チェ・ゲバラ『モーターサイクル南米旅行日記』あらすじと感想~若きゲバラのドン・キホーテの旅!映画の原作としても有名な作品
チェ・ゲバラ『モーターサイクル南米旅行日記』あらすじと感想~若きゲバラのドン・キホーテの旅!映画の原作としても有名な作品
今回ご紹介するのは2004年に現代企画室より発行されたエルネスト・チェ・ゲバラ著、棚橋加奈江訳の『増補新版 チェ・ゲバラ モーターサイクル南米旅行日記』です。
早速この本について見ていきましょう。
出版社内容情報
ゲバラは、若い時代にこんな旅行をしたんだ!喘ぐ古バイクでアンデスを越え、船倉のトイレに隠れて「密航」し、野宿し、ヒッチハイクし、いかだでアマゾン川を下る。金はない、他人の好意にすがるのみ。無鉄砲だが、情熱的な旅のようすを、おもしろおかしく記録する青春真っ只中のチェ・ゲバラ。
内容説明
喘ぐ古バイクでアンデスを越え、船倉のトイレに隠れて「密航」し、野宿し、ヒッチハイクし、いかだでアマゾン川を下る。金はない、他人の好意にすがるのみ。無鉄砲だが、情熱的な旅のようすを、おもしろおかしく記録する青春のチェ・ゲバラ。
紀伊國屋書店商品紹介ページより
※今回は旧版の本紹介を引用しました
この作品は『モーターサイクル・ダイアリーズ』として映画化されたことでも有名です。
著者のチェ・ゲバラはアルゼンチン生まれの革命家でキューバ革命の英雄として名を馳せました。
前々回の記事「三好徹『チェ・ゲバラ伝』~キューバ革命を代表する革命家チェ・ゲバラの生涯と思想を知るのにおすすめの伝記」でもチェ・ゲバラについて紹介しましたが、改めてゲバラのプロフィールを見ていきましょう。
アルゼンチンのロサリオに生まれる。二歳の時から喘息の発作に苦しむ。裕福な家庭で、文学、旅行、喘息をおしてラグビーやサッカーなどの激しいスポーツを楽しむ。
医者の資格を得て後の南米旅行の中途でいくつもの偶然からボリビア、グアテマラを経てメキシコへ行く。そこでキューバから亡命中のフィデル・カストロらと出会い意気投合してキューバへの帰還作戦と革命ゲリラ闘争に参加。1959年革命勝利後国立銀行総裁、工業相などを歴任。
1965年、国際的な革命闘争に参加するためにキューバを離れる。コンゴなどで闘争の可能性を探ったが、1966年変装してボリビアに入国。民族解放軍というゲリラ組織を指揮していたが、政府軍との戦闘で負傷して捕われ、射殺された。享年39歳であった。
現代企画室、エルネスト・チェ・ゲバラ、棚橋加奈江訳『増補新版 チェ・ゲバラ モーターサイクル南米旅行日記』より
チェ・ゲバラは裕福な家庭に生まれ、医学生として若き日を過ごしていました。そのまま安定した道を選んでいれば安泰な人生を過ごせたはずです。
ですがゲバラはそうはなりませんでした。彼は親友と二人でおんぼろバイクにまたがり南米を走破するという無謀な旅に出ます。これがゲバラの人生を決定的に変えるものとなったのでした。
そしてその旅の記録が今作『モーターサークル南米旅行日記』になります。
この記事のタイトルに書きましたようにこの旅はまさしくドン・キホーテの旅のように私には思えました。
おんぼろバイクポデローサ2号はすぐに故障し、何度も何度も転倒事故を起こし彼らを身体ごと投げ出します。そしてゲバラ達も行く先行く先でハプニングを起こし続ける珍道中を繰り広げていきます。これはまさにドン・キホーテとしか思えない箇所がどんどん出てきます。
ただ、ゲバラはこの作品の中ではっきりと「自分たちはドン・キホーテの旅をしている」とは言っていません。あくまでほのめかしているに過ぎません。その箇所がこちらです。
これはこの冒険旅行の新しい段階となった。僕らは、独特の身なりとポデローサニ号のありふれた姿で暇人の気をひくことに慣れてしまっていた。ポデローサの喘息のあえぎ声は、僕らを泊めてくれた人たちの同情をかっていた。しかし、僕らはある程度、遍歴の騎士であったと言える。僕らは「のらりくらり」とした時代遅れの貴族階級に属していて、この上なくインパクトの強い学位を付した名刺を持って歩いていた。今となっては別人で、過去の貴族的な生活の悪い癖でつなぎの服に旅の間の垢をすっかりため込んだ、やけに人目を引く二人の放浪者でしかないのだった。
現代企画室、エルネスト・チェ・ゲバラ、棚橋加奈江訳『増補新版 チェ・ゲバラ モーターサイクル南米旅行日記』P60
「僕らはある程度、遍歴の騎士であったと言える」
この「遍歴の騎士」こそまさしくドン・キホーテに他なりません。ゲバラは無類の読書家で若い頃からセルバンテスは大のお気に入りでした。
『ドン・キホーテ』といえば風車に突撃するという有名なエピソードがあります。
普通の人ならば馬鹿にするようなことを大真面目にやってのけるドン・キホーテ。彼は世の不正義を正すために遍歴の騎士となってスペイン中を旅します。
ゲバラはまさにこのドン・キホーテを意識して旅をしていたのではないでしょうか。前々回紹介した『チェ・ゲバラ伝』でもゲバラとドン・キホーテのつながりについて次のように書かれていました。
歴史は多くの革命家をもったが、いったん権力を手にした革命家がみずからその地位を放棄して、困苦にみちた新たな戦列に加わったという例はかつてない。
チェがそれをなした史上最初の革命家であった。もしかすると、愛読書だった作品『ドン・キホーテ』になりかねないその生き方が、この稀有の革命家に天があたえた道なのかもしれなかった。
もとより、チェ自身にもそれはよくわかっていることであった。かれは、カストロあての手紙を書きあげると、両親あてにも手紙を遺した。
ーもう一度わたしは足の下にロシナンテの肋骨を感じています。盾をたずさえて、再びわたしは旅をはじめるのです。(中略)
なんという手紙であろう!革命家チェ・ゲバラとしてではなく、エルネストとして書いたこの手紙には、恐ろしいまでの正確な予見がうかがえる。ロシナンテは、いうまぐもなく、ドン・キホーテの愛馬の名前なのだ。そして、かれの文章が美しければ美しいほど、キューバを去って行くチェの悲劇的な像がうき上がってくる。
文藝春秋、三好徹『チェ・ゲバラ伝 増補版』P312
この箇所は後年ゲバラがキューバを去るときのお話ですので直接的には『モーターサイクル南米旅行日記』のことに言及したものではありません。
ですが彼の生き方そのものが『ドン・キホーテ』に大きな影響を受けていたということは言えるのではないでしょうか。
私はこの『モーターサイクル南米旅行日記』を読んでいて『ドン・キホーテ』的なものをふんだんに感じました。現代日本に生きている私たちには想像もできないほど過酷な旅ですが、ドン・キホーテ的な無鉄砲で能天気な旅です。本当にドン・キホーテそのものだと思ってしまうほどです。
『ドン・キホーテ』ファンにもぜひおすすめしたい作品ですし、ゲバラのことを知りたい方にとってもこの本はとてもおすすめな作品です。
以上、「チェ・ゲバラ『モーターサイクル南米旅行日記』あらすじと感想~若きゲバラのドン・キホーテの旅!映画の原作としても有名な作品」でした。
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