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R・マッカーター『名建築は体験が9割』あらすじと感想~建造物に込められた意味を知るのにおすすめの解説書

マッカーター
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R・マッカーター『名建築は体験が9割』概要と感想~建造物に込められた意味を知るのにおすすめの解説書

以前紹介しました「キャサリン・メリデール『クレムリン 赤い城壁の歴史』イデオロギーとしての「モスクワのクレムリン」とは」の記事ではクレムリンという圧倒的な建造物についてお話しをしました。

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キャサリン・メリデール『クレムリン 赤い城壁の歴史』あらすじと感想~イデオロギーとしての「モスク... 歴史を知ることは現在を知ることである。 その歴史がどう編纂され、どのような意図を持っているのか。 この本はクレムリンの歴史を学んでいく本ではありますが、実は現在のロシア、いやそれだけにとどまらず世界中の人間の「現在」を解き明かしていく作品となっています。これは非常に興味深いです。 この本を読むことでクレムリンを通したロシアの歴史、精神を学ぶことができます。非常にスリリングで面白い本でした。かなりおすすめです!

その記事の中で、クレムリンだけでなく、イスタンブールのアヤ・ソフィアやバチカンのサン・ピエトロ大聖堂も紹介し圧倒的建造物の意味をお話ししました。

今回の記事ではそんな建造物を考えていく上でちょうど面白そうな本を発見しましたのでそちらを少しだけ紹介します。

それが、ロバート・マッカーター著『名建築は体験が9割』という本です。

著者のロバート・マッカーターは現役の建築士・作家で、2007年以降は米国ミズーリ州にあるセントルイス・ワシントン大学の建築学部教授も務めています。1991年から2001年まではフロリダ大学の建築学科長を務め、その他コロンビア大学でも教鞭を取っていたそうです。

では、早速この本の紹介文を見ていきましょう。

「体験=内部空間」から建築を論じた、画期的な建築論。

名建築は、なぜ優れているのか。その答えは、「体験=内部空間」にあった!

ライト、コルビュジエ、アールトほか、巨匠の建築を「内部空間の体験」からとらえ直し、

いかに体験からの発想が建築を優れたものにしているかを鮮やかに分析。

体験こそが、建築の始まりであり、同時に最終的な評価基準であることを明らかにする。

さらに、建築のみならずヴィクトル・ユゴーら海外の小説、ジョルジュ・ブラックなどの美術作品からも

空間を読み解くことで、近代における内部空間の重要性を考察する。

見た目に目が行きがちな建築デザインの世界で、体験の大切さを見つめ直す、これまでにない建築論。

Amazon商品紹介ページより

建築は外観だけではなく、内部空間で感じる体験こそ人を感動させるのだということをこの本では教えてくれます。

また、マッカーターは現代の建築を取り巻く状況について次のように警鐘を鳴らします。

 今日の建築においても内部体験が最も重要であり続けていると証明するため、現在の文化や社会が、建築の表現のなかで外観や外部形態だけに固執している現状に対抗しなければならない。

そうした現状のせいで、建物は地形の特性や気候風土、地域の文化や社会、そして建築の伝統がもつ特性から切り離され、あらゆる面でその場から分断された、ただ美的な志向をもつ単独のオブジェとして経験されるようになっている。

あわせて、外部形態への注目が強調されることで、内部体験に対してはほとんど無知に近くなっていることも大きな問題だ。建築を評価し理解するうえで、外観写真が文字通り唯一の「事実」と見なされており、その傾向が建築史家、批評家、教育者、さらには建築家自身のほとんど独占的とも言える建物外観への関心へと反映されている。

さらに重要なのは、この建築の外部形態という視覚的表現への固執が、インターネットへの投稿から出版物まであらゆるメディアを支配し、一般的な人々の建築への認識と理解を形成していることだ。私たちの生きるこの時代は、画像イメージに支配されているかのようだ。建物が外側からどのように見えるか、それが建築作品を評価する指標のすべてとなることがしばしば起きる時代である。

私たちは、新旧かかわらず、建築と建築がつくる場を雑誌や書籍、そして―より顕著なものとして―インターネットで目にした建築写真を通して、その空間に立ち入ることもなしに「知っている」ように感じている。
※一部改行しました

ロバート・マッカーター『名建築は体験が9割』百合田香織訳P32-33

建物を評価する上で重要なのは内部空間での体験であるはずなのに、情報が氾濫した現代では写真や映像などの視覚情報だけでそれを把握しようとしている。さらには、インターネットで見ただけでその建物を「知っている」かのように感じてしまう世の中になっている。

こうマッカーターは述べるのです。

たしかに今やグーグルマップを使えば現地に行かずともその地の風景を見ることができますし、建物の写真ならいくらでも目にすることができます。

ですがそれはあくまで写真に収めた視覚情報であり、建築物を本当の意味で体験しているとは言えないのです。

マッカーターは次のように言います。

建物の外部形態を眺めたり、それを独立した彫刻のようなオブジェとして目の前に設置したりする、純粋に視覚的な体験の作用には距離感がある。内部空間の体験はそれとは対照的で、室が言葉通りの意味で私たちを取り囲み、五感のすべて―触覚、聴覚、嗅覚、味覚、そして視覚―に訴えかけ、その一部として包まれるような親密な感覚をつくりだす。

ロバート・マッカーター『名建築は体験が9割』百合田香織訳P37

たしかにこれはなるほどなと思いました。

私はイスタンブールのアヤ・ソフィアに行った時のことを思い出しました。

アヤ・ソフィアはたしかに外観も圧倒的です。

ですがやはり1番驚いたのは中に入った瞬間でした。

ドームに入る前の回廊の時点ですでに異世界のような空気を感じたのです。

ただ単に視覚情報でそれを感じたのではなく、まさしく音、匂い、肌に感じる感覚など全身でこの建物を感じたのでありました。

それはただ写真で見るだけの感覚とはまるで違うものでした。

そしてもう一カ所、私が外観と内部空間のギャップに驚いた場所があります。

それがバルセロナのサグラダ・ファミリアだったのです。

サグラダ・ファミリアといえば左上の写真にありますような圧倒的な外観ですよね。とてつもなく巨大で、さらに精巧な彫刻がびっしりと施されたこの教会はあまりに有名です。

ですが「サグラダ・ファミリアの魅力を紹介!天才ガウディの驚異の建築デザイン スペイン編⑱」の記事でもお話ししましたように、サグラダ・ファミリアは外よりも中がすごかったのです。

まさにマッカーターが言うように、外部空間に囲まれた内部空間こそその建築物を評価するのに最も重要だということをあの場で感じました。

サグラダ・ファミリアはたしかに圧倒的な外観です。ですがいざ中に入ると目で見る感覚というよりも何かに包まれるようなほっとするような感覚がしたのです。これは写真や映像を見るだけでは経験できない、全身で体感しないとわからない感覚なのではないかと思います。

写真や映像で見るだけでなく実際にその場に行ってみないとわからない感覚がある。

だからこそ現地に行って直接体験することには大きな意味がある。

そのことをこの本を読んで改めて感じました。

モスクワのクレムリンにおいてもまさしくこのことは当てはまるのではないかと思います。

ロシアの象徴として長きにわたって君臨してきたクレムリンはただ単に視覚的なものではなく、全身体験として圧倒的な感覚をロシア人に与え続けてきたのでしょう。

『名建築は体験が9割』、とても興味深い本でした。

以上、「ロバート・マッカーター『名建築は体験が9割』~見るのではない―感じるのだ!」でした。

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この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

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