目次
コゼットはなぜテナルディエ夫妻に預けられたのか~鹿島茂著『「レ・ミゼラブル」百六景』より
引き続き鹿島茂著『「レ・ミゼラブル」百六景』を参考に、ミュージカル鑑賞に役立つキャラクター解説をしていきます。この本は原作のレミゼのストーリーの流れだけでなく当時の時代背景やもっともっとレミゼを楽しむための豆知識が満載です。 ミュージカルの最高の参考書にもなります。
ミュージカルでは時間の都合上、表現しきれない箇所がどうしても出てきてしまいます。そこで、より深くレミゼを知るためにこの本とユゴーの原作をたよりにしながらそれぞれのキャラクターを見ていきたいと思います。
あわせて読みたい
鹿島茂『「レ・ミゼラブル」百六景』あらすじと感想~時代背景も知れるおすすめの最強レミゼ解説本!
この本はとにかく素晴らしいです。最強のレミゼ解説本です。
挿絵も大量ですので本が苦手な方でもすいすい読めると思います。これはガイドブックとして無二の存在です。ぜひ手に取って頂きたいなと思います。
また、当時のフランスの時代背景を知る資料としても一級の本だと思います。レミゼファンでなくとも、19世紀フランス社会の文化や歴史を知る上で貴重な参考書になります。
なぜコゼットはテナルディエ夫妻に預けられたのか
前回の記事ではファンテーヌの悲惨な運命についてお話ししました。
今回の記事ではそんなファンテーヌの娘コゼットについてお話ししていきます。
コゼットといえば言わずと知れた『レ・ミゼラブル』の顔というべき存在です。下のポスターでお馴染みですよね。
コゼットはもはや世界で最も有名な少女と言っても過言ではありません。
困窮に苦しむファンテーヌの手を離れてテナルディエ家に預けられたコゼット。彼女はまるでシンデレラのようにこき使われ、いじめられていたのでした。ミュージカルや映画を観た人はもしかしたら次のような疑問を持ったかもしれません。「なんでテナルディエみたいな悪党の家にわざわざコゼットを預けてしまったのか」と。
たしかに、これはよくよく考えてみたらそうですよね。コゼットがなぜテナルディエのもとに預けられることになったのか、その経緯は気になるところです。また、そもそもファンテーヌとテナルディエはどこで接点があったのでしょうか。
こうしたこともこれまでの記事で紹介したミリエル司教やジャン・ヴァルジャン、ファンテーヌと同じく原作ではしっかりと書かれています。
では、いつものごとく鹿島茂著『「レ・ミゼラブル」百景』を読んでいきましょう。
一八一八年のある日の夕方、コゼットを抱いたファンチーヌはモンフェルメイユの一軒の安料理屋の前を通りかかった。道路では、小さな女の子が二人、巨大な荷馬車の前輪につるした鎖で遊んでいた。きれいな服を着た二人の子供は光り輝くほどかわいらしかった。
ファンチーヌは思わず「なんてかわいらしいんでしょう」と叫んだ。そばにいた大柄な母親がファンチーヌにべンチにすわるように勧めた。コゼットが女の子たちといっしょになって三人の姉妹のように遊ぶのを見ていたファンチーヌは、思い切って、コゼットをしばらく預かってくれないかとたのんだ。すると奥から亭主の声がして月に七フランの半年分、それに支度金十五フランと子供の服を置いていくなら預かってもいいと答えた。ファンチーヌは翌朝、その金を払い、コゼットを残して出ていった。テナルディエ夫妻がどんな人間かも知らずに―
文藝春秋、鹿島茂『「レ・ミゼラブル」百六景』P72
ファンテーヌはパリでは仕事がなかったので故郷のモントルイユ=シュル=メールに帰ることにしました。その時ファンテーヌは22歳。幼いコゼットはまだ2歳でした。しかもその時の所持金はたったの80フラン。日本円にして8万円でした。
そんなファンテーヌがたまたま通りかかったのがテナルディエの安料理屋だったのです。
そこで彼女が目にしたのはかわいらしい女の子たち。
その子たちはきれいな服を着せられていかにも幸せそうに見えたのでした。この女の子の一人は後にマリユスを助けて命を落とすエポニーヌです。
ミュージカルや映画を観た方はご存知だと思いますが、テナルディエ夫妻は自分の子はかなりかわいがります。
そんな女の子たちを見たファンテーヌはこの子たちの親ならばコゼットも大切に育ててくれるかもしれないと思ってしまったのでした。ファンテーヌはまだ22歳。さらに基本的に善良で騙されやすい性格です。恋人にもそうして騙されています。彼女にはまだまだ人を見抜く目がありませんでした。
テナルディエは金に困っていたので、ファンチーヌの五十七フランで手形を落とし、翌月また金が必要になるとコゼットの衣類を質屋で六十フランにかえた。この金を使ってしまうと、コゼットをお情けで引き取っている子供としか見なくなった。服は娘たちのお古を着せ、食事は犬や猫といっしょにテーブルの下でとらせた。テナルディエの女房は片方を愛するためにはもう一方を憎まずにはいられないたちの女だったので、娘たちを愛した分だけコゼットを憎み、二人の娘たちも母親にならってコゼットをいじめた。ファンチーヌはテナルディエの要求するままに仕送りを続けたが、コゼットは五歳て料理屋の女中にされてしまった。
コゼットが真冬の日の出前に、穴のあいたぼろを着て、赤くなった小さな手に大きなほうきを持って、目に涙を浮かべながら店先を掃いている姿は痛ましかった。
文藝春秋、鹿島茂『「レ・ミゼラブル」百六景』P76
テナルディエ夫妻がどんな人間かは私たちはすでに知っています。しかしファンテーヌはこうして何も知らずにコゼットを彼らに預けてしまいます。そしてその後テナルディエ夫妻にコゼットをネタにお金をゆすられ困窮のどん底に沈んでしまうのでした。
また、上の解説にありますように預けられたコゼットの方も辛い日々を送っていました。
Wikipediaより
きっと誰しもが一度は目にしたことがあるこの有名な絵はこの場面を描いたものでした。
ファンテーヌはこの家に預ければこの子も幸せになるかもしれないと思い、コゼットを預けたのでした。
しかし、その結果は私達の知る通り、全くの真逆でした。悲惨な運命はこの親子をどん底に落とすのです。
コゼットの幸せを願ってとった行動が結果的に最悪の結末を迎えてしまうのでした。
こうしてファンテーヌはより貧しくなり、コゼットはこき使われる過酷な日々を過ごすことになったのです。
次の記事では徒刑囚だったジャン・ヴァルジャンがなぜいきなり裕福な工場長、市長にまでなれたのかということをお話ししていきます。
以上、「コゼットはなぜテナルディエ夫妻に預けられたのか~鹿島茂著『「レ・ミゼラブル」百六景』より」でした。
Amazon商品ページはこちら↓
「レ・ミゼラブル」百六景
レ・ミゼラブル(一)(新潮文庫)
次の記事はこちら
あわせて読みたい
ジャン・バルジャンはなぜマドレーヌ市長として成功できたのか
徒刑囚として19年も服役したジャン・バルジャン。
そんな荒みきっていた彼はミリエル司教と出会い、新たな人生を歩むことを誓います。
ジャン・バルジャンはその後マドレーヌという名前で生活し、別の街で工場長、そして市長にまでなっていたのでした。
パリの貧困層出身だったジャン・バルジャンがなぜここまで成功することができたのか。よくよく考えれば不思議ですよね。徒刑囚だった頃とはまるで別人です。
今回の記事ではなぜジャン・バルジャンがここまでの成功を遂げることができたかをお話ししていきます。
前の記事はこちら
あわせて読みたい
ファンテーヌはなぜ悲惨な道を辿ったのか~『I Dreamed A Dream(邦題 夢やぶれて)』
ユゴーはこうした貧しい女性の問題、捨てざるをえなくなった子供たちの問題をこの作品で表現しています。ファンテーヌの悲惨は彼女一人だけでなく社会全体の悲惨でもあったのです。ユゴーはそんな社会を変革したいという願いもこの作品に込めていたのでありました。
ファンテーヌを知ることは当時のフランス社会が抱えていた問題を知ることにもなります。
こうした背景を取り込みつつミュージカルや映画の短い時間でそれを表現した製作陣のすごさには恐れ入るばかりです。ますますレミゼが好きになりました。
関連記事
あわせて読みたい
レミゼのミリエル司教の燭台と蝋燭の大きな意味~暗闇を照らす光のはたらきー鹿島茂『パリ時間旅行』より
今回の記事ではレミゼのミリエル司教の銀の燭台と蝋燭をテーマに、「闇を照らす光のはたらき」を見ていきます。これを知ることでレミゼをまた違った角度から楽しむことができるのではないでしょうか。
食事中何気なく描かれていた銀の燭台と蝋燭の意味・・・そしてジャン・バルジャンがなぜ最後までこの燭台を大切にしていたのか、それが一気に解き明かされます。やはりユゴーはすごい!そしてそれをわかりやすく教えてくれる鹿島先生のすごさたるやです!
あわせて読みたい
ジャン・バルジャンを救ったミリエル司教とは?レミゼの光とも言うべき善良すぎる司教をご紹介
ジャン・バルジャンはミリエル司教の慈悲、優しさに触れ救われました。
そしてそのジャン・バルジャンはファンチーヌ、コゼット、マリユスにその慈しみを注ぎ、彼らもジャン・バルジャンに救われることになるのです。
慈しみが世代を超えて引き継がれていくことの大切さをユゴーはこの物語で示しています。
このようなメッセージを伝える上でもミリエル司教の存在はレミゼにおける重要な柱となっています。
あわせて読みたい
ジャン・バルジャンの悲しき過去とは~なぜ彼は逮捕されたのだろうか
当時のフランスは貧富の差が拡大し凄まじい貧困が蔓延していました。『レ・ミゼラブル』はこうした人々から生まれてきた物語でもありました。そしてその主人公ジャン・バルジャンがこうした環境から生まれてきたというのは非常に大きな意味があります。
ジャン・バルジャンは極度な貧困に苦しみ、家族が餓死しないためにパンを盗みました。
レミゼはここから始まるのです。
あわせて読みたい
「第一部 ファンチーヌ」あらすじと感想~偉大なる主人公ジャン・ヴァルジャンとは!
わずか一片のパンを盗んだために、19年間の監獄生活を送ることになった男、ジャン・ヴァルジャン。
ジャン・ヴァルジャンという名を聞けば、おそらくほとんどの人が「あぁ!聞いたことある!」となるのではないでしょうか。この人ほど有名な主人公は世界中見渡してもなかなかいないかもしれません。
そのジャン・ヴァルジャンの過去や彼の心の支えとは何なのかということがこの第一部「ファンチーヌ」で明らかにされます。
ということで早速この本を読み始めてみると、驚きの展開が待っています。
あわせて読みたい
ミュージカル映画『レ・ミゼラブル』あらすじと感想~ユゴーの原作との比較
ミュージカル映画『レ・ミゼラブル』解説とキャスト、あらすじ 原作の『レ・ミゼラブル』を読み終わった私は早速その勢いのままにミュージカル映画版の『レ・ミゼラブル...
あわせて読みたい
ジャヴェールこそ『レ・ミゼラブル』のもう一人の主人公である!愛すべき悪役ジャヴェールを考える
私にとって、『レ・ミゼラブル』で最も印象に残った人物がこのジャヴェールです。
このキャラクターの持つ強烈な個性がなんとも愛おしい。
たしかに悪役なのですがなぜか憎みきれない。
そんな魅力がこの男にはあります。
この記事ではそんな「もう一人の主人公」ジャヴェールについてお話ししていきます。
あわせて読みたい
ジャヴェール(ジャベール)はなぜ死んだのか。『レ・ミゼラブル』原作からその真相を探る。
前回の記事「ジャヴェールこそレミゼのもう一人の主人公である!愛すべき悪役ジャヴェールを考える」ではジャヴェール(ジャベール)こそ『レ・ミゼラブル』のもう一人の主人公であるということをお話ししました。
そして今回の記事ではそのジャヴェールがなぜ自ら死を選んだのかということを、レミゼの原作にたずねていきます。
あわせて読みたい
長編小説と読書の3つのメリット~今こそ名作を読もう!『レ・ミゼラブル』を読んで感じたこと
皆さんは長編小説と言えばどのようなイメージが浮かんできますか?
古典。難しい。長い。つまらない。読むのが大変・・・などなど、あまりいいイメージが湧いてこないかもしれません。
特に一昔前の有名な作家の古典となると、それは余計強まるのではないでしょうか。
ですが今回レミゼを読み終わってみて、長編小説ならではのいいところがたくさんあることを改めて感じました。
この記事では普段敬遠されがちな長編小説のメリットと効能を考えていきたいと思います。
あわせて読みたい
ディヴィッド・ベロス『世紀の小説 『レ・ミゼラブル』の誕生』あらすじと感想~レミゼファン必見のおす...
この本はものすごいです。とにかく面白い!
大好きなレミゼがどのようにして生まれ、そしてどのように広がっていったのか、そしてミュージカルとのつながりや物語に込められた意味など、たくさんのことを知ることができます。
「『レ・ミゼラブル』の伝記」というのはまさに絶妙な言葉だと思います。この本にぴったりの称号だと思います。
ぜひぜひおすすめしたい名著中の名著です!
あわせて読みたい
フランス革命やナポレオンを学ぶのにおすすめの参考書一覧~レミゼの時代背景やフランス史を知るためにも
『レ・ミゼラブル』の世界は1789年のフランス革命やその後のナポレオン時代と直結しています。これらの歴史を知った上でレミゼを観ると、もっともっと物語を楽しめること間違いなしです。
コメント