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『もっと知りたいエル・グレコ 生涯と作品』あらすじと感想~トレドの偉大な画家とギリシア正教のイコン画との意外なつながりとは

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『もっと知りたいエル・グレコ 生涯と作品』概要と感想~トレドの偉大な画家とギリシア正教のイコン画との意外なつながりとは

今回ご紹介するのは2012年に東京美術より発行された大髙保二郎、松原典子著『もっと知りたいエル・グレコ 生涯と作品』です。

私はこれまでひのまどかさんの「作曲家の物語シリーズ」でヨーロッパの音楽の歴史をたどってきました。

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この伝記シリーズは作曲家の人生だけではなく時代背景まで詳しく見ていける素晴らしい作品です。そしてその中で出会ったのがメンデルスゾーンであり、そこから私はイギリスの大画家ターナーに興味を持つようになりました。

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そしてこの『もっと知りたいターナー 生涯と作品』がこれまた面白く、これを読んで今度は絵画を通してヨーロッパの歴史、思想、文化を見ていきたいなと私は思ってしまいました。

正直、本を読んでいくスケジュールがかなり押していて厳しい状況なのですが、東京美術さんの絵画シリーズ「ABC アート・ビギナーズ・コレクション」は内容が濃いながらコンパクトに絵画を学んでいけるので今の私にはぴったりなような気がします。

では、早速この本について見ていきましょう。

クレタ島のイコン画家として出発したエル・グレコは、イタリア滞在10年を経てスペインに移住し、カトリックの宗教画家として大成しました。
本書は時代の変貌に足並みを揃え変遷した画家の美の軌跡を、時代背景をふまえつつ辿ります。
複雑なルーツをもつエル・グレコ芸術の本質と、時代を超えて感動を呼び続ける魅力を探る画期的な入門書です。

Amazon商品紹介ページより
エル・グレコ(1541-1614)Wikipediaより

エル・グレコはギリシアのクレタ島出身の画家です。

後に紹介しますがエル・グレコがギリシアのクレタ島出身ということは非常に大きな意味を持ちます。

エル・グレコといえば上の絵のような独特なタッチが特徴の画家です。

では、そんなエル・グレコとはいかなる人物なのかについて見ていきます。

いま、なぜエル・グレコを語るのであろうか。クレタ島に生まれたギリシア人画家、ドメニコス・テオトコプロスはイタリア滞在約10年を経て、35歳の頃にスぺインに渡り、後半生のほとんどを古都トレードに過ごして数多くの名作を生み、カトリック信仰の偉大なる宗教画家として大成した。事実、彼の現存する作品の大半は宗教画であり、それ以外には肖像画20数点、風景画、風俗画、歴史画それぞれ数点、神話画1点を数えるにすぎない。そこからくるエル・グレコの一般的なイメージは、抹香臭い、というそしりを免れ得ない。しかし、エル・グレコの宗教画はその主題は別として、それほど宗教的なものであろうか。画家の死後、エル・グレコが忘却されたのは、スペイン国王フェリぺ2世が《聖マウリティウスの殉教》(P31)を前に、「よく描けてはいても祈る気をそぐ」(要旨)と慨嘆したように、カトリック信仰に導く敬虔な祈りに忠実な絵画ではなかったからである。

確かに、彼の大半の作品は聖堂や礼拝堂の壁を飾るために制作されたが、それらの注文者は伝統墨守の図像を好む保守的な聖職者層ではなく、むしろ少数の、知的に洗練された教養あるエリート層であった。例えば、エル・エスコリアルで活躍した同時代一流の画家ナバレーテ・エル・ムードの作品を彼の横に並べれば、エル・グレコの特異性は一目瞭然であろう。おそらくエル・グレコの絵画は当時のトレードにおいては、「アヴァンギャルド(前衛)」であったに違いない。彼の前衛性は、その出自とその後の経歴に培われたものである。すなわち、ポスト・ビザンティン美術の残照のなかのイコン画家としてクレタ島で修業形成を終え、その後、ルネサンスの教訓を残しながらも、マニエリスムに移行した美術のメッカ、イタリアにおいて研鑽を積んだことである。このニつの影響源は、その後の後半生におけるトレードのパトロネージに劣らぬほど意義深い。


東京美術、大髙保二郎、松原典子『もっと知りたいエル・グレコ 生涯と作品』P2

彼が活躍したのは16世紀後半です。その時代にしてこの独特な画風!「前衛的」と言われればたしかに納得してしまいます。彼の絵は一度見たら忘れられない強烈なインパクトがあります。

そしてこの解説にありますようにエル・グレコは画家として大成してからはその生涯のほとんどをスペインの古都トレドで過ごしています。

トレドと言えばマドリードからほど近い非常に有名な街です。

この街は「時間の止まった街」と称賛され、「もしスペインでたった1日しか時間がなかったら、ためらわずにトレドを見よ」と言われるほどの美しい街です。

撮影上田隆弘

私も2019年にここを訪れ、まさしくこの地でエル・グレコの傑作『オルガス伯の埋葬』を観ています。

『オルガス伯の埋葬』Wikipediaより

これを観た時の私の感想は「エル・グレコ、えっっっぐいなぁァァ・・・」でした。言葉がおかしくなっていますがこれは当時のリアルな感想です。ノートにそう書かれていました。よっぽど度肝を抜かれていたのでしょう。

この独特な色彩、そしてすらっと伸びた身体、光、迫力!どのように表現したらいいのかまったくわからないのですがこれは衝撃でした。

そしてこのような独特な画風が生まれた背景としてギリシャのビザンティン文化があったことがこの本で語られます。

東方的な伝統と西欧美術が出会ったクレタ島

ビザンティン帝国は1453年、首都コンスタンティノポリスの陥落により1000年以上の歴史を閉じるが、その後も宗教美術の図像や技法は旧帝国支配下において残存し続けた。これを便宜的にポスト・ビザンティン美術と呼び、引き続き各地で制作される板絵のイコンはその代表格であった。エル・グレコも《聖母の眠り》(P7)の発見で立証されたように、クレタ島においてイコン画家として画業を開始している。

同島の首都カンディアでは16世紀、150名以上の画家が聖ルカ画家組合などに登録し、イタリアからも注文を受け、宗教画の制作に専念していた。かくして、〝ギリシア風〟という旧パレオロゴス朝以来のポスト・ビザンティン美術の伝統を踏襲する一方で、ヴェネツィア共和国支配下にあったクレタ島では、〝ラテン風〟という、ヴェネツィア経由で流入する近代的な西欧美術の油彩画の技法や西欧型キリスト教(カトリック)美術の図像学を学び、理想的な人体表現や科学的遠近法など、総じてイタリア・ルネサンスの成果を吸収していく。そこでは、当時流布し始めた版画類の役割が大きかったであろう。しかし、ほとんどの画家は凡庸な折衷的スタイルに終始していたにすぎない。

エル・グレコもこうした美術的環境のなかで修業形成期を迎えるが、徐々に、伝統墨守のイコン画家やいわゆる〝マドンネーリ〟(P15)と呼ばれた群小画家とは一線を画して、独自の革新的な画風を確立していく。その後の生き方や作品が語るように、このギリシア人画家は新しもの好きで、変わり目が早く、進取の気象に富み、しかも鋭敏な知性と破格の感性の持ち主であったようだ。


東京美術、大髙保二郎、松原典子『もっと知りたいエル・グレコ 生涯と作品』P10

2019年に訪れた時はまったく知りませんでしたが、エル・グレコはギリシア正教のイコン画の影響を強く受けていた画家でした。

イスタンブール、アヤソフィアの聖母子像のイコン画 撮影上田隆弘

西欧美術の本場イタリアの伝統とは異なる土壌で修行をしたエル・グレコだからこそこうした独特な絵を生み出すことができたというのは非常に興味深かったです。

ビザンティン、ギリシア正教についてはドストエフスキーを学んだ関係で当ブログでもおすすめの本を以前紹介しました。

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ギリシア正教という、ローマカトリックとは全く異なるキリスト教世界がそこにはあります。

こうした背景を知りながらエル・グレコの絵を観れたならまた違った感想も出てきたかもしれません。

エル・グレコの作品はスペインで観た美術の中でもかなり印象に残ったものになりました。

彼の作品は上で紹介したトレドもそうですが、マドリードのプラド美術館でもたくさん観ることができます。

マドリードとトレドはセットで予定が組まれることが多い街ですので、ぜひ両方の街で生のエル・グレコと対面することをおすすめします。きっとその迫力に度肝を抜かれることになるでしょう。

そんなエル・グレコの作品と生涯をわかりやすく解説してくれるこの本はとてもおすすめです。ぜひ、手に取ってみてはいかがでしょうか。

以上、「『もっと知りたいエル・グレコ 生涯と作品』トレドの偉大な画家とギリシア正教のイコン画との意外なつながりとは」でした。

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この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

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