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『ゲンロンβ63』齋須直人『「カラマーゾフの子供たち」、聖地ヴァラームへ行く』~ドストエフスキーとロシア正教のディープな世界へ

目次

『ゲンロンβ63』齋須直人『「カラマーゾフの子供たち」、聖地ヴァラームへ行く』概要と感想~ドストエフスキーとロシア正教のディープな世界へ

今回ご紹介するのは株式会社ゲンロンより2021年7月に発行された『ゲンロンβ63』所収、齋須直人著『「カラマーゾフの子供たち」、聖地ヴァラームへ行く』です。

齋須氏はロシア正教とドストエフスキーという観点から研究をされている研究者で、今回ご紹介する『「カラマーゾフの子供たち」、聖地ヴァラームへ行く』では、齋須氏が2021年に実際にロシアを訪れ、ロシア正教の聖地を巡った体験をここに記しています。Amazon商品紹介ページでは次のように述べられています。

齋須直人 「カラマーゾフの子供たち」、聖地ヴァラームへ行く

ドストエフスキー生誕200年を記念して制作されるドキュメンタリー映画『カラマーゾフの子供たち』。その撮影のためにロシア正教の聖地ヴァラームを訪れることになった齋須さん。聖地の修道院で触れたドストエフスキーの神学とは。

Amazon商品紹介ページより

この作品では齋須氏がロシア正教の聖地ヴァラームを訪れた体験が旅行記風に綴られます。記事の冒頭で齋須氏は次のように述べます。

今年2021年はドストエフスキー生誕200年に当たる年であり、ロシアはもちろん、日本でも関連するイベントが多数行われている。私は2021年2月半ばから5月初めまでロシア第二の都市サンクト・ペテルブルクに滞在し、ロシアでのドストエフスキーイベントにいくつか参加した。その中でも、『カラマーゾフの子供たち』というドキュメンタリー映画に撮影されるために、フィンランドとの国境近く、ラドガ湖にある聖地ヴァラーム島に滞在したときの体験について記したい

ゲンロンαHPより 

ヴァラーム島と言っても多くの人は初めて聞く地名だと思います。私もこの地についてはほとんど知りませんでした。地図で見ると以下の場所になります。

サンクトペテルブルグから少し行った先ですが、そもそもロシアに行くことすら難易度が高い中さらにその奥地まで行くのは普通の旅行者ではかなり厳しいことが予想されます。

齋須氏は続けます。

 ヴァラームは、ソロフキ(ロシア正教の古儀式派の反乱の拠点となり、ソ連時代には強制収容所として使われた)やオプチナ(『カラマーゾフの兄弟』の修道院のモデル)などと並ぶロシアの有名な聖地だ。あのプーチン大統領が毎年訪れており、2019年にはベラルーシの大統領ルカシェンコを伴って訪問した地でもある。私は、ドストエフスキーとロシア正教の関係について研究しており、ロシアの教会や修道院について知る必要があることから、それらを可能な限り見てきたが、ヴァラームの自然と修道院はその中でも最も美しいものの一つである

ゲンロンαHPより 
ヴァラームの修道院 ※著者より許可を得て掲載しています
日没とヴァラームの修道士 ※著者より許可を得て掲載しています

齋須氏はドストエフスキーやロシア正教を学ぶために、日本で暮らす私たちには想像もできないような世界に飛び込んでいきます。

実はこの記事の前半部分は無料で読むことができます。以下のTwitterのリンクからそこに飛ぶことができますのでまずはぜひそちらをお読み頂けたらと思います。そこではなぜ齋須氏がロシアに向かったのか、なぜヴァラーム島なのかなどの経緯を知ることができます。

この無料部分だけでもすでに面白いのですが、ここから先の有料部分はもっと面白いです。

「とてつもない所に齋須さんは行かれたのだな」と読んでいてびっくりしてしまいました。まず普通の観光者では行くことのできないようなディープな場所です。

預言者イリヤのスキート ※著者より許可を得て掲載しています

ヴァラーム島周辺の小さな島にも祈りのための施設があり、そこにも齋須氏は足を運んでいます。日本人には馴染みの薄いロシア正教ですが、その奥深さを感じます。

シルアーン神父と筆者の対話の撮影風景 ※著者より許可を得て掲載しています

そして現地に住む修道士さんとの対話を通してドストエフスキーとのつながりやロシア正教に関する生の声を聴くことになります。

ロシアの、しかもロシア正教の聖地中の聖地でドストエフスキーはどのように受容されているのか。

そのことは私にとっても非常に興味深いものがありました。

『「カラマーゾフの子供たち」、聖地ヴァラームへ行く』は旅行記的な読み物として楽しめながら、知られざるロシア正教の世界やドストエフスキーとのつながりについて知ることができます。面白くてあっという間に読んでしまいました。

読んでいると旅に出たくてうずうずしてきました。聖地まで実際に行き、その空気を体感すること。そして現地に生きる人の声を聴くこと。本やメディアで知る情報とは違う生の体験。

また自由に動けるようになったらぜひ私もロシアの聖地に行ってみたいなと思いました。

齋須氏の『「カラマーゾフの子供たち」、聖地ヴァラームへ行く』はロシア正教の雰囲気やドストエフスキーとのつながりを知るのに最適な1冊です。また、ドストエフスキーやロシア正教のことを知らなくても齋須氏のディープなロシア体験を記した「旅行記」としても楽しめます。非常におすすめな作品です。ぜひ読んでみてはいかがでしょうか。

以上、「『ゲンロンβ63』齋須直人『「カラマーゾフの子供たち」、聖地ヴァラームへ行く』ドストエフスキーとロシア正教のディープな世界へ」でした。

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この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

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