佐々木孝『ドン・キホーテの哲学 ウナムーノの思想と生涯』~南欧のキルケゴールと呼ばれたスペインの哲学者とドン・キホーテ

愛すべき遍歴の騎士ドン・キホーテ

佐々木孝『ドン・キホーテの哲学 ウナムーノの思想と生涯』概要と感想~南欧のキルケゴールと呼ばれたスペインの哲学者とドン・キホーテ

今回ご紹介するのは1976年に講談社より発行された佐々木孝著『ドン・キホーテの哲学 ウナムーノの思想と生涯』です。

早速この本について見ていきましょう。

現代に乗り遅れたスペインは、逆に後進性ゆえの不思議な魅力と可能性を秘めている。

そのなかでウナムーノは、ドン・キホーテの狂気と憂愁をとおし、スペイン精神の再生と不滅の生を終生の課題とした。

オルテガをはじめヨーロッパの思想家に多大な影響を与えた異才の生涯をはじめて世に問う本書は、同時にわれわれが持つ近代文明の精神的脆弱さをあらためて認識させてくれる。

講談社、佐々木孝著『ドン・キホーテの哲学 ウナムーノの思想と生涯』表紙より
ミゲル・デ・ウナムーノ(1864-1936)Wikipediaより

ウナムーノはスペインの哲学者で「南欧のキルケゴール」の異名を持つ人物です。

私がこの本を読んだのは次の記事で紹介するウナムーノの『ドン・キホーテとサンチョの生涯』がきっかけでした。

私は『ドン・キホーテ』が大好きです。そのドン・キホーテへの愛と熱い思いが語られているのがウナムーノの『ドン・キホーテとサンチョの生涯』になります。この本があまりに面白く、「これを書いたウナムーノとは何者なのだろう」という思いから手に取ったのが本作『ドン・キホーテの哲学 ウナムーノの思想と生涯』になります。

この本ではスペインの哲学者ウナムーノの生涯と思想が初学者でもわかりやすいようにまとめられています。

タイトルにもありますようにウナムーノの思想は『ドン・キホーテ』と切っても切れない関係です。『ドン・キホーテ』を学ぶ上でもウナムーノを知ることは非常に大きな意味があります。

この記事では具体的にウナムーノについてお話しすることはできませんが、この本の中で特に印象に残った箇所をひとつだけここでご紹介したいと思います。

それは哲学者ウナムーノの教育者としての側面が描かれている箇所になります。ウナムーノの人柄が出ていて私も感銘を受けました。ではその箇所を読んでいきましょう。

ウナムーノは、へレニストとしてその専門とするギリシア語を学生に教えることだけに満足することはできなかった。彼はギリシア語教授であるよりも前に、言葉ほんらいの意味で、まず教師、、であった。

ウナムーノのかつての学生の一人であり、後に著名な批評家となったフェデリコ・デ・オニスは、師ウナムーノの姿を、後年次のように回想している。

「もしだれかに、マエストロという言葉、すなわち地上においてだれをもそう呼んではならぬとキリストが命じられた師という言葉を奉らなければならぬとしたら、彼ウナムーノだけがそう呼ばれる権利と、そして義務を持っている。彼の授業には、およそたくまれたものがなかった。それはちょうど友人たちの集まりのようなものであり、そこにおいて師は、学生たちの前で日ごと若返り、われわれの個人的な心配事や、世界に対するわれわれの衝動的で感情的な感受の仕方に歩調を合わせてくれた。われわれを結びつけていたのは、狭い意味での学問的関係ではなかった。そうではなく、われわれの精神的生全体が結ばれていたのであり、われわれはともに培った学問の具体的問題から出発して、根源的かつ永遠の、そしてその本質からして人間的な諸問題へとみずからを高めたのである」(マリア・デ・マェストゥ『二〇世紀スペイン散文作家集』)

ウナムーノの目指したもの

ウナムーノ自身も、「私は授業において、委託された教材を教えるだけでなく、学生たちの心を陶冶し生気づけること、彼らのひとりひとりの上に働きかけることによって教育の務めをはたすよう努めている」(「教育」)と言っている。

彼が授業を通して求めたもの、彼が目指した最終の目的は、たんなる知識の伝授ではなく、学生たちが真理探究の意欲に燃え立つこと、さらにウナムーノ的な表現に従うなら、学生ひとりひとりのうちに真の懐疑が、真の不安が目覚めることであった。

彼は、自分が専門とするギリシア文学・ギリシア語研究に専念しないことに関して、「わが国のようにひじょうな遅れを見せ、一般教養がかくまで衰退し狭小な国にあっては、学問上の専門化は、たとえその効用がいかに大きかろうとも、不都合の方がさらに大きい」と言っている。

現代ドイツのすぐれた人文学者ロベルト・クルチウスは、ウナムーノを「スペインの鼓吹者」と呼んだが、事実、彼がサラマンカ大学の講壇から、スぺイン全土に向けて語りはじめるときがやってくる。
※一部改行しました

講談社、佐々木孝著『ドン・キホーテの哲学 ウナムーノの思想と生涯』P71-73

「彼が授業を通して求めたもの、彼が目指した最終の目的は、たんなる知識の伝授ではなく、学生たちが真理探究の意欲に燃え立つこと、さらにウナムーノ的な表現に従うなら、学生ひとりひとりのうちに真の懐疑が、真の不安が目覚めることであった。」

いかがでしょうか。

ウナムーノは単に知識を教えるのではなく、学生一人一人が真理探究の意欲に燃え立つことを願っていたのでした。

そして彼の熱意は大学の教室を超えてスペイン、さらには全世界に広まっていくことになったのでした。

自分の中に引きこもって哲学に耽るのではなく、『ドン・キホーテ』を愛し、そこからスペイン復活のために心を尽くして思索を続け、人々に熱き思いを伝えたウナムーノ。

本書ではそんなウナムーノの生涯と思想をわかりやすく紹介してくれます。

これは面白い作品でした。日本ではなかなかマイナーな哲学者でありますが、ぜひこの人の存在が少しでも広まってくれることを願っています。

以上、「佐々木孝『ドン・キホーテの哲学 ウナムーノの思想と生涯』南欧のキルケゴールと呼ばれたスペインの哲学者とドン・キホーテ」でした。

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