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ヴェブレン『有閑階級の理論』あらすじと感想~富や欲望、人間心理の秘密を赤裸々に暴露!爆弾発言満載の名著!

有閑階級の理論
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ヴェブレン『有閑階級の理論』概要と感想~富や欲望、階級と人間社会の秘密を赤裸々に暴露!爆弾発言満載の名著!

今回ご紹介するのは1899年にソースタイン・ヴェブレンによって発表された『有閑階級の理論』です。私が読んだのは2016年に筑摩書房より発行された村井章子訳の『有閑階級の理論[新版]』です。

早速この本について見ていきましょう。

流行の衣装や娯楽から高等教育まで、消費とはいわば「他人への見せびらかし」にすぎない―。大量消費社会が到来し、大企業体制が確立しつつあった19世紀末のアメリカ。階級の上下を財力の誇示や見栄の張り合いで示そうとする生活様式を、おもに担ったのが「有閑階級」だ。かれらは、一体いつどのように歴史の舞台に登場し、いかなる進化の過程をへて現代にいたったのだろうか?富が人々の行動に与える影響をあざやかに考察し、文明社会の成り立ちをあからさまに描き出した古典的名著を、ガルブレイスによる詳細な序文を付し、決定版として明快な新訳で送る。

Amazon商品紹介ページより
ソースタイン・ヴェブレン(1857-1929)Wikipediaより

私がこの本を手に取ったのはこれまで当ブログでも紹介してきた宇沢弘文がきっかけでした。

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あの宇沢弘文が大きな影響を受けた人物ヴェブレンとは何者だったのか、そのことに興味が湧き『有閑階級の理論』を手に取ってみたのでありました。

そしてそれは大正解。さすがあの宇沢弘文が刺激を受けた人物とあってものすごく面白い本でした!これは刺激です。読んでいて思わずにやっとしてしまうほどの切れ味です。

上の本紹介にありましたように、本書ではまずガルブレイスによる序文を読むことになります。そこでヴェブレンの紹介や本書の魅力について詳しく見ていきます。そしてこの序文からしてまず刺激的。ガルブレイスは本書について次のように述べます。

『有閑階級の理論』はまことに辛辣きわまりない著作であり、今後もそうみなされることになるだろう。だが、それだけではない。本書は富が行動に与える影響をじつにあざやかに、かつあからさまに描き出してみせる。この本を読んだ人は、モノの消費をこれまでと同じように見ることはできまい。ゆたかさがある程度以上になると、服や家や車や娯楽といったものから得られる楽しみは、主流派経済学すなわち新古典派経済学が愚かにもいまだに想定しているようには感じられなくなってしまう。モノの所有も消費も、言わば派手な幟なのだ。世間で認められた基準からすればこの人は成功者なのですよ、と宣伝しているのである。こうしたことをあきらかにした点で、『有閑階級の理論』は、これまでそうと認められてはいなかったが、重要な学問的業績と言ってよい。

筑摩書房、ソースタイン・ヴェブレン、村井章子訳『有閑階級の理論[新版]』P24-25

「この本を読んだ人は、モノの消費をこれまでと同じように見ることはできまい。」

まさにその通り!この本では「それを言っちゃあおしめぇよ」と思わず言いたくなる赤裸々な爆弾発言がどんどん出てきます。ですがよくよく考えてみると、「うん、たしかにヴェブレンの言う通りかもしれない・・・」と頷かざるをえない気持ちになってきます。このヴェブレンの異常なまでの洞察ぶりについてはガルブレイスも次のように述べています。

それにしても、金銭的利得の追求が男や女をどのような行動に走らせるかをあれほど醒めた視線で見抜いた研究者は、彼の時代にも、そのあとにも、一人もいない。

すべてを見透かすようなこの醒めた視線こそが、ヴェブレン伝説を支えていると言ってよかろう。この視線が見抜いたことは、今日でも読者を驚かす。

筑摩書房、ソースタイン・ヴェブレン、村井章子訳『有閑階級の理論[新版]』P7

「すべてを見透かすようなこの醒めた視線」・・・私も何度この言葉に唸らされたものか・・・!

たしかにヴェブレンの「醒めた視線」を随所に感じます。この現代社会において「それを言っちゃあおしめぇよ」的な指摘はこうした目から生み出されています。

ですがこの「醒めた視線」にどこか仏教的なものすら感じてしまったのは私だけでしょうか。仏教も欲望に対する視線という面ではかなり「醒めた視線」を持っています。この本を読んでいてそうした仏教との類似点も感じることになりました。仏教に大きな影響を受けていた宇沢弘文がヴェブレンに惹かれたのも必然だったのかもしれません。

さて、話は戻りますが、「人よりもちょっとだけよくいたい」、これが私達の欲望の中でも特に根強い存在であります。この欲望と「富」がどんな関係にあるのか。これは単に「金銭的なもの」では収まりきらないものがあります。私達人間はあらゆる方法を用いて「人よりもちょっとだけよくいたい」と汲々としています。そのメカニズムを西洋的な視点からずばり言い当てたのがヴェブレンです。これは面白いです。

この記事ではあえてヴェブレンの言葉は引用しませんが、刺激的な言葉がどんどん出てきます。これはぜひ読んで体感してみてくださいとしか言いようがありません。ぜひヴェブレンの爆弾発言を堪能して頂けたらと思います。

宇沢弘文を通してこの本と出会えたのは本当に嬉しいものがありました。私の中でも強烈なインパクトを残した作品でした。ぜひぜひおすすめしたい作品です。

以上、「ヴェブレン『有閑階級の理論』~富や欲望、人間心理の秘密を赤裸々に暴露!爆弾発言満載の名著!」でした。

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この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

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