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山城むつみ『ドストエフスキー』概要と感想~五大長編を深く読み込むための鋭い解説が満載のおすすめの参考書!
今回ご紹介するのは2010年に講談社より発行された山城むつみ著『ドストエフスキー』です。
早速この本について見ていきましょう。
文学史上最大の衝撃、ドストエフスキーとは何なのか?
気鋭の批評家が切りひらくドストエフスキー論の新たな地平。
同じ言葉でも誰がどんな状況で語るかで、その意味は異なり、ときに正反対に受け取れる。このラズノグラーシエ=異和こそがドストエフスキーを読む鍵となる。登場人物は対話の中で絶えず異和と不協和に晒され、そのダイナミズムが読む者を強烈に惹きつけるのだ。批評家バフチンを起点に、しかし著者単独で小説内部に分け入り、文学的核心を精緻に照射する。ドストエフスキー論史の転換点を成す衝撃的論考。毎日出版文化賞受賞
Amazon商品紹介ページより(※単行本、kindle版両方から引用しています)
これまで当ブログではドストエフスキーの参考書を紹介してきました。
そしていよいよ今回山城むつみ著『ドストエフスキー』を紹介することになります。
五大長編を幅広い視点から深く鋭く論じていくこの作品は圧倒的です。
そして私はこの本を読んですぐに感銘を受けました。特に冒頭、二葉亭四迷がドストエフスキーやロシア文学について語った箇所があるのですがこれがもう素晴らしいのなんの。
ドストエフスキーの参考書で二葉亭四迷がいきなり登場し、著者は彼の言葉を引用します。
目今の日本の作家は、或は人生問題に接触して、その根本意義を解さうと努めては居るけれども、人生の或る一部を以て、全般に亘らうとして居る風がある、未だ遊び半分に著作に従事して居る傾きがある。ツルゲネフ時代の作家に比しては、不真面目である。
所が露西亜の作家はさうでなかった。真面目に人生問題の全般に亘って考究した。であるから日本文学者のやうに、文学一点張りで他方面の事は関せず焉で居たのではない。又実際当時の露国政府は、何をいふにも頑迷で暴虐であったのだから、甚しい圧迫を国民に加へた、政治家は政治問題として研究して居たのに、文学者はそれを人生問題として研究した。作の上にも自ら血ある涙あるものとなって現はれ、ツルゲネフの小品一編はよく奴隷解放に力あったといはれて居る位である。
講談社、山城むつみ『ドストエフスキー』P15
ロシア文学は「真面目に人生問題の全般に亘って考究した」文学だった。
この言葉に私は胸打たれるものがありました。明治時代を生きた二葉亭四迷の文学・思想に対する姿勢が見えたように思えたのです。
私は大学院時代、明治時代の仏教者清沢満之やその後継者たちの思想を学んでいました。
人生問題を真剣に考究する彼らの言葉を聴いてきた私にとって、この二葉亭四迷の言葉はまさにそれと重なるものがあったのです。そしてそれはツルゲーネフやドストエフスキーをはじめとしたロシア文学とも繋がっているのだということに私は感銘を受けたのでありました。
この二葉亭四迷の言葉で始まった本書はまさにこの姿勢が貫かれた素晴らしい作品です。
特にバフチンのポリフォニーについての解説は非常にわかりやすく、あの難解な『ドストエフスキーの詩学』の言わんとしていることはそういうことだったのかと唸ることになります。
ドストエフスキーの解説などでよく目にする「ドストエフスキー小説はポリフォニーである」という、わかるようでわからない難しい概念が山城さんの解説によって非常にクリアになります。
これは『カラマーゾフの兄弟』を読む上でもとても重要なポイントになってきますので、この本の意義はとてつもなく大きなものがあると思います。
ドストエフスキー作品に興味のある方にぜひぜひおすすめしたい名著です!ぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。
以上、「山城むつみ『ドストエフスキー』~五大長編を深く読み込むための鋭い解説が満載のおすすめの参考書!」でした。
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