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クリスチャン・カレル『すべては1979年から始まった』あらすじと感想~冷戦終盤の驚くべき物語がここに

目次

冷戦終了に大きな影響!クリスチャン・カレル『すべては1979年から始まった 21世紀を方向づけた反逆者たち』概要と感想

今回ご紹介するのは2015年に草思社より発行されたクリスチャン・カレル著、北川知子訳『すべては1979年から始まった 21世紀を方向づけた反逆者たち』という本です。

早速この本について見ていきましょう。

なぜ、イスラム主義者や中国、市場原理主義は、ここまで台頭したのか? 「市場」と「宗教」が支配する21 世紀を運命づけた時代の転換点と主役たちを丹念にたどったリアルで刺激的な実録・現代史!

1979 年は、サッチャーが首相に就任、鄧小平が経済改革を開始、ホメイニーがイラン・イスラム共和国を樹立、ヨハネ・パウロ二世が祖国ポーランドを訪問、ソ連の軍事侵攻によってアフガン紛争が始まった年である。本書ではこれらの出来事とその背景が詳細に描かれ、市場と宗教が社会主義に替わって社会を再び動かし始めた1979年が歴史の転換点であり21 世紀の命運を決めたと論じる。一見、無関係に見えるそれぞれが、実は「社会主義」が大きな影響力を持った60 年代にピリオドを打つ点で共通していたことが浮き彫りになり、現代史に深く切り込んでみせるドキュメンタリー映画のような作品。

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この本を私が手に取るきっかけとなったのはこれまで当ブログでも紹介してきたO.A.ウェスタッドの『冷戦 ワールドヒストリー』やトニー・ジャッドの『ヨーロッパ戦後史』、ヴィクター・セベスチェンの『東欧革命1989 ソ連帝国の崩壊』で冷戦の終結にヨハネ・パウロ二世が大きな影響を及ぼしていたということを知ったからでした。

ビル・クリントンアメリカ合衆国大統領と(1993年Wikipediaより

一見冷戦とは関係のなさそうなローマ教皇の存在が冷戦に対しどんな影響を与えていたのか、それをもっと知りたいと思い何かいい本はないかと探していたところこの本と出会ったのです。

この本では「1979年という年こそその後の時代を方向づけた」と述べられます。

そしてその主人公こそイギリスの首相サッチャー、中国の政治家鄧小平、イラン・イスラーム革命の指導者ホメイニー、そしてローマ教皇ヨハネ・パウロ二世という四人の人物でした。

著者はこの四人とそれに付随してソ連によるアフガン侵攻という、合わせて五つのテーマに沿って述べていきます。

このことについて著者はプロローグで次のように述べています。

こういった重要な出来事と偉大な人々をめぐる五つの物語は、それ自体、語る価値があるだろう。だが、これらは本当に、相互に深く関連しているのだろうか。イギリス初の女性首相には、無論、イランの好戦的なシーア派聖職者との共通点はない。では、ローマ教王と、アフガニスタンのイスラム主義者や鄧小平との間には何か関係があるだろうか。彼らがみな一九七九年という歴史の転換点を生きていたとしても、それだけでそれぞれの物語が関連しているわけではないのだから、ただの偶然だと言われるかもしれない。

それでも、これらの出来事の間には目に映る以上の共通点がある。七九年に解き放たれた力は、ニ〇世紀のかなりの部分を支配した社会主義ユートピアの終焉の始まりを意味していた。五つの物語ーイラン革命、アフガニスタンでの聖戦の始まり、サッチャーの選挙での勝利、ローマ教皇の初のポーランド巡礼、中国の経済改革への着手ーは、歴史の道筋を従来とはまったく異なる方向へと向かわせた。長年無視されてきた「市場」と「宗教」という二つの力が、猛烈な勢いで舞い戻って来たのが、一九七九年だった。

草思社、クリスチャン・カレル著、北川知子訳『すべては1979年から始まった 21世紀を方向づけた反逆者たち』P14-15

今回の記事では具体的に五つそれぞれの物語を解説することはできません。

ですがこの本を読んでいるとこれら五つの物語がいかに巨大な影響をもたらしたかということを痛感させられます。

先程も申しましたように、特にヨハネ・パウロ二世の果たした役割は私にはとてつもない衝撃でした。このことについては別の記事で改めてお話ししていきますが、冷戦史を学んでいて一番驚いたのは間違いなくこのヨハネ・パウロ二世の存在です。まさに、雷が落ちるようでした。(ヨハネ・パウロ二世についてはG・ブアジンスキ著『クラクフからローマへ』という本が最もおすすめです)

また、この本で語られるイラン・イスラーム革命の指導者ホメイニーについても私は思う所がたくさんあります。

私はかつて京都の大谷大学の大学院で僧侶になるために学んでいました。その時に私は「宗教学」という授業を取っていました。そしてその授業を担当されていたのがイスラーム学者の嶋本隆光先生でした。

嶋本先生はイランのシーア派の研究をされていて、その授業のメインテーマがまさしくこのイラン・イスラーム革命だったのです。

私は嶋本先生の講義が大好きで、単位を取得した後も毎回先生の授業を受けに通っていました。

イスラームというと私達日本人にはあまりなじみがなく、恐いイメージがあるかもしれませんが、それはまったくの偏見です。イスラームとは何なのか、宗教と世界はどのように繋がっているかを嶋本先生はこの授業で教えて下さりました。

この後の記事でイラン・イスラーム革命について解説した嶋本先生のご著書も紹介していきます。ものすごく興味深い本ですのでぜひおすすめしたいです。

さて、クリスチャン・カレルの『すべては1979年から始まった 21世紀を方向づけた反逆者たち』は冷戦末期の「時代のうねり」を感じられる本です。1990年生まれの私にとってそれ以前の世界はほとんどなじみがありませんでした。明治時代頃までは「歴史」という目で見れても、時代が近いと逆に学ぶ機会がなかなかありません。

私が生まれた冷戦後の世界はこういった変化を経て出来上がったのかということを知れてとても興味深い一冊でした。

以上、「クリスチャン・カレル『すべては1979年から始まった 21世紀を方向づけた反逆者たち』冷戦終盤の驚くべき物語がここに」でした。

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この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

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