W・D・リット『スタンダールの生涯』あらすじと感想~ナポレオンのモスクワ遠征にも従軍したフランスを代表する作家のおすすめ伝記!
W・D・リット『スタンダールの生涯』概要と感想~ナポレオンのモスクワ遠征にも従軍したフランスを代表する作家のおすすめ伝記!
今回ご紹介するのは2007年に法政大学出版局より発行されたヴィクトール・デル・リット著、鎌田博夫、岩本和子訳の『スタンダールの生涯』です。
早速この本について見ていきましょう。
『赤と黒』『パルムの僧院』にいたる作家の波瀾に満ちた実生活とその繊細な感受性、時代精神を多彩なエピソードをまじえて物語り、豊かな人間像を描き出した古典
Amazon商品紹介ページより
この伝記では『赤と黒』、『パルムの僧院』などで有名な19世紀フランスの作家スタンダールこと本名アンリ・ベールの波乱万丈な生涯をわかりやすく学ぶことができます。
冒頭ではこの作品について著者は次のように述べています。
生きているスタンダール
スタンダールはあらゆる時代、あらゆる時期に属している。
かれの個性は実に豊かで多様なので、どの世代でも、期待や欲求に応じる新しい面を発見させてくれる。
そういうわけでかれの影響力は確固たるものとなり、名声は高まり続けた。
同時代人からは無視され、いやむしろ誤解されたので、かれはむしろわれわれのほうに近いかもしれない。しかも、かれはニ〇世紀の読者のために書いたのではなかったか。われわれにこそ、かれは必要欠くべからざる存在なのだ。
波瀾に満ちたかれの生涯とその感受性は作品と切り離せない。なぜならそれらが作品の多くを語り、明示してくれるからだ。おなじく、作品を知らずしてその人を真に理解することはできない。作品は人格を映し、思想や精神の面をいくらか解き明かしたり、発見させてくれるのだ。
スタンダールは尽きない教訓や精神的糧の源泉である。
ある人々はかれの作品の文学的な面に惹きつけられ、あるいは他方、かれの政治や社会論を研究するだろう。もちろん画家、音楽家や心理学者たちの興味も引くだろう。各人はかれの書き物のなかに役立つものを見いだすのだが、人物自体も劣らず魅力的である。真の自我、真の価値に触れた事柄についてはいつも控えめで謎めいているので、理解するのは難しい。臆病だから、臆病者に可能なかぎりの乱暴さと過激さでもって、かれははぐらかし、用心していなければだますことも多い。
自分の考えや深い感情を隠すために、かれはふんぞり返ってみせ、気取って、極端な理屈をこねながら、うんざりさせ、いらいらさせて、実際とは正反対の者だとみなされることが多い。
かれを理解し、仮面の下にその正体を見つける努力が必要である。無道徳性、無神論、あるいは恐るべき利己主義を高らかに言明していても、それを決してすぐ真に受けてはいけない。探求する努力をしてください。かれをよく知るためには辛抱してください。そうすれぱ信頼できる友、感じやすい心、誠実な魂が見えてくるでしょう。
法政大学出版局、ヴィクトール・デル・リット、鎌田博夫、岩本和子訳『スタンダールの生涯』P3-4
スタンダールはここで語られるように一筋縄ではいかない複雑な人物です。ですがだからこそ彼には人を惹き付けてやまない魅力があるとも言えます。
この伝記ではそんな複雑なスタンダールの人柄を作品と絡めながらじっくり見ていきます。こう言うとこの本が難しそうに感じられるかもしれませんがものすごく読みやすくわかりやすいですのでご安心ください。
訳者あとがきでも次のように述べられています。
本書は、表題の示すとおり「スタンダールの伝記」である。しかし堅苦しい本ではなく、原題にあるように著者の「語り」であり、さらにスタンダールこと、アンリ・べールに関する興味深い多くのエピソードがほとんど各章に挿入されていて、今日読んでも古典的であるとともに、それ以上に、「生きた、書いた、恋をした」というみずから書き残した墓碑銘のように、普通の作家には見られないほど、波瀾に満ちた生活体験が具体的、客観的に「語られ」、さらにスタンダールに対して古くから流された誤解や批判を訂正し、ときにはアンリ・べール自身の「思いこみ」に対して女性の弁護もしている。つまり私生活や社交生活において、客観的に、公平にべールを扱おうと努力していることがうかがわれる。また、それほどスタンダールの生活や行動は複雑だったとも言えよう。
法政大学出版局、ヴィクトール・デル・リット、鎌田博夫、岩本和子訳『スタンダールの生涯』P338
この伝記は『堅苦しい本ではなく、原題にあるように著者の「語り」であ』ると述べられるように、とても読みやすい作品となっています。
スタンダールというと、バルザックやユゴーなどと比べると意外と知られていない作家です。『赤と黒』、『パルムの僧院』などの作品は非常に有名ですが、スタンダール自身については謎に包まれた存在です。
私もこの伝記を読んで驚いたことがたくさんありました。
そもそもスタンダールという名前がペンネームであったことや、ナポレオンとのつながりについても非常に興味深いものがありました。
特にスタンダールがあのモスクワ遠征に従軍していたという事実には仰天しました。
あのほぼ全滅とも言ってもよい悲惨な遠征から生還し、そこでも見事な働きをしていたというのは驚きでした。そうした経験を経て書かれたのが『赤と黒』や『パルムの僧院』だと思うと、これまでとはまた違った姿が見えてくるように思えました。
19世紀フランス文学を知る上でもスタンダールは避けては通れない存在です。そのスタンダールの生涯をわかりやすく知れるこの伝記は非常におすすめです。面白いです。ぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。
以上、「W・D・リット『スタンダールの生涯』~ナポレオンのモスクワ遠征にも従軍したフランスを代表する作家のおすすめ伝記!」でした。
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