MENU

石井米雄『タイ仏教入門』あらすじと感想~上座部仏教が今なお息づくタイの仏教について知るのにおすすめの入門書

タイ仏教入門
目次

石井米雄『タイ仏教入門』概要と感想~上座部仏教が今なお息づくタイの仏教について知るのにおすすめの入門書

今回ご紹介するのは1991年に株式会社めこんより発行された石井米雄著『タイ仏教入門 (めこん選書 1)』です。

早速この本について見ていきましょう。

 仏教がインドで滅びたのはなぜか。厳しい修行による自己救済という理想がひとにぎりの強者のみに到達可能な道だったからである。では、同じ上座仏教がタイで繁栄を続けているのはなぜか。一般大衆がそこに別の魅力を見出し、新しい信仰の体系を作り上げたから二つの宗教が整合性を失わず、ひとつの「タイ仏教」として存在するのはなぜか。タイ研究の碩学が若き日の僧侶生活の体験をもとに、タイ仏教のダイナミズム、その繁栄の謎をきわめてわかりやすく解き明かしてくれます。タイ社会を知るための入門書でもあります。

Amazon商品紹介ページより
村民より食料を受け取る僧侶 Wikipediaより

この本はタイ仏教について学べるおすすめの入門書です。

日本とタイの仏教はかなり異なります。その違いをこの本では様々な観点から見ていきます。

著者はこの本について「はじめに」で次のように述べています。

わたくしはかつてタイに数年を過ごし、その間人びとの日常生活の隅々にしみわたっている仏教の実態にふれることができた。その時痛感したのは、日本とタイの仏教の内容とそのあり方の違いである。どうやら日本との共通点と考えられがちなタイの仏教は、おなじ「仏教」という名で呼ばれるものの、われわれの常識のなかにある仏教とはまったく別物と考えたほうがよいようである。(中略)

わたくしはこの小さな本のなかで、タイ人にとって仏教とはなにか、という設問に対するわたくしなりの解答を出してみた。タイ人とタイの文化について関心を持つ読者も、それぞれの個人的体験や知識に基づいて読者なりの答えを考えて頂きたいと思う。この本をそうした試みのための手引きとして利用して頂くことができれば、著者の目的は達したといってよい。

株式会社めこん、石井米雄『タイ仏教入門 (めこん選書 1)』P1-2

タイに長く滞在し研究調査をした著者ならではの、現地のリアルな仏教な姿を知ることができるのがこの本の魅力です。

上の引用で著者が「タイ人とタイの文化について関心を持つ読者も、それぞれの個人的体験や知識に基づいて読者なりの答えを考えて頂きたいと思う」と述べるように、この本を読めば様々なことを考えさせられることになります。

私ももちろん、仏教について様々なことを思わずにはいられませんでした。ただ、それはネガティブな意味ではなく、両者の違いを知ることでより自分たちの仏教についての思いが深まるというポジティブな思いです。

また、この本の中で特に印象に残った箇所を紹介します。

はじめてタイ国を旅行する人がいたら、わたくしは、まず、早起きをおすすめしたい。日中には、たちまち三七、八度にはねあがるバンコクの暑さも、日の出のころには朝風がさわやかに吹いて、つかのまの清涼を味わうことができる。しかし、早起きの功徳はこれだけではない。早朝のひと時以外には、たとえ万金を積んでも実現することのできない、タイ仏教の生きた側面を、同時にかいま見ることができるのである。

こころみに、ホテルの窓から外の景色を眺めてみよう。まだ人影もまばらな街なみにそって、あるいは両腕に鉄鉢をかかえ、あるいは左肩から鉄鉢を下げた黄衣裸足の托鉢僧の姿が、きっと目につくにちがいない。

ひとりの僧の動きに注目してみよう。彼は、やがて一軒の家の前に立ちどまるだろう。そこには、なにやら鉢のようなものを盆にのせ、僧を迎える老婆の姿がある。ズームレンズをぐっとしぼりこんでみよう。鉢のなかは、たきたてのご飯のようだ。そのわきに積まれたバナナの皮包みには、なにが入っているのだろうか。もしかするとトウガラシのピリッときいた鳥の「ホーモック」かもしれない。黄衣の僧は、だまって鉄鉢のふたをあけた。老婆は、右手に持った大さじで、まだ湯気のたつ真っ白なご飯を、ひとすくい、ふたすくいと、差し出された鉄鉢に移し入れる。それから、盆の上の緑色のおかず包みをひとつ取ると、これを静かに鉄鉢のご飯の上にのせた。行乞の僧は、無言で鉄鉢のふたを閉じる。老婆は一歩下がって、うやうやしく合掌しながら、立ち去ってゆく僧の後ろ姿を見送っている。

托鉢は、バンコクの朝をいろどる風物詩だ。澄みわたる青空。緑の街路樹。朝日に照り映える寺院〈ワット〉の朱甍。すべてが明るく、すべてが原色ずくめのタブローのなかでも、ひときわあざやかな三衣の黄橙色は、行きずりの旅行者の目にも、強烈な印象となって残るにちがいない。

株式会社めこん、石井米雄『タイ仏教入門 (めこん選書 1)』P33-34

私はタイに行ったことがありません。ですがこの箇所を読み猛烈に行きたくなってしまいました。

元々いつか東南アジアに行って現地の仏教を見てみたいという気持ちがあったのですが、この箇所はその決定打になりました!

この本では難解な哲学や教義について語られるのではなく、あくまで入門書ということで現地の人々の生活や仏教僧の日々の姿が説かれます。

タイの仏教徒が何をもって救いと考えているのか、なぜ仏教を篤く信仰しているのかということも知ることができます。

日本仏教とは違った仏教の姿を垣間見れる本書はとても刺激的です。ぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。

以上、「石井米雄『タイ仏教入門』~上座仏教が今なお息づくタイの仏教について知るのにおすすめの入門書」でした。

Amazon商品ページはこちら↓

タイ仏教入門 (めこん選書 1)

タイ仏教入門 (めこん選書 1)

次の記事はこちら

あわせて読みたい
杉本良男『スリランカで運命論者になる 仏教とカーストが生きる島』あらすじと感想~上座部仏教の葬儀や... 著者は実際に現地に赴き、そこで人々と接しながら現地の宗教や生活文化そのものについて見ていきます。文献だけではわからない現地の微妙な問題や曖昧な部分まで見ていけるのが本書の魅力です。 特にスリランカにおける葬儀や結婚などの儀礼についてのお話は非常に興味深かったです。

前の記事はこちら

あわせて読みたい
『東南アジア上座部仏教への招待』概要と感想~日本と異なる東南アジアの仏教を知るのにおすすめ! 上座部仏教とは何か、そしてそこに生きる人々の生活レベルでの仏教を知れるこの本はとても刺激的でした。日本仏教との違いや共通点を考えながら読むのはとても興味深かったです。

関連記事

あわせて読みたい
【現地写真から見るブッダ(お釈迦様)の生涯】⑴ネパール、ルンビニーでの王子様シッダールタの誕生! 今回の記事から全25回の連載を通してゴータマ・ブッダ(お釈迦様)の生涯を現地写真と共にざっくりとお話ししていきます。 私は2024年2月から3月にかけてインドの仏跡を旅してきました。 この連載では現地ならではの体験を織り交ぜながらブッダの生涯を時代背景と共に解説していきます。
あわせて読みたい
馬場紀寿『仏教の正統と異端 パーリ・コスモポリスの成立』あらすじと感想~スリランカ仏教とインドとの... この本はものすごく面白いです!インド、スリランカの仏教を国際政治、内政の視点から見ていくというのはありそうであまりなかったのではないでしょうか。 私も今年スリランカに行く予定でしたのでこれはものすごくありがたい本でした。
【日々是読書】僧侶上田隆弘の仏教...
404: ページが見つかりませんでした | 【日々是読書】僧侶上田隆弘の仏教ブログ 本を愛する浄土真宗僧侶です。仏教コラム、インド・スリランカ仏跡紀行、おすすめ本紹介、【親鸞とドストエフスキー・世界文学】など様々な記事を更新しています。
あわせて読みたい
『新アジア仏教史02インドⅡ 仏教の形成と展開』概要と感想~仏教のイメージが覆る?仏教学そのものの歴... 私達が当たり前だと思って享受していた〈仏教学〉が日本の仏教思想や文化とは全く無関係に生まれたものだった。 この本を読めば〈仏教学〉というものがどんな流れで生まれてきたのか、そしてそれがどのように日本にもたらされ、適用されることになったのかがよくわかります。
あわせて読みたい
辛島昇・奈良康明『生活の世界歴史5 インドの顔』あらすじと感想~インド人の本音と建て前。生活レベル... 本書では宗教面だけでなく、カーストや芸術、カレーをはじめとした食べ物、政治、言語、都市と農村、性愛などなどとにかく多岐にわたって「インドの生活」が説かれます。仏教が生まれ、そしてヒンドゥー教世界に吸収されていったその流れを考える上でもこの本は非常に興味深い作品でした。
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

コメント

コメントする

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください

目次