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なぜ仏教僧侶の私がヒンドゥー教について学ぶのか~仏教聖地を巡ればよいではないかという疑問に答えて

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【インド・スリランカ仏跡紀行】(11)
なぜ仏教僧侶の私がヒンドゥー教について学ぶのか~仏教聖地を巡ればよいではないかという疑問に答えて

前回の記事「(10)インドは最後までインドだった。目の前で起きた交通事故の運転手に度肝を抜かれた最終日」までで私の第一次インド遠征についてお話しした。

インド4日目にして激しい下痢と嘔吐に襲われるなど散々な目に遭った初めてのインドではあったものの、私にとって実に刺激的なインド体験となった。(この事件については「(8)ついにやって来たインドの洗礼。激しい嘔吐と下痢にダウン。旅はここまでか・・・」の記事参照)

さて、ここまでの連載でガンジス川上流のヒンドゥー教の聖地について皆さんにお伝えしてきたが、こう思われた方もおられるかもしれない。

「仏教僧侶なのになぜそこまでしてヒンドゥー教の聖地を巡らなければならないのか。仏教の聖地を巡ればそれでよいではないか」と。

まさにごもっともな疑問である。仏教を学ぶのなら仏跡に行けばよいのである。

だが私はそうしなかった。

そこには私なりの勉強のスタイル、旅の流儀があるのである。

これまで当ブログの様々な記事でもお話ししてきたように、私は「宗教は宗教だけにあらず」という考え方をモットーにしてきた。

宗教は単に教義や信仰、儀礼だけで存在するのではなく、政治経済、国際情勢、地理風土、国民性、思想文化など当時の時代背景すべてと関連し合いながら成立している。つまり、時代背景を無視しては宗教は存在しえないのである。

仏教の開祖ブッダ(お釈迦様)はおよそ2500年前、ネパールの小国に生まれ、インドで悟り仏教を広めた。

この偉大なる開祖の生涯については当ブログでも【仏教講座・現地写真から見るブッダ(お釈迦様)の生涯】という連載記事を掲載したのでこちらをぜひ参照頂きたいのだが、まさにこのブッダという存在も当時のインドという文脈の下生まれた存在だった。

ブッダの教えがなぜインドで広がったのか、その教えの何にインド人は惹かれたのだろうか。その鍵となるのが古代インドの時代背景なのだ。仏教の独自性を知るためには当時のインド人における「普通の考え方」を知らねばならない。そのインドの「普通の考え方」を打破して生まれてきたのが仏教なのだ。

つまり、仏教についてより深く学ぶためにはどうしてもブッダが生きた古代インドの文脈を学ばねばならないのである。

そしてそこでさらに有効になってくるのが「比較」という方法だ。

比べてみるからこそ初めて見えてくるものがある。

たとえば「青」という色ひとつ取ってみても、ただそこにひとつ置いただけではそれはただの「青」である。だがふたつのものを並べて置いてみることで初めてどちらがより濃い青だ薄い青だという判断ができる。宗教においてもそれは同じだ。比べてみることで両者の違いや特徴がより見えてくるのである。

僧侶だからといって仏教だけを見ていても見えてこないものがある。視野を広くし、他者と比べてみることで自分達の姿が見えてくる。鏡がなければ自分の姿は見えない。仏教を考える上で他の宗教はまさに鏡の役割ともなるのだ。

こうした考えの下、私は2019年に世界一周の旅に出た。

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この旅では宗教の源流を訪ねるためにアフリカのタンザニアをスタート地点にした。「宗教とは何か」を考える上で「そもそも人間とは何か」を考えねばならないと私は思ったのである。だからこそ私は「人類発祥の地」オルドバイ渓谷を目指してアフリカへと向かった。

そこからキリスト教、イスラム教の聖地だけでなく、宗教が絡んだ民族紛争の地などを訪れ、宗教とは何か、自分にとっての仏教とは何かを考え続けた。

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そして帰国後世界一周の記事をまとめながら私が出会ったのがロシアの文豪ドストエフスキーだったのである。

フョードル・ドストエフスキー(1821-1881)Wikipediaより

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私とドストエフスキーの出会いについては上の記事でまとめているのでここでは割愛するが、ここでも親鸞とドストエフスキーを比較することで私は自分にとっての仏教を考え続けてきたのである。

そしてこの「親鸞とドストエフスキー」の研究はほぼまる4年に及ぶこととなった。これは私にとっても予想外の長さであった。

研究を始めた当初はドストエフスキーの全著作を読み、それに関する参考書を読んで終わりにするはずだったのである。

しかしそれらの参考書を読み始めると、例のごとく私の中で時代背景への探究心が燃え上がってきたのである。

ドストエフスキーはどんな時代を生きたのか。同時代人は何をしていたのか。いや、そもそもロシアはどんな国なのだろうか。

こうして私の好奇心は連鎖反応を起こし、いつの間にかその関心はロシアに留まらずイギリスやフランス、ドイツ、イタリアなどヨーロッパ諸国の歴史や文化にまで拡大していったのである。

当ブログを見て下さった方の多くがその2000にも及ぼうかという記事数に驚かれるのだが、それはこういう理由があったのである。

何より、私自身も驚いている。まさかここまで広範囲にわたって歴史や文化を掘り起こすとは想像だにもしていなかったのだ。

そしてその集大成として私は2022年にヨーロッパに旅に出た。

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この連載はまさに私の渾身の旅行記である。上でも紹介した【仏教講座・現地写真から見るブッダ(お釈迦様)の生涯】のドストエフスキー版とも言える作品だ。【ブッダの生涯】もブッダを知らない方でもわかりやすく読んでもらえることを念頭に置いて書いたが、まさにこの旅行記もドストエフスキーを知らない方にも楽しく読んで頂けるよう執筆した。

ドストエフスキーといえば暗くて難解で重厚なイメージがあるかもしれないが、本人その人はまた違った側面を持った人なのである。

天才作家ドストエフスキー。

ギャンブル中毒で妻を泣かせ続けたダメ人間ドストエフスキー。

愛妻家ドストエフスキー。

子煩悩ドストエフスキー。

最高のパートナーを得てギャンブル中毒を克服したドストエフスキー。

コーヒーを得意になって碾くドストエフスキー。

様々なドストエフスキーをこの旅行記では紹介した。

私はこの旅行記でドストエフスキーの人柄や時代背景に着目しながら彼を描いてみた。この旅行記はいわば伝記と旅行記のハイブリッド作品だ。この試みが私の【ブッダの生涯】にも繋がっているのである。【ブッダの生涯】や今連載している【インド・スリランカ紀行】を楽しんで頂けた方ならこの旅行記も楽しく読んで頂けるのではないかと確信している。

こういうわけで、私は何か一つのことを知ろうとするとその背後の無数の事象にまで興味関心が湧いてしまうタイプの人間なのである。

まさに無限ループ。知れば知るほど知らないことが増えてしまうのだ。何かを知ればその背景が知りたくなる。その背景を知ればさらにその背景や関連性を知りたくなる・・・。こんなことをしていればいくら時間があっても足りないのは当然だ。

今回の旅行記の各記事末尾に参考文献をまとめた記事を掲載しているのを皆さんも見られたと思う。その中の「インドの歴史・宗教・文化について知るのにおすすめの参考書一覧」を見て驚かれた方も多いのではないだろうか。

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なんと、その最初に紹介されている本がインダス文明についての本なのである。

そう。私は仏教を学ぶためにインダス文明からさかのぼってインドを学び始めたのだ。そしてそこからヒンドゥー教の母体となったバラモン教も含めてインド宗教や歴史、生活文化の本も読み漁った。

こういうわけで私にとってヒンドゥー教を学ぶことは仏教を学ぶ上で絶対に必要なものだったのである。

だからこそ、インドの一番最初にヒンドゥー教の聖地ハリドワールを選んだのである。そしてここを選んだのは大正解だった。これほど強烈にインドを体感できる場所はそうそうない。事実、3回のインド渡航を通して最も強烈にインドを感じたのがここだったのである。一番最初にこれほど濃厚な体験ができたのは幸運としか言いようがない。

そして最後にもうひとつ。私の旅のスタンスについて少しだけお話ししたい。

私は現地に向かう前にできるだけ入念に下調べをすることを大切にしている。今回のインドもそうだ。できる限り本を読んで知識を蓄え、自分なりのインド像を構築し、それを確かめにインドに行くのだ。つまり答え合わせである。

2019年の世界一周の時もそうだったが、これだけの旅をすると周りからよくこう聞かれたものである。「自分探しの旅に出たのですか」と。

いえいえとんでもない。真逆も真逆。すでに私の中には確固たるものがあるのだ。そしてその答え合わせのために旅に出るのである。それが合っていようが間違っていようが問題はない。大事なのはそこで自分が何を感じるかなのである。本で学んだことが自分の血肉になるために、私にはこういう過程が必要なのだ。

というわけで、私がなぜインドの最初にハリドワールを選んだかがよくわかったのではないだろうか。

これが私のスタイルなのである。

ドストエフスキーを学ぶためにロシア史や西欧史、文学や絵画、クラシック音楽まで学び、仏教を学ぶにもまずはインダス文明から入るのである。

あまりにも遠回りな学び方なのかもしれないが、私にはこれしかできないのである。基本的に、私は不器用な人間なのだ。

さて、鬼門であったハリドワール、リシケシを終えて次はいよいよ本丸のインド・スリランカである。

次の記事では10月末より出発したこの「インド・スリランカ」の大まかな行程とその狙いについてお話ししていきたい。

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【インド・スリランカ仏跡紀行】の目次・おすすめ記事一覧ページはこちら↓

※以下、この旅行記で参考にしたインド・スリランカの参考書をまとめた記事になります。ぜひご参照ください。

「インドの歴史・宗教・文化について知るのにおすすめの参考書一覧」
「インド仏教をもっと知りたい方へのおすすめ本一覧」
「仏教国スリランカを知るためのおすすめ本一覧」

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この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

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