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J・クラブツリー『ビリオネア・インド』あらすじと感想~インド版オリガルヒの存在!腐敗、縁故主義のインド超格差社会を学べる一冊!

ビリオネアインド
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J・クラブツリー『ビリオネア・インド』概要と感想~インド版オリガルの存在!腐敗、縁故主義のインド超格差社会の実態を学べる一冊!

今回ご紹介するのは2020年に白水社より発行されたジェイムズ・クラブツリー著、笠井亮平訳の『ビリオネア・インド 大富豪が支配する社会の光と影』です。

早速この本について見ていきましょう。

超富裕層(スーパーリッチ)の生態から見えてくる、繁栄と腐敗の構造

政官財の癒着、蔓延する縁故主義、地方政界にまで及ぶ金権政治――スーパーリッチの生態を通してインド社会の諸相を描いた傑作。

本書は、経済自由化以降の急激な成長によって誕生した超富裕層の実態に深く切り込み、インドの経済・政治・社会の諸相を、ときに魅力的に、ときに生々しく描き出したノンフィクションである。380億ドルという途方もない個人資産を持つインド最大の富豪ムケーシュ・アンバニをはじめ、ビジネスのさまざまな分野で成功を収めた億万長者が何人も登場するが、単なる「成金列伝」ではない。政官財の癒着、蔓延する縁故主義、地方政界やスポーツ界を蝕む汚職体質など、サクセスストーリーの裏に見え隠れする負の側面から、インド社会に根深く残る腐敗の構造をあぶり出していく。
『フィナンシャル・タイムズ』の記者だった著者は、19世紀後半のアメリカの「金ぴか時代」に現在のインドを重ね合わせたうえで、アメリカではその後、政治の透明性向上や中産階級の拡大といった変化がもたらされたが、インドも近い将来、そうした「革新主義時代」に移行することができるだろうかと問う。
グローバル経済の功罪、新興国の経済発展と政治、貧富の格差といった現代世界が直面するさまざまな問題を考えるうえで示唆に富み、読み応え十分の一冊。

Amazon商品紹介ページより

2023年に中国の人口を追い越し、経済成長著しい大国インド。モディ首相率いるインドはこれからどこへ向かうのか。今や世界に巨大な影響を与える存在となった現代インドについて知るのにこの本はうってつけです。

『ビリオネア・インド 大富豪が支配する社会の光と影』という書名にあるように、この本ではインドにおける超富裕層をメインテーマに据えてインドを見ていきます。

本書について巻末の訳者あとがきでは次のように述べられています。

本書は「億万長者」あるいは「大富豪」を軸に据えて、現代インドという途方もなく巨大で手強いテーマに取り組んだ骨太のノンフィクションだ。著者のジェイムズ・クラブツリー氏は『フィナンシャル・タイムズ』のムンバイ支局長としてニ〇一一年に赴任し(ちょうどわたしとは入れ違いということになる)、一六年まで約五年間にわたり激動のインドを取材してきた。プライべートジェットに同乗して若き大物経営者に話を聞きに行ったかと思えば、BJPの地方支部に足を運び、選挙の大勝に酔いしれる支持者の様子を確かめに行く。あるときはロンドンに飛んで事実上の逃亡生活を送る豪商の言い分に耳を傾け、またあるときはウッタル・プラデーシュの小さな町で人びとに身近な腐敗の現状を尋ねる。こうした多方面にわたる取材をもとに、数々の大富豪の興亡と彼らがいかに政治との関係を構築してきたか、インドを蝕む腐敗―それは国民的スポーツのクリケットにも及んでいる—の実態、煽情的な傾向を強めるニュースメディアといった巨大国家の諸側面に切り込んでいる。クラブツリー氏にとっては本書が初の著書というが、冷静さと客観性を失わずに、それでいて現場の空気感をしっかりと伝え、込み入った経緯を平易に解きほぐしていく彼の筆致に舌を巻いた。

白水社、ジェイムズ・クラブツリー、笠井亮平訳『ビリオネア・インド 大富豪が支配する社会の光と影』P444

この本を読んでまず驚くのはインドの大富豪のあまりの富豪っぷりです。世界の富豪ランキングの上位に食い込むような超富裕層がインドで次々と生まれています。

アンティリア Wikipediaより

こちらはこの本の冒頭で登場する大富豪ムケーシュ・アンバニの自宅アンティリアです。本書の表紙にもなっていますが、この建物は世界で最も高級な個人宅とも言われています。もしかすると「これくらいのビルなら世界にたくさんあるのでは?」と思うかもしれません。ですが違うのです。このビルの一部が彼の家というのではなく、このビルそのものが個人宅なのです。そう考えるとアンバニの驚くべき富豪ぶりが見えてきますよね。

このアンティリアについて著者は次のように述べています。

ムケーシュ・アンバニが自分と妻、三人の子どもたちのために建てた高層住宅、アンティリア。この建物ほどインドの新エリート層が持つ権勢をはっきりと象徴するものはほかにないだろう。高さ一六〇メートルの鉄とガラスでできたタワーは、敷地面積こそわずか一二〇〇坪あまりだが、総床面積はヴェルサイユ宮殿のざっと三分のニにもなる。一階はホテルにあるような大ホールで占められ、総重量二五トンにもなる外国製シャンデリアの数々がよくマッチしている。駐車用の六つのフロアは一家が所有する車のコレクション置き場となっている一方、数百人規模のスタッフ集団が家族からのさまざまなニーズに対応するべく控えている。上層階ではラグジュアリーな居住スぺースと空中庭園が目を引く。最上階のレセプションルームは三方がガラス張りになっており、広々とした屋外テラスに出るとムンバイの街を一望することができる。階下にはジムとヨガスタジオを備えたスポーツクラブがある。サウナの逆バージョンのような「アイスルーム」は、ムンバイの厳しい夏の暑さから逃れることができる施設だ。ぐっと下がり地下二階に行くと、そこはアンバニ家の子どもたちのレクリエーションフロアになっており、サッカー場やバスケットボールのコートまである。

長年にわたり、ムンバイは分断された都市であり続けてきた。財界の大物や投資家の住宅街があるかと思えば、そのすぐそばにトタンやビニールシートが屋根代わりの掘っ立て小屋が立ち並ぶ、高密度の巨大都市。アンティリアはこの分断をさらに増幅させているだけにすぎないようだ—ムンバイは貧富が両極端なことで知られているが、そびえ立つ建物そのものがさらに上の階層、、をつくり出しているかのように。

白水社、ジェイムズ・クラブツリー、笠井亮平訳『ビリオネア・インド 大富豪が支配する社会の光と影』P19-20

いかがでしょうか。アンティリアの凄まじさがここを読んで伝わったのではないでしょうか。

今インドではこうした超富裕層がどんどん出てきています。彼らは圧倒的な富を手にしていますが、その一方で上に説かれたような格差の問題がインドを揺るがしています。

インドでは元々格差が大きいことは知られていましたがここに来てその格差がさらに極端なものになっています。これが現代インドの悩みの種となっています。

ではそんな超富裕層はどのようにして生まれてきたのか、それを見ていけるのが本書になります。そして本紹介にありましたように、その主な理由が政財界との癒着、縁故主義、汚職、賄賂などの不正という、目を背けたくなるような現実でありました。

本書ではそうして生まれた超富裕層をボリガルヒと呼んでいます。これはロシアの新興財閥「オリガルヒ」から取られた造語です。よくインド映画をハリウッドからもじってボリウッドと呼ぶように、ここでも「ボリガルヒ」という言葉が用いられています。

「オリガルヒ」といえば以前当ブログでも紹介したM・I・ゴールドマン著『強奪されたロシア経済』に詳しく解説されています。オリガルヒはソ連崩壊後、性急な市場経済への転換に乗じて、国家財産、メディア、世界最大級の天然資源を独占し、巨万の富を築いた新興財閥を指します。このオリガルヒとボリガルヒには共通点があります。それが上で述べたような政財界との癒着、縁故主義、汚職、賄賂です。ロシアのオリガルヒは今回のウクライナ侵攻によって世界中によく知られることになりましたがここインドでも同じことが起こっていたことを知ることになりました。

せっかくですのでロシアのオリガルヒについてわかりやすく語られている箇所をご紹介します。今作『ビリオネア・インド 大富豪が支配する社会の光と影』を読む上でも参考になるので、少し長くなりますがじっくり読んでいきます。

ちょっと、想像してほしい。―日本中のすべてのビジネスは、日本政府が七〇年にわたって所有し経営にあたってきた。そこへ突然、首相と国会が決定する。すべてを国有から私有に移すことにする、わが国におびただしく存在する原油の油田、天然ガス田、鉄鉱山、非鉄金属鉱山ももちろんこれにふくまれる、と(日本がそんなにラッキーな国だといいのだが)。

これらの資産は日本国民全体が所有者ということになってきた。したがって、国有財産の売却にさいしては、売却額がどれほどになるかはさておいて、国民の一人ひとりがそれぞれ分けまえを受けとるというのが理の当然であろう…。

さらに想像を続けてほしい。実際にはそうはならないで、あたらしくオーナーになるのがひとにぎりのごく少数の連中だとわかったとき、どんな反応が起きるだろう、と。

この連中をわたしたちはオリガルヒとよぶことにしよう〔権力とむすびつき利権を獲得して一挙に富裕化した、エリツィン・ロシアの申し子ともいえる「オリガルフ」(寡頭支配者・寡占資本家)の複数が「オリガルヒ」。組織としての寡頭支配制はオリガルヒア、その複数がオリガルヒー。いずれも「新興財閥」とよばれることが、日本では多い〕。かれらのうちすくなからぬ者は、私有化が始まるまえは闇市場で商売をし、あやしげな取り引きで悪名をあげつつあった。

そのこと以上に、心おだやかではいられないことがある。ほんの一五年まえまでは財産とよべるほどのものは何ひとつもっていなかったこれらオリガルヒのうち、一七人が、アメリカの雑誌『フォーブズ』が毎年発表する世界の億万長者リストに突然そろって登場するのである。同時に別の事態も進行する。このグループが日一日と金持ちになっていく一方で、日本国民の三分の一が、一夜にして貧困線以下の生活をするようになる。つまり、比較的平等な社会(平等に金持ちでないというべきかもしれないが)としてやってきたものが、少数の億万長者がいて、そのまわりを釣り合いのとりようもないほど多数のきわめて貧しい人びとがとりまいている、という国になりかわるのである。

これにくわえて、これらあたらしく出現するオリガルヒは、ちょっぴりでも起業家精神を発揮してそんな大金持ちになるのかといえば、そんなことはほとんど何もしないのである。かれらは投資家でもなければ、活動をとおして付加価値を生みだしてくるわけでもない。かれらの富は、所有権を強奪することで手に入れるものなのである。

そのさいかれらが使う一連のテクニックは、だまし、暴力、そしてそれ以上にひんぱんにワイロ、政治家と示しあわせて痒い背中をかきあうこと(このまえはきみに便宜をはかってやった。今度はきみがしてくれる番だ)などである。このじつに少数の人間がじつに豊かで、じつに多数の人間がじつに貧しいという比較的あたらしい環境のもとで、このプロセス全体にたいしてふかい恨み・つらみの感情が蓄積されていくのは避けようがない。(中略)

オリガルヒが奪取していく獲物―私有化の決まった国有財産をわがものにしていく「盗品」といってよい―の膨大さを目のまえにしながらも、ロシアの国民大衆は比較的受け身だった。

ロシア人はむかしから苦難を味わってきた。かれらの歴史は、人民が反抗もしないでいかに不正に耐えてきたか、その実例にみちている。

だが、おもてむきは受け身に見えるものの、こんにちの平均的ロシア人が私有化の手順がデザインされ実施されたやり口に胸がかき乱され、おさまらない気持ちになっていることに、うたがいはない。

そのことは世論調査にも反映しており、七〇%(ときには九〇%)もの人が、結果をもとにもどして私有化をやり直すこと、に賛成と回答している。この数字は驚くにはあたらない。とりわけロシアのふつうよりは一段と値打ちの高い資産の私有化をめぐっては、詐欺・殺人にはじまってその他もろもろの不正・腐敗のうわさが絶えないからである。

それに、オリガルヒがあたらしく手に入れた豪邸や、自家用ジェット機や、美人コンテス卜に出せば優勝しそうなガールフレンドを得意気に披露する姿が報道されたりするのも、かれらのプラスにはならなかった。

ロシアの天然資源を外国へ輸出しこうしてためこんだお金を外国へもちだして資本逃避をやらかしたり、そこから二億ドルも引きだしてロンドンのサッカー・チームを買収した、などと聞かされると、いっそう胸かきむしられる思いがしたはずだ。そんなお金があったら、ロシアに積みたててロシアのサッカー・チームを強くするのに使え!ほとんどのロシア人はそう思っていた〔イングランド・プレミアリーグの人気チーム、チェルシーFCを手に入れた若手オリガルヒの一人、ロマン・アブラモヴィッチの買収資金は自分の石油会社の脱税でつくったものだ、と七月七日、会計検査院長が批判を開始している〕。(中略)

以下にお読みいただくのは、エリツィン政権の改革担当者たちがどんないきさつで、あのような選択をするにいたったのか、オリガルヒというあの一群の人たち、なかでもソ連時代には権力周辺からはずっと外にいた人びとが、どのようにしてあれほど急速に、あれほど富裕化したのか、についてのいますこし立ちいった説明である。日本人は隣人の一人であり、また、ロシアの豊かな天然資源にアクセスすることに関心をもつ未来の投資家の一人でもある。この本は、そうした日本の人びとにとって、とりわけ重要な物語である。
※一部改行しました

日本放送出版協会、マーシャル・I・ゴールドマン、鈴木博信訳『強奪されたロシア経済』P7-18

ソ連崩壊後のロシア経済界で何が起こっていたかが非常にわかりやすくまとめられていますよね。ロシアの経済事情がいかに私たちの常識とは違う論理で成り立っているかがうかがえます。こうしたロシアと似たような成り上がり方をした超富裕層がインドにはたくさんいて、その象徴がアンティリアなのです。

私は『ビリオネア・インド 大富豪が支配する社会の光と影』を読んで、やはりこうした腐敗、汚職はロシアに限らず世界中で行われているのだなと嘆きたくなる気持ちでいっぱいになりました。もちろん、ロシアに限らずその他西側先進国でもこうした構図があることは知っていました。特に以前紹介したJ・モンタギュー著『億万長者サッカークラブ』では西側先進国のスポーツ業界ですらそうしたことが横行していることにショックを受けたものでした。

今回『ビリオネア・インド 大富豪が支配する社会の光と影』を読んで、「あぁ、やはりここもそうなのか・・・」という思いと「それでもインドのこれはひどすぎやしないか?」という思い両方を感じることになりました。

この本で語られるインドの腐敗は凄まじいです。「これからの世界はインドが牽引する」とメディアなど様々な場所で語られていますがそんな単純にことが進むだろうかと疑問になるほどです。インドの発展がどうなるかというのは全くわかりません。一寸先は闇とはまさにこのこと。このカオスな国の行く末がどうなるか全く想像がつきません。

では翻って私たちの生きる日本はどうなのか。ロシアやインドのように不正や汚職、縁故主義で莫大な富を得ている人間はいないだろうか。利権を得ている者はいないだろうか・・・

あぁ・・・私は昨年のオリンピックを思い出さずにはいられません。結局東京オリンピックの徹底的な検証もなされないまま今度は札幌オリンピックを嬉々として誘致しようとしています。北海道民として嘆かわしい限りです。

さあロシアやインドは対岸の火事なのでしょうか。恐るべき事態が私達の身に迫ってはいないでしょうか。圧倒的格差の現実がすでにやってきているのではないでしょうか。

「まだロシアやインドよりはまし。」

そんなことを言っている余裕がはたしてあるのでしょうか。私は恐ろしくて仕方ありません。

この本はそうしたインドの実態を通して私たちの日本の現状も考えさせられる作品です。

これはぜひぜひおすすめしたい作品です。ぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。

以上、「J・クラブツリー『ビリオネア・インド』~インド版オリガルヒの存在!腐敗、縁故主義のインド超格差社会を学べる一冊!」でした。

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この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

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