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青木保編著『聖地スリランカ—生きた仏教の儀礼と実践』あらすじと感想~現地での実際の宗教実践を詳しく知れるおすすめ作品

聖地スリランカ
目次

青木保編著『聖地スリランカ—生きた仏教の儀礼と実践』概要と感想~現地での実際の宗教実践を詳しく知れるおすすめ作品

今回ご紹介するのは1985年に日本放送出版協会より発行された青木保編著『聖地スリランカ—生きた仏教の儀礼と実践』です。

今作はスリランカの宗教の実際の儀礼の現場をフィールドワークによって明らかにしていく作品です。

本書タイトルにある「生きた仏教」について編著者は次のように述べています。

宗教は本来「生きる」ためのものであり、教義も規律も「生きる」ために存在するはずである。宗教を理解するためには、その生きた実態の把握抜きには不可能に違いない。スリランカの仏教も、この点、全く同じことを呈示する。生きた実態の理解から入ってゆく以外にそれを理解する方法がない。

スリランカという国を理解するためには仏教を知らないでは不可能であるし、仏教を理解するには書物や説教だけでは無理というものである。それが社会において、どのような形で受け入れられ、どのように信仰が行われ、どのように「生きている」のかを、まず知る必要がある。

日本放送出版協会、青木保編著『聖地スリランカ—生きた仏教の儀礼と実践』P10-11

「仏教を理解するには書物や説教だけでは無理というものである」

これは非常に重要な指摘です。宗教、いや人間そのものを考える際にも忘れてはいけない視点であると思います。

そして編著者は本書について次のように述べています。

スリランカ仏教も実に多彩でさまざまな面をもっている。本書では、そのなかでもとくに重要と思われるいくつかの面を明らかにしようと試みた。(中略)

現在のスリランカ仏教をとらえようとする場合、仏僧が中心となって行う儀礼(第一章)と、仏教の祝祭的な展開としてのペラヘラ祭(第二章)と、民間信仰との混合を仏教の枠内で示す治療儀礼(第三章)とは、いずれもスリランカ仏教の理解に欠かせない。仏教という場合、それは単なる教義のみをさすわけではない。ブッダ(仏)、ダンマ(仏法)、サンガ(僧集団)によって仏教は成立しても、その実行は広い社会的文化的な行為を含む。その範囲はスリランカ文化と密接に結びついている。以上の三つの面からこの面をとらえることにしたい。

本書は、いずれも実践活動を通してみた三つの面でのスリランカ仏教の行動形態を、実態調査に基づいて明らかにしようとするものである。文化人類学的な立場からの仏教研究であるが、スリランカ仏教の実態をなるべく忠実に伝えようとした。記述のスタイルは、論文調ではなく、なるべくわかりやすく、かつ個人の感情も抑えない紀行文の形をとった。

これがスリランカ仏教の全体であるなどとは決していえないことは当然だが、その性格のいく分かはここから明らかになるはずである。仏教がこうした形で行われていることを伝えられれば幸いである。

「小乗」仏教は日本でもっともよく知られるところのない宗教であることは事実であるので、大きな意味でわれわれ日本人の仏教とは違った、もう一方の仏教の展開としてスリランカ仏教を広く知っていただきたいという気持が筆者一同にある。考えてみれば、アジア大陸のいわば東端と南端に日本とスリランカとは位置し、ともに島国であり、仏教国である。

それにスリランカ仏教を知ると、人間による人間のための宗教ともいえる仏教のもっとも直截な表現形が、ここにあるという気にもさせられるのである。

では、これからその実態を見てみよう。

日本放送出版協会、青木保編著『聖地スリランカ—生きた仏教の儀礼と実践』P14-16

「記述のスタイルは、論文調ではなく、なるべくわかりやすく、かつ個人の感情も抑えない紀行文の形をとった。」とここで述べられるように本書はとても読みやすいです。宗教実践の現場をそこにいるかのように読み進めることができます。

また、写真も豊富ですので現地の雰囲気もイメージしやすいです。儀式そのものの写真もそうですが街並みの写真も風情があってとても印象に残っています。スリランカに行きたくなる写真が満載です。

本書もスリランカ仏教を知る上でとてもおすすめな作品です。ぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。

以上、「青木保編著『聖地スリランカ—生きた仏教の儀礼と実践』~現地での実際の宗教実践を詳しく知れるおすすめ作品」でした。

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この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

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