると、それらの新聞はかつての難しく、うんと頭をひねらないとわからないようなものから、気楽に楽しめるものへと内容も変わっていきます。

上の引用で述べられていた「 禁じられた憶測をそそのかす心配もなく、重すぎる思考の鍛錬を要求することもない 」というのはそういうことです。過激な政治的、宗教的思想や一歩間違えば社会から猛批判を浴びたり、逮捕されてしまいかねないものでした。そしてそれらを理解するには当然「思考の鍛錬」も必要です。

余暇の気晴らしでわざわざそんな辛いことをしたいと思う労働者などほとんどいないというのは頷けますよね。それは現代も同じだと思います。

何も考えずに気晴らしができ、時間も潰せて、なおかつ楽しいもの。それを人々は求めていたのです。そしてその最大の人気者こそシャーロック・ホームズなのでした。

繰り返し掲載されるものの、連載ではない構造により、ドイルはホームズを使い捨ててかまわないと考えていた。また読者には、一話を読み終えたら立ち去っていいのだと、たとえば連載小説を読むように前回のエピソードや次回のエピソードにつなげようとしなくていいのだと思わせた。シャーロック・ホームズの物語はどれも、あっという間に忘れ去られ、何の痕跡も残さなかったかもしれない。実際、《ストランド》の編集者はそのことに気づき、あるときコナン・ドイルに次のような要望を書き送った。「物語の始めに数行書き加えて、シャーロック・ホームズという人物をもっと理解してもらうことはできないでしょうか」。まだこの探偵に出会ったことのない読者のために。

リーズ大学准教授ジム・マッセルが指摘したように、こうした慣例は《ストランド》全体に共通したものだった。「《ストランド》は一巻ごとにほぼ完結していて、連載記事はほとんどなく、物語が複数巻に渡って掲載されるのはまれだった」。

読者の集中力は次の巻までもたなかったし、雑誌のほうにも「記憶カ」などなかった。そもそも《ストランド》は、たやすく消費され、すぐに捨てられることを目的に商品化されたのだから。
※一部改行しました

原書房、アレックス・ワーナー著、日暮雅通訳『 写真で見るヴィクトリア朝ロンドンとシャーロック・ホームズ』 P 240

この箇所もなかなか鋭い見解ですよね。

ですが、たしかに言われてみるとその通りだなとも思います。

あまりに長い長編小説だと、読み進めている内にそれまでのことを忘れてしまったり、こんがらがってしまうこともありますよね。まして、連載物として期間を開けながらの購読となるとよりその負担は増してしまいます。

ですがシャーロック・ホームズはありがたいことに短編物なので一話完結です。それ以前の話もこれからの流れも考える必要はありません。その一話を楽しめばそれでよいのです。これは気楽ですよね。

ドストエフスキーや、ユゴーエミール・ゾラバルザックなど、長編小説の書き手はその長いストーリーの中でじっくりと人物像や思想を描いていきます。そこで描かれる壮大な物語や思想は、それだけの文章量が必要だからこそ長編となったものです。

もちろん、短編作品だからといってそこに深い思想がないというわけではありません。チェーホフは大量の短編作品を生み出していますがその深みたるや驚くべきものです。カフカもそうですよね。

作品の長い短いですべてをひとまとめにすることはできません。

ですがシャーロック・ホームズはこの一話完結の短編であることのメリットが最大限に生かされた作品であると言うことができるかもしれません。

ただ、これまで引用してきた解説を読むと、「それならシャーロック・ホームズは読者に何も考えさせずに楽しませる単なる娯楽作品に過ぎないのか。そんな言い方は乱暴なのではないか」と思ってしまうかもしれません。

ですがご安心ください。

もしシャーロック・ホームズが単にそれだけの作品であるならば、100年以上も経った今も愛され続けているはずがないのです。

やはりシャーロック・ホームズには底知れない魅力があるのは間違いありません。

ミステリーものなどではよく「ネタバレ厳禁」というのがありますよね。ですが、これは裏を返せばその驚きの展開を知ってしまったらその魅力が失われてしまう作品ということです。ミステリーはそうした驚きの展開やトリック、動機を知って楽しむものですからそうした面が特に出やすいと思います。

ですが、シャーロック・ホームズはすでに100年以上も前の作品です。これまで何度リメイクされてきたでしょうか。もはやネタバレどころの話ではありません。

それに私はホームズシリーズを何度も読み返していますが、結末を知っていてもやはり面白いんです。ミステリー小説でありながら何度読んでも面白いというのはとてつもないことだと思います。

この本ではそうしたシャーロック・ホームズの魅力や「なぜこんなにも人気になったのか」ということが余すことなく説かれています。写真や資料と共に解説されるので読みやすさ、イメージのしやすさも抜群です。

マルクスの生きた時代背景を知るために元々手に取ったこの本ですが、その狙い通りヴィクトリア朝後期のイギリスの社会情勢を知る上でも非常に役に立ちました。

これはぜひぜひおすすめしたい作品です!

せっかくホームズとマルクスが繋がったので次の記事からはシャーロック・ホームズシリーズの作品を紹介していきたいと思います。ぜひ気軽に楽しめるシャーロック・ホームズ作品との出会いに繋がって頂ければ私としては光栄に思います。

以上、「A・ワーナー『写真で見るヴィクトリア朝ロンドンとシャーロック・ホームズ』~ホームズ人気の秘密や時代背景も知れるおすすめ本!」でした。

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この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

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