マルクス・エンゲルス『共産党宣言』あらすじと感想~万国のプロレタリア団結せよ!マルクス主義のバイブルとは
マルクス・エンゲルス『共産党宣言』概要と感想~万国のプロレタリア団結せよ!マルクス主義のバイブルとは
今回ご紹介するのは1848年にマルクスとエンゲルスによって発表された『共産党宣言』です。
私が読んだのは岩波書店より1951年に発行された大内兵衛、向坂逸郎訳の『共産党宣言』2020年第104刷版です。
早速この本について見ていきましょう。
「今日までのあらゆる社会の歴史は階級闘争の歴史である」という有名な句に始まるこの宣言は、階級闘争におけるプロレタリアートの役割を明らかにしたマルクス主義の基本文献。マルクス(1818-83)とエンゲルス(1820-95)が1847年に起草、翌年の二月革命直前に発表以来、あらゆるプロレタリア運動の指針となった歴史的文書である。
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ここにありますように、『共産党宣言』はフランス2月革命の直前に発表された作品です。フランス2月革命は社会主義的な色合いが強く、労働者の役割が大きかった革命であり、この革命の直前に『共産党宣言』が発表されたのは世界の歴史において大きな意味がありました。
フランス二月革命については以前当ブログでも紹介しましたので興味のある方はぜひ以下のリンクをご覧ください。
さて、この作品で最も有名な言葉は何と言っても「万国のプロレタリア団結せよ!」の一言です。この言葉はこの作品の一番最後に述べられたもので、この宣言によってその後の時代は大きく動いていくことになりました。
この作品についてジャック・アタリは『世界精神 マルクス』で次のように述べています。
マルクスはエンゲルスが前年に書いた十二の要求をとりあげ、それを十に縮め、史的唯物論の最初の完成稿を書き上げる。それは、プロレタリアが、「窮乏化せ」ざるをえない階級、当時言われた言葉では「幻想をもたない急進的な階級」として描かれた最初のテキストである。その著書の名は『共産党宣言』である。ブリュッセルに亡命していたまだ無名のわずか三十歳の若き哲学者が書いたこのテキストは、宗教の書物を除けば、現代までもっとも読まれた書物となる。(中略)
『宣言』は、階級闘争が歴史の主要要因であり、創造者であるプロレタリアが新しい社会をつくりあげるという、より完全な唯物論に向かっている。この書物は科学的社会主義の始まりであり、権力掌握のための政治活動への道を開く。
『共産党宣言』は人々をとらえ、この一世紀の間、世界の数億人が読み、そしてかなりのものにとって暗記してしまうほどの書物となる。
藤原書店、ジャック・アタリ、的場昭弘訳『世界精神 マルクス』P144-145
驚くべきことにマルクスがこの本を書き上げたのは30歳の時。あの『資本論』が出版されたのはここからさらに19年後の話です。マルクスはすでに20代の頃から反体制派のジャーナリストとして亡命生活を送っていましたが世界的に有名というわけではありませんでした。ですがそんなマルクスが書いたこの作品が「宗教の書物を除けば、現代までもっとも読まれた書物」となり、「この一世紀の間、世界の数億人が読み、そしてかなりのものにとって暗記してしまうほどの書物」となったのはまさに驚くべきことだと言えましょう。
この『宣言』は文庫本で60頁ほどとかなりコンパクトな作品です。
そしてこの作品の要点が前半と後半に特にぎゅっとまとめられています。せっかくですのでこの『宣言』における重要な箇所を本文から見ていくことにしましょう。
ヨーロッパに幽霊が出るー共産主義という幽霊である。
この『宣言』のはじまりはあまりに有名な次の言葉から始まります。
ヨーロッパに幽霊が出るー共産主義という幽霊である。
岩波書店、マルクス・エンゲルス、大内兵衛、向坂逸郎訳『共産党宣言』P39
インパクトのあるこの言葉で序文は書き始められ、世界において共産主義の勢力が力を増していることをマルクスはほのめかします。そしてここから『共産党宣言』は本格的に始まっていきます。
今日までのあらゆる社会の歴史は、階級闘争の歴史である
今日までのあらゆる社会の歴史は、階級闘争の歴史である。
自由民と奴隷、都市貴族と平民、領主と農奴、ギルドの親方と職人、要するに圧制者と被圧制者はつねにたがいに対立して、ときには暗々のうちに、ときには公然と、不断の闘争をおこなってきた。この闘争はいつも、全社会の革命的改造をもって終るか、そうでないときには相闘う階級の共倒れをもって終った。
岩波書店、マルクス・エンゲルス、大内兵衛、向坂逸郎訳『共産党宣言』P41
マルクスは人間世界の歴史をすべて階級闘争の歴史と見なします。そして1848年当時の世界はどうかというと次のようにマルクスは述べます。
われわれの時代、すなわちブルジョア階級の時代は、階級対立を単純にしたという特徴をもっている。全社会は、敵対する二大陣営、たがいに直接に対立する二大階級―ブルジョア階級とプロレタリア階級に、だんだんとわかれていく。
岩波書店、マルクス・エンゲルス、大内兵衛、向坂逸郎訳『共産党宣言』P42
さあ、ここからマルクスの代名詞とも言える「階級闘争」、「ブルジョア」「プロレタリア」という言葉が出てきます。
そしてマルクスはこうしたブルジョア階級を次のように弾劾します。
ブルジョア階級は、支配をにぎるにいたったところでは、封建的な、家父長的な、牧歌的ないっさいの関係を破壊した。かれらは、人間を血のつながったその長上者に結びつけていた色とりどりの封建的きずなをようしゃなく切断し、人間と人間とのあいだに、むきだしの利害以外の、つめたい「現金勘定」以外のどんなきずなをも残さなかった。
かれらは、信心深い陶酔、騎士の感激、町人の哀愁といったきよらかな感情を、氷のようにつめたい利己的な打算の水のなかで溺死させた。かれらは人間の値打ちを交換価値に変えてしまい、お墨つきで許されて立派に自分のものとなっている無数の自由を、ただ一つの、良心をもたない商業の自由と取り代えてしまった。一言でいえば、かれらは、宗教的な、また政治的な幻影でつつんだ搾取を、あからさまな、恥知らずな、直接的な、ひからびた搾取と取り代えたのであった。
ブルジョア階級は、これまで尊敬すべきものとされ、信心深いおそれをもって眺められたすべての職業からその後光をはぎとった。かれらは医者を、法律家を、僧侶を、詩人を、学者を、自分たちのお雇いの賃金労働者に変えた。
ブルジョア階級は、家族関係からその感動的な感傷のヴェールを取り去って、それを純粋な金銭関係に変えてしまった。
岩波書店、マルクス・エンゲルス、大内兵衛、向坂逸郎訳『共産党宣言』P45
「かれらは、信心深い陶酔、騎士の感激、町人の哀愁といったきよらかな感情を、氷のようにつめたい利己的な打算の水のなかで溺死させた」という表現はもはや詩的というほど感情を揺さぶりますよね。
マルクスのこの『宣言』は苦しむ労働者にその苦しみの原因を教え、それに対する感情を爆発させるように書かれます。これがこの本が圧倒的に人を動かした根本要因にあるように思えます。
ただ、ここで説かれた「現金勘定」の流れは実はマルクスのオリジナルではありません。
ここはイギリスの歴史家カーライルの『過去と現在』に大きな影響を受けています。
このことについては上の記事で詳しくお話ししていますのでぜひそちらもご覧ください。
ブルジョア階級は、世界市場の搾取を通して、あらゆる国々の生産と消費とを世界主義的なものに作りあげた。反動家にとってはなはだお気の毒であるが、かれらは、産業の足もとから、民族的な土台を切りくずした。遠い昔からの民族的な産業は破壊されてしまい、またなおも毎日破壊されている。これを押しのけるものはあたらしい産業であり、それを採用するかどうかはすべての文明国民の死活問題となる。(中略)
ブルジョア階級は、すべての生産用具の急速な改良によって、無制限に容易になった交通によって、すべての民族を、どんなに未開な民族をも、文明のなかへ引きいれる。かれらの商品の安い価格は重砲隊であり、これを打ち出せば万里の長城も破壊され、未開人のどんなに頑固な異国人嫌いも降伏をよぎなくされる。かれらはすべての民族をして、もし滅亡したくないならば、ブルジョア階級の生産様式を採用せざるをえなくする。かれらはすべての民族に、いわゆる文明を自国に輸入することを、すなわちブルジョア階級になることを強制する。一言でいえば、ブルジョア階級は、かれら自身の姿に型どって世界を創造するのである。
岩波書店、マルクス・エンゲルス、大内兵衛、向坂逸郎訳『共産党宣言』P48
ブルジョア階級は世界中にその市場を拡大し、地域の産業を破壊しさらに肥大していく。そしてそれに抗うには自分達もブルジョア的な産業を始めなければならない。
これは非常に重要な指摘であり、まさしくその通りです。日本の明治維新以後もまさしくそういう側面があったと思われます。
「これを打ち出せば万里の長城も破壊され」という表現もまたなんとも素晴らしいですよね。ブルジョアの脅威をわかりやすく伝えるのに非常に効果的なはたらきをしています。マルクスといえば難解な言葉を連発する人かと思っていましたがこういうフレーズもどんどん出てくるというのに驚きました。
そしてこの後ブルジョア階級が崩壊していく過程を述べ、マルクスは次のようにまとめます。
かれらは何よりも、かれら自身の墓掘人を生産する。かれらの没落とプロレタリア階級の勝利は、ともに不可避である。
岩波書店、マルクス・エンゲルス、大内兵衛、向坂逸郎訳『共産党宣言』P61
ブルジョア階級はその内部に没落の因を持ち、その崩壊は歴史の必然であると彼はまとめるのです。それを「墓堀人」というまたしても絶妙なたとえを用いて彼は述べるのでした。
「万国のプロレタリア団結せよ!」
そしてこの後も共産主義の原理や議論をマルクスは語り、『宣言』の最後は次のように締めくくられます。
共産主義者は、自分の見解や意図を秘密にすることを軽べつする。共産主義者は、これまでのいっさいの社会秩序を強力的に転覆することによってのみ自己の目的が達成されることを公然と宣言する。支配階級よ、共産主義革命のまえにおののくがいい。プロレタリアは、革命においてくさりのほか失うべきものをもたない。かれらが獲得するものは世界である。
万国のプロレタリア団結せよ!
岩波書店、マルクス・エンゲルス、大内兵衛、向坂逸郎訳『共産党宣言』P97-98
ここでかの有名な「万国のプロレタリア団結せよ!」が満を持して出てきます。
『共産党宣言』のすごい所はその始まりも終わりもあまりに有名な言葉で飾られている点です。
「ヨーロッパに幽霊が出るー共産主義という幽霊である」という始まりも強烈でしたがその終わりも「万国のプロレタリア団結せよ!」ですからこれはものすごいことですよね。
はじまりで読者の心を掴み、すかさず階級闘争の原理を説き、労働者がブルジョアに不当に搾取されていることを知らしめます。そして詩的とも言える感情を揺さぶる文章で労働者の感情を燃え上がらせます。そして最後は「万国のプロレタリア団結せよ!」ですからこれはもう尋常ではない感化力をもった作品であると言えるでしょう。恐るべき文章です。
だからこそこの本は「宗教の書物を除けば、現代までもっとも読まれた書物」となり、「この一世紀の間、世界の数億人が読み、そしてかなりのものにとって暗記してしまうほどの書物」となったのだとつくづく感じます。
コンパクトな作品ですがここに多くの人を動かしたエッセンスがこれでもかと詰まっています。
マルクス・エンゲルスの感化力、影響力を感じた作品でした。
以上、「マルクス・エンゲルス『共産党宣言』概要と感想~万国のプロレタリア団結せよ!マルクス主義のバイブルとは」でした。
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