アレクシエービッチ『チェルノブイリの祈り 未来の物語』原発事故の被害者の声を聴く世界的名著

現代ロシアとロシア・ウクライナ戦争

アレクシエービッチ『チェルノブイリの祈り 未来の物語』原発事故の被害者の声を聴く世界的名著

今回ご紹介するのは1997年にスベトラーナ・アレクシエービッチによって発表された『チェルノブイリの祈り 未来の祈り』です。私が読んだのは2011年に岩波書店より発行された岩波現代文庫版です。

早速この本について見ていきましょう。

1986年の巨大原発事故に遭遇した人々の悲しみと衝撃とは何か.本書は普通の人々が黙してきたことを,被災地での丹念な取材で描く珠玉のドキュメント.汚染地に留まり続ける老婆.酒の力を借りて事故処理作業に従事する男,戦火の故郷を離れて汚染地で暮らす若者.四半世紀後の福島原発事故の渦中に,チェルノブイリの真実が蘇える.(解説=広河隆一)

岩波書店商品紹介ページより

私がこの本を初めて読んだのは今から5年以上前です。その時もこの本には衝撃を受けましたが、今改めてこの本を読み返してみるとまた違った感覚を受けることになりました。

前回の記事で紹介したアダム・ヒギンボタム著『チェルノブイリ』はチェルノブイリ原発事故がどのようにして起こったのかということを詳しく見ていく本でした。

この本を読んでから改めて『チェルノブイリの祈り』を読むと、この事故の背景や当時の状況も見えてくるのでかつてよりさらにはっきりとその声を聴くことができました。

正直、私はヒギンボタムの『チェルノブイリ』を読むまでこの原発事故がどのようなものだったのかということをあまり知りませんでした。とにかく巨大で悲惨な事故だった。それは知っていても、実際にどのような経緯があったのかというのはほとんど知らなかったのです。

ですが、ロシア・ウクライナ問題に揺れる今、原発も危機を迎えています。「もしあの時のような事故がまた起きたら?もし原発が攻撃されて破壊されたら?」と考えると居ても立っても居られなくなってしまいました。

そして『チェルノブイリ』を読むことでロシアにとってウクライナやチェルノブイリがどのような意味を持っていたのかということを知ることができました。

となってくるとかつて読んだアレクシエービッチの『チェルノブイリの祈り』の存在感が大きくなってきます。アレクシエービッチはこの事故に関わるひとりひとりの声を丁寧に聴いていきます。歴史という大きなくくりにおいては失われてしまう個々の声。それをアレクシエービッチの作品では聴くことができます。

あの当時、あそこで何が起こっていたのか、人々はそれに対し何を思い、何を語るのだろうか。

それを知れるのがこの本の最大の特徴だと思います。

特に、この本の最初に出てくる、事故で亡くなった消防士の妻リュドミーラ・イグナチェンコの物語は何度読んでも凄まじいです・・・私はいつも涙が出そうになります。

また、他にも様々な立場の様々な物語、ひとりひとりの人生においてこの原発がもたらしたものをこの本では聴くことができます。

最後に、岩波書店の商品紹介ページに「編集部からのメッセージ」がありましたのでそちらを見ていきます。この本の特徴と、この本に込められた思いを知るためにも重要な言葉ですので全文引用します。

■編集部からのメッセージ
 福島第一原子力発電所の事故は,今も深刻な様相を示しています.放射能汚染についての市民の憂慮も決して弱まっていません.このような時に,かつてのチェルノブイリ原発事故の被災地を丹念に取材した珠玉のノンフィクションをお届けしたいと思います.
 本書の著者アレクシエービッチは,『アフガン帰還兵の証言』などで戦争が民衆をいかに傷つけたかを克明に描き出し,旧ソ連国内で権力からの抑圧や干渉を受けてきた作家です.1997年に刊行された原書も,ベラルーシでの出版は中止されました.
 本書は1986年の大惨事から十年以上経過した時点で刊行された被災者へのインタビュー集ですが,事故直後から公にされた幾多の文献や映像が見落としていたこと,人々が黙していたことを聞き取って,チェルノブイリの真実を描くことに成功した傑出した作品です.

 本書には次のような人たちのインタビューが紹介されています.
 チェルノブイリ原発の四号炉の建屋と原子炉が崩壊した直後に消火に駆けつけ,急死した消防士の妻は亡き夫をどう語ったでしょうか.
 放射能で高度に汚染された地域から退避することを拒否して,カササギやオオカミと共に死んでいくことを選ぼうとしている老農婦.今も行方不明の被災者を捜し続ける女性.そして民族紛争の戦乱の中で故郷を追われてチェルノブイリにたどりついて生活を続ける若者たち.
 護送車で原子炉から至近距離に連れて行かれて,黙々と汚染処理作業に除去した男の物語.ウォッカが放射線に効くからと毎晩酔いつぶれるほど飲みながら,汚染された表土をはぎ取り続けた作業員の日々.汚染地に伝染病がはびこらないようにひたすらペットや野生動物を撃つことを命じられた猟師たちの話.
 隣町プリピャチから原発の火事を,最初はとても美しい光景として見物していた多くの人たち.疎開の準備を始める中でしだいに恐怖感が増していったこと.障害を持って生まれてきた子どもたち.異常な放射能値を示す患者とともに生きる医師.
 上記以外にも,原発の従業員,サマショール(強制疎開の対象になった村に自分の一存で住んでいる人)ジャーナリスト,物理学者,被災者組織の中心メンバー,党幹部などの声も紹介されています.各章の末尾の「合唱」には氏名は記されていないが,各十数人の一言が引用されています.
 「見落とされた歴史について」でアレクシエービッチは,本書がチェルノブイリ事故の概要を伝える本ではないこと,全く未知なる巨大事故に遭遇した人々が何を感じていたか,どんな気持ちでいたかを描こうとしたのだと語っています.そして本書には,「こんな場面はどんな本でも読んだことがない.映画でも見たことがない」という趣旨を語る何人もの人が登場しているのです.
 そしてアレクシエービッチは「私は未来のことを書き記している……」とことばを結んでいるのですが,フクシマの現実に向き合っている私たちにとって何と重たいことばでしょうか.本書のサブタイトルには「未来の物語」と付されているのです.とはいえ,読書の醍醐味を味わっていただける本であることも間違いありません.
 解説をご執筆いただいた広河隆一さんも,ご自身の人生において本書は「もっとも大切な書物のひとつ」だと書かれています.
 本書のご一読を心よりお薦めするものです.

◆追記
 アレクシエービッチさんは2015年ノーベル文学賞を受賞しました.日本語で読める作品は5作ありますが,なかでも本書『チェルノブイリの祈り』 は世界30か国近くで読まれていて,まさに代表作といえます.この機会にどうぞご覧ください.2015年10月

岩波書店商品紹介ページより

アレクシエービッチの『チェルノブイリの祈り』。

ヒギンボタムの『チェルノブイリ』と合わせてぜひぜひおすすめしたい作品です。

また、アレクシエービッチといえば『戦争は女の顔をしていない』でも有名です。

ぜひこちらも参照して頂ければと思います。

そして、今回ご紹介したのは岩波現代新書版の『チェルノブイリの祈り』でしたが、2021年に新たに完全版も出版されました。

従来版との違いはといいますと、完全版は従来版より1.7倍増補改訂がなされたものとなっています。

私は以前読んだものをそのまま読みこの記事で紹介しましたが、新たに読むならばこちらのほうがよいと思います。

以上、「アレクシエービッチ『チェルノブイリの祈り 未来の物語』原発事故の被害者の声を聴く世界的名著」でした。

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