目次
おすすめの最強レミゼ解説本!鹿島茂『「レ・ミゼラブル」百六景』概要と感想
2021年の『レ・ミゼラブル』が5月末より始まりました。
やはりレミゼは素晴らしい・・・!
なかなか自由に外出できない中、映画やCD、youtubeでレミゼのミュージカルの世界に浸っています。
当ブログでもこれまでレミゼについていくつか記事を書いてきました。
ですが、あらすじやジャヴェールの記事などは書いたものの、レミゼを知るための参考書についてはまだ記事を書いていませんでした。
というわけでレミゼのミュージカルも始まったということで、これよりレミゼの参考書についてブログ記事を更新していきたいと思います。
今回ご紹介するのは文藝春秋より2012年に発行された鹿島茂著『「レ・ミゼラブル」百六景』です。
早速この本の紹介を見ていきましょう。
ヴィクトル・ユゴーの『レ・ミゼラブル』は、人類愛の物語であると同時に、当時の貧困と無知が生み出す社会の悲惨さ(都市人口の集中、都市環境の劣悪化、産業革命による過酷な労働、失業の拡大等)を告発する社会小説である―。フランス文学者にして無類の愛書家・鹿島茂氏が、1879年出版のユーグ版に掲載された木版画挿絵から選んだ230葉をもとに、骨太なストーリーラインを追いつつ、そこに描かれた当時の社会情勢、風俗を微に入り細を穿った解説、一読で『レ・ミゼラブル』の全体像を把握できるつくりになっている。なぜジャン・ヴァルジャンは、パリのその街区に身を隠したのか?里親から虐待を受けるコゼットが、夜店で見ていた人形はどこ製か? 木版画の細部から、みじめな人々”の物語をあざやかに甦らす。長大な傑作の全貌がこれ一冊でわかる。
Amazon商品紹介ページより
まずはじめに言わせてください。
この本はとにかく素晴らしいです。最強のレミゼ解説本です。
この本のまえがきで鹿島氏は次のように述べています。
世の中には、誰でも題名とあらすじぐらいは知っているか実際には誰も読んだことのない《世界の名作》というものが存在している。これらの《名作》は大人たちの親切心から、たいていは抄訳の形で『少年少女世界文学全集』の類いにおさめられているか、こうした抄訳で《名作》を読んだ少年少女が成人してから完訳版でその作品を読み返すことはまずないといっていい。
思うに、こうした読まれざる《名作》は大きく二つの系列に分けることができる。一つは『ドン・キホーテ』『ガリヴァー旅行記』といったきわめて象徴性が高い作品で、いちど概要を知れば、あらためて読み返す必要がないように思えるものである。もう一つは、いわば普遍的な通俗性とでもいえる要素を備えた作品で、何度も映画化やドラマ化されているため、読みもしないのになんとなく読んだ気になってしまうものである。ヴィクトル・ユゴーの『レ・ミゼラブル』は、幸か不幸か、このどちらの要素も含んでいる。したがってほとんど読まれることがない。もしフランス文学に関するアンケートを取ったなら、題名を知っている作品のトップには必ずこの『レ・ミゼラブル』が来るだろうが、読了した作品の項目では順位はかなり下になるはずである。
文藝春秋、鹿島茂『「レ・ミゼラブル」百六景』P3-4
『レ・ミゼラブル』の原作は文庫本で2500ページを超える大作です。ミュージカルや映画で大人気のレミゼですがいざ原作を読むとなるとなかなか厳しいものがあります。
あわせて読みたい
ユゴー『レ・ミゼラブル』あらすじと感想~ミュージカルでも有名なフランス文学の最高傑作!
『レ・ミゼラブル』は分量も多く、原作はほとんど読まれていない作品ではあるのですが、基本的には難しい読み物ではなく、わかりやすすぎるほど善玉悪玉がはっきりしていて、なおかつ物語そのものもすこぶる面白い作品です。
しかも単に「面白過ぎる」だけではありません。この作品にはユゴーのありったけが詰まっています。つまり、ものすごく深い作品でもあります。私もこの作品のことを学ぶにつれその奥深さには驚愕するしかありませんでした。
ぜひミュージカルファンの方にも原作をおすすめしたいです
そこでこの本の出番です。
この本はレミゼの物語の重要なシーンをタイトルにありますように106のシーンに分けて挿絵と共に解説していきます。
ひとつのシーンに対して2枚の挿絵が付きますのでかなりたくさんの絵を見ることができます。
小説だけだと文字だけですべての状況を想像しなければならないのに対し、挿絵があるとやはりイメージしやすいですよね。
しかもまた鹿島氏の解説が抜群にわかりやすく面白いのです。
レミゼのストーリーの流れだけでなく当時の時代背景やもっともっとレミゼを楽しむための豆知識が満載です。
そしてこれはミュージカルのレミゼの最高の参考書にもなります。
次の記事からいくつかご紹介していきますが、原作ではミュージカルの時間の制限上泣く泣くカットせざるをえなかった部分も詳しく話されています。
たとえばジャン・ヴァルジャンはなぜ市長になれたのかということやファンチーヌはなぜあんな悲劇的な状況に落ち込んだのかなど、マリユスはそもそもどんな生まれでどう育ってきたのかということも原作ではもっと掘り下げられています。
こうしたこともこの本ではしっかり解説されていますのでミュージカルをより楽しむための最強の参考書ともなっています。「え!?この人ってこんな背景があったのか!」と驚くことがたくさんあると思います。
もちろん、原作をこれから読みたいという人、そしてすでに読んだ人にとっても非常に有益な情報がたくさん解説されています。
これ一冊でレミゼだけでなく当時の時代背景まで知ることができる最高の相棒になります。
ミュージカルや映画を観た人は確実にレミゼにはまると思います。ですがそこから原作を全部読もうというのはなかなかに厳しいと思います。
ですが、原作を読まなくとも、まずはこの本を手に取ってみてください。とにかくわかりやすい本です。そして何より面白い!挿絵も大量ですので本が苦手な方でもすいすい読めると思います。これはガイドブックとして無二の存在です。ぜひ手に取って頂きたいなと思います。
また、当時のフランスの時代背景を知る資料としても一級の本だと思います。レミゼファンでなくとも、19世紀フランス社会の文化や歴史を知る上で貴重な参考書になります。
次の記事からこの本よりいくつかのシーンを紹介していきます。ミュージカルや映画のレミゼを観る際にも非常に役に立つポイントですのでぜひ引き続きお付き合い頂けたらなと思います。
以上、「おすすめ!鹿島茂『「レ・ミゼラブル」百六景』~時代背景も知れる最強のレミゼ解説本!」でした。
Amazon商品ページはこちら↓
「レ・ミゼラブル」百六景
次の記事はこちら
あわせて読みたい
ジャン・バルジャンを救ったミリエル司教とは?レミゼの光とも言うべき善良すぎる司教をご紹介
ジャン・バルジャンはミリエル司教の慈悲、優しさに触れ救われました。
そしてそのジャン・バルジャンはファンチーヌ、コゼット、マリユスにその慈しみを注ぎ、彼らもジャン・バルジャンに救われることになるのです。
慈しみが世代を超えて引き継がれていくことの大切さをユゴーはこの物語で示しています。
このようなメッセージを伝える上でもミリエル司教の存在はレミゼにおける重要な柱となっています。
前の記事はこちら
あわせて読みたい
長編小説と読書の3つのメリット~今こそ名作を読もう!『レ・ミゼラブル』を読んで感じたこと
皆さんは長編小説と言えばどのようなイメージが浮かんできますか?
古典。難しい。長い。つまらない。読むのが大変・・・などなど、あまりいいイメージが湧いてこないかもしれません。
特に一昔前の有名な作家の古典となると、それは余計強まるのではないでしょうか。
ですが今回レミゼを読み終わってみて、長編小説ならではのいいところがたくさんあることを改めて感じました。
この記事では普段敬遠されがちな長編小説のメリットと効能を考えていきたいと思います。
関連記事
あわせて読みたい
鹿島茂『馬車が買いたい!』あらすじと感想~青年たちのフレンチ・ドリームと19世紀パリの生活を知るな...
この本ではフランスにおける移動手段の説明から始まり、パリへの入場の手続き、宿探し、毎日の食事をどうするかを物語風に解説していきます。
そしてそこからダンディーになるためにどう青年たちが動いていくのか、またタイトルのようになぜ「馬車が買いたい!」と彼らが心の底から思うようになるのかという話に繋がっていきます。
あわせて読みたい
鹿島茂『明日は舞踏会』あらすじと感想~夢の社交界の実態やいかに!?パリの女性たちの恋愛と結婚模様を...
華やかな衣装に身を包み、優雅な社交界でダンディー達と夢のようなひと時を…という憧れがこの本を読むともしかしたら壊れてしまうかもしません。
社交界は想像以上にシビアで現実的な戦いの場だったようです。
当時の結婚観や男女の恋愛事情を知るには打ってつけの1冊です。
あわせて読みたい
鹿島茂『職業別 パリ風俗』あらすじと感想~19世紀パリの人々の生活と職業、時代背景を知るならこの一冊!
この本では19世紀中頃のパリの人々の生活を職業という面から見ていきます。
小説が書かれた当時に当たり前だったことはわざわざ書かれたりはしません。
学生や医者、教師、グリゼット、警察、ジャーナリストなどなど、この本では様々な職業の「当たり前」を知ることができます。
この本を読めばフランス文学がものすごくわかりやすくなります。
あわせて読みたい
レミゼのミリエル司教の燭台と蝋燭の大きな意味~暗闇を照らす光のはたらきー鹿島茂『パリ時間旅行』より
今回の記事ではレミゼのミリエル司教の銀の燭台と蝋燭をテーマに、「闇を照らす光のはたらき」を見ていきます。これを知ることでレミゼをまた違った角度から楽しむことができるのではないでしょうか。
食事中何気なく描かれていた銀の燭台と蝋燭の意味・・・そしてジャン・バルジャンがなぜ最後までこの燭台を大切にしていたのか、それが一気に解き明かされます。やはりユゴーはすごい!そしてそれをわかりやすく教えてくれる鹿島先生のすごさたるやです!
あわせて読みたい
『レ・ミゼラブル』おすすめ解説本一覧~レミゼをもっと楽しみたい方へ
原作もミュージカルもとにかく面白い!そして知れば知るほどレミゼを好きになっていく。それを感じた日々でした。
ここで紹介した本はどれもレミゼファンにおすすめしたい素晴らしい参考書です。
あわせて読みたい
『レ・ミゼラブル』解説記事一覧~キャラクターや時代背景などレミゼをもっと知りたい方へおすすめ!
この記事ではこれまで紹介してきた「レミゼをもっと楽しむためのお役立ち記事」をまとめています。
私はレミゼが大好きです。ぜひその素晴らしさが広まることを願っています。
あわせて読みたい
ドストエフスキーも愛した『レ・ミゼラブル』 レミゼとドストエフスキーの深い関係
ドストエフスキーは10代の頃からユゴーを愛読していました。
ロシアの上流階級や文化人はフランス語を話すのが当たり前でしたので、ドストエフスキーも原文でユゴーの作品に親しんでいました。
その時に読まれていた日本でもメジャーな作品は『ノートル=ダム・ド・パリ』や『死刑囚最後の日』などの小説です。
そんな大好きな作家ユゴーの話題の新作『レ・ミゼラブル』が1862年にブリュッセルとパリで発売されます。
ちょうどその時にヨーロッパに来ていたドストエフスキーがその作品を見つけた時の喜びはいかほどだったでしょうか!
あわせて読みたい
ユゴー『レ・ミゼラブル』あらすじと感想~ミュージカルでも有名なフランス文学の最高傑作!
『レ・ミゼラブル』は分量も多く、原作はほとんど読まれていない作品ではあるのですが、基本的には難しい読み物ではなく、わかりやすすぎるほど善玉悪玉がはっきりしていて、なおかつ物語そのものもすこぶる面白い作品です。
しかも単に「面白過ぎる」だけではありません。この作品にはユゴーのありったけが詰まっています。つまり、ものすごく深い作品でもあります。私もこの作品のことを学ぶにつれその奥深さには驚愕するしかありませんでした。
ぜひミュージカルファンの方にも原作をおすすめしたいです
あわせて読みたい
ミュージカル映画『レ・ミゼラブル』あらすじと感想~ユゴーの原作との比較
ミュージカル映画『レ・ミゼラブル』解説とキャスト、あらすじ 原作の『レ・ミゼラブル』を読み終わった私は早速その勢いのままにミュージカル映画版の『レ・ミゼラブル...
あわせて読みたい
ジャヴェールこそ『レ・ミゼラブル』のもう一人の主人公である!愛すべき悪役ジャヴェールを考える
私にとって、『レ・ミゼラブル』で最も印象に残った人物がこのジャヴェールです。
このキャラクターの持つ強烈な個性がなんとも愛おしい。
たしかに悪役なのですがなぜか憎みきれない。
そんな魅力がこの男にはあります。
この記事ではそんな「もう一人の主人公」ジャヴェールについてお話ししていきます。
あわせて読みたい
ジャン・バルジャンの悲しき過去とは~なぜ彼は逮捕されたのだろうか
当時のフランスは貧富の差が拡大し凄まじい貧困が蔓延していました。『レ・ミゼラブル』はこうした人々から生まれてきた物語でもありました。そしてその主人公ジャン・バルジャンがこうした環境から生まれてきたというのは非常に大きな意味があります。
ジャン・バルジャンは極度な貧困に苦しみ、家族が餓死しないためにパンを盗みました。
レミゼはここから始まるのです。
あわせて読みたい
フランス革命やナポレオンを学ぶのにおすすめの参考書一覧~レミゼの時代背景やフランス史を知るためにも
『レ・ミゼラブル』の世界は1789年のフランス革命やその後のナポレオン時代と直結しています。これらの歴史を知った上でレミゼを観ると、もっともっと物語を楽しめること間違いなしです。
コメント