MENU

長谷部浩『権力と孤独 演出家蜷川幸雄の時代』あらすじと感想~世界のNINAGAWAのおすすめ伝記!

目次

長谷部浩『権力と孤独 演出家蜷川幸雄の時代』概要と感想~世界のNINAGAWAのおすすめ伝記!

今回ご紹介するのは2017年に岩波書店より発行された長谷部浩著『権力と孤独 演出家蜷川幸雄の時代』です。

早速この本について見ていきましょう。

日本のみならず、世界の演劇界を牽引した演出家・蜷川幸雄。固定概念を破る演出手法をとりながら、常に時代の中心にあり、演劇界の頂点に君臨し続けた。一方で安住することを嫌い、古いものを壊し、新しい血を入れることに迷いがなかった。権力と孤独、王道と異端、中央と辺境――相反するものの間で格闘し続けた、その生涯を綴る。

Amazon商品紹介ページより

この本はシェイクスピア作品の演出を数多く手掛けた蜷川幸雄の伝記です。前回の記事で紹介した『千のナイフ、千の目』では蜷川さんの若き日が自伝的に語られていましたが、この作品ではその生涯全体を知ることができます。

著者の長谷部浩さんは蜷川さんと長く関わり続けた演劇評論家で、蜷川さんへのインタビュー集『演出術』を2002年に出版しています。「あとがき」ではこの『演出術』と今作『権力と孤独 演出家蜷川幸雄の時代』について次のように語られていました。

蜷川幸雄について、単行本をまとめるのは二度目になる。

二〇〇二年に紀伊國屋書店出版部から蜷川との共著で出版された『演出術』(現・ちくま文庫)は、私が二年半に渡って聞書きをした集大成である。この本は、作品の演目についての解説や註をのぞけば、私の問いに蜷川が一問一答で応える形式で綴られた。膨大なインタビューのための時間をもらったにもかかわらず、私の個人的な感想はほとんど盛り込まれていない。

今回、蜷川の逝去にあたって評伝を書こうと思い立ったとき、あえて私的な思いも書き込もうと思った。思えば、二十五歳で演劇評論を始めてから、いつも遥か先を走る演劇人として蜷川幸雄がいた。蜷川がこの世界を牽引していった時代の空気を私なりに書いてみたかった。

『演出術』のほかにも、蜷川を取材する機会にたびたび恵まれた。また、劇評や作品論も、この三十五年の間におびただしく書いている。さまざまな文章は、そのままではないが、この本を書き上げるにあたって存分に盛り込んだ。

歌舞伎では故人となった演出家の仕事が継承されている。そのように蜷川の演出も古典として、長く、現代演劇の世界で生き残っていくに違いない。けれど、演出が「型」として形骸化するのを蜷川は望まないだろう。世界と向かいあう方法として演出を選び取った蜷川の精神こそ、のちの世代に受け継がれていくと信じずにはいられない。

岩波書店、長谷部浩『権力と孤独 演出家蜷川幸雄の時代』P265-266

私は今作『権力と孤独 演出家蜷川幸雄の時代』を読む前に『演出術』も読んでいました。たしかに長谷部さんがここで「膨大なインタビューのための時間をもらったにもかかわらず、私の個人的な感想はほとんど盛り込まれていない。」と述べるのもよくわかりました。

そして今作『権力と孤独 演出家蜷川幸雄の時代』の特徴として「今回、蜷川の逝去にあたって評伝を書こうと思い立ったとき、あえて私的な思いも書き込もうと思った」と語っているのはまさになるほどと思いました。

「インタビュー集」と「伝記・評伝」は全く違います。

インタビューは基本的には答える側の言葉がそのまま残り、そしてそれが並べられていくことになります。

しかし伝記・評伝は本人ではなく、第三者の視点から見た蜷川幸雄を語っていくことになります。しかもその蜷川幸雄に対し著者がどう思うのかということも書かれていくわけです。そしてさらに大事なことに、対話の並列であるインタビューと違って、より大きな時間軸を意識して伝記は編まれていきます。(もちろん、インタビューも時間軸に沿って書かれはしますが)

今回同じ著者による「インタビュー集」と「伝記・評伝」を続けて読み、その違いをはっきりと感じることになりました。

そして「伝記・評伝」のいいところは何より、「物語的な面白さ」があるという点にあるのではないでしょうか。今回ご紹介している『権力と孤独 演出家蜷川幸雄の時代』は特にその面白さが際立っています。蜷川幸雄という巨大な人物の生涯を「ひとつの物語」として読めるこの作品は非常に刺激的でした。

私はシェイクスピアの演出から蜷川幸雄さんに興味を持ったのですが、そのシェイクスピア演出についてもたくさん語られており私も大満足でした。

また、若手を育てようという蜷川さんの熱意。そして藤原竜也さんがいかに規格外の役者だったのかも知ることになりました。

ものすごく面白い本です。ぜひぜひおすすめしたい作品です。『演出術』と合わせて手に取ってみてはいかがでしょうか。

以上、「長谷部浩『権力と孤独 演出家蜷川幸雄の時代』~世界のNINAGAWAのおすすめ伝記!」でした。

Amazon商品ページはこちら↓

権力と孤独――演出家 蜷川幸雄の時代

権力と孤独――演出家 蜷川幸雄の時代

次の記事はこちら

あわせて読みたい
『蜷川幸雄の稽古場から』あらすじと感想~若手俳優から見た蜷川幸雄の人間性、仕事とは。現場の戦いを... 『深読みシェイクスピア』では松岡和子さんが見た役者さんたちの姿を知ることができましたが、今作では役者さんから見た蜷川さんや舞台裏、シェイクスピア作品を知ることができます。 読んでいて「これはまたとてつもない本を見つけてしまった」とドキドキするほど刺激的な作品でした。

前の記事はこちら

あわせて読みたい
蜷川幸雄『千のナイフ、千の目』あらすじと感想~批評とは何か、その重さについて考える。鋭い言葉が満... 私がこの作品を手に取ったのは現在公演されている彩の国シェイクスピア・シリーズ、『ジョン王』がきっかけでした。 こんな素晴らしい演劇シリーズを生み出した蜷川幸雄さんについてもっと知りたい。そんな思いで手に取ったのが本書『千のナイフ、千の目』でした。

関連記事

あわせて読みたい
シェイクスピアおすすめ解説書一覧~知れば知るほど面白いシェイクスピア!演劇の奥深さに感動! 当ブログではこれまで様々なシェイクスピア作品や解説書をご紹介してきましたが、今回の記事ではシェイクスピア作品をもっと楽しむためのおすすめ解説書をご紹介していきます。 それぞれのリンク先ではより詳しくその本についてお話ししていますので興味のある方はぜひそちらもご覧ください。
あわせて読みたい
シェイクスピアおすすめ作品12選~舞台も本も面白い!シェイクスピアの魅力をご紹介! 世界文学を考えていく上でシェイクスピアの影響ははかりしれません。 そして何より、シェイクスピア作品は面白い! 本で読んでも素晴らしいし、舞台で生で観劇する感動はといえば言葉にできないほどです。 というわけで、観てよし、読んでよしのシェイクスピアのおすすめ作品をここでは紹介していきたいと思います。
あわせて読みたい
シェイクスピアのマニアックなおすすめ作品10選~あえて王道とは異なる玄人向けの名作をご紹介 シェイクスピアはその生涯で40作品ほどの劇作品を生み出しています。日本ではあまり知られていない作品の中にも実はたくさんの名作が隠れています。 今回の記事ではそんなマニアックなシェイクスピアおすすめ作品を紹介していきます。
あわせて読みたい
シェイクスピア『ジョン王』あらすじと感想~吉田鋼太郎さんの演出に感動!イングランド史上最悪の王の... 『ジョン王』は戦争を舞台にした作品でありますが、その戦争の勝敗が武力よりも「言葉」によって決するという珍しい展開が続きます。そして私生児フィリップの活躍も見逃せません。そんな「言葉、言葉、言葉」の欺瞞の世界に一石を投じる彼のセリフには「お見事!」としか言いようがありません。 そして2023年1月現在、彩の国シェイクスピア・シリーズで『ジョン王』が公演中です。吉田鋼太郎さん演出、小栗旬さん主演の超豪華な『ジョン王』!私も先日観劇に行って参りました!その感想もこの記事でお話ししていきます。
あわせて読みたい
松岡和子『深読みシェイクスピア』あらすじと感想~翻訳・演劇の奥深さ、そして役者の力に驚くしかない... この本の最初のテーマは『ハムレット』なのですが、そこで語られる松たか子さんのエピソードはいきなり私の度肝を抜くものでした。 この他にも山﨑努さん、蒼井優さん、唐沢寿明さんのエピソードが出てくるのですがどのお話もとにかく格好良すぎます。超一流の役者さんのすごさにただただ驚くしかありません。
あわせて読みたい
中野好夫『シェイクスピアの面白さ』あらすじと感想~シェイクスピアがぐっと身近になる名著!思わず東... この作品は「名翻訳家が語るシェイクスピアの面白さ」という、直球ど真ん中、ものすごく面白い作品です。 この本はシェイクスピアを楽しむ上で非常にありがたい作品となっています。シェイクスピアが身近になること間違いなしです。ぜひおすすめしたい作品です。
あわせて読みたい
ピーター・ブルック『なにもない空間』あらすじと感想~シェイクスピア演劇に革命をもたらした演出家の... ピーター・ブルックと蜷川さんの演劇論の重なりには読んでいて驚くしかありませんでした。 演劇論としての枠組みを超えて人生を考える上でもこの本は大きな示唆を与えてくれます。この本が名著として受け継がれている理由がよくわかりました。

この記事が気に入ったら
いいね または フォローしてね!

  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

コメント

コメントする

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください

目次