MENU

木下豊房『ドストエフスキー その対話的世界』あらすじと感想~ドストエーフスキイの会会長によるドストエフスキー論

木下豊房
目次

木下豊房『ドストエフスキー その対話的世界』概要と感想~ドストエーフスキイの会会長によるドストエフスキー論

本日は成文社出版の木下豊房『ドストエフスキー その対話的世界』をご紹介します。

著者の木下豊房氏はタイトルにもありますようにドストエーフスキイの会の会長を務めておられ、1995年からは国際ドストエフスキー協会の副会長も務められています。詳しくはこちらのドストエーフスキイの会のリンクをご参照ください。

では、この本について見ていきましょう。

現代に生きるドストエフスキー文学の本質を作家の対話的人間観と創作方法の接点から論じる。ロシアと日本の研究史の水脈を踏まえ、創作理念の独創性とその深さに光をあてる。国際化する研究のなかでの成果。他にドストエフスキーの現代性について、作家のゆかりの地を訪ねてなど、興味深いエッセイ多数。

Amazon商品紹介ページより

この説明にありますように、この著作ではドストエフスキーの国内外の研究をふまえて、作品を論じていきます。これまでドストエフスキーがどのように研究され現在はどのように論じられているかという流れがわかりやすく説かれています。

特に以前紹介したバフチンや、夏目漱石、小林秀雄など日本の文人とドストエフスキーの繋がりの歴史も知ることででき、新しい発見をすることができました。

また著書の後半にドストエフスキーに関するエッセイが多数収録されていますが、その中でもドストエフスキーゆかりの地を巡るシリーズは特に興味深かったです。

ロシアにあるドストエフスキーゆかりの地を紹介しているものは多かれど、ドイツ、スイスのゆかりの地の旅行記を見ることはほとんどありません。ですので現地の様子を知る上でこの上ない資料になります。

ドストエフスキーの奥様であるアンナ夫人とのヨーロッパ旅行で訪れたドイツとスイス、そしてドストエフスキー晩年の肺病の療養に訪れたドイツのエムスという保養地。これらはドストエフスキーの執筆の背景を知るために重要な場所です。

その顛末は以前紹介しましたドストエフスキーの奥様によります『回想のドストエフスキー』『ドストエーフスキイ夫人 アンナの日記』に詳しく書かれています。

このエッセイを読むと、現地に行ってみたくなります。

またもう1冊ご紹介したい著書があります。

同じく木下豊房氏による鳥影社出版『ドストエフスキーの作家像』という本です。

この本は私がドストエフスキーを学んで直面した「色んなドストエフスキー像が語られているけど結局ドストエフスキーは何者なの?」という疑問に国内外の研究を駆使して丁寧に答えてくれた1冊です。

皆さんはドストエフスキー作品、特に『カラマーゾフの兄弟』や『悪霊』を買おうとした時にどの出版社のものを買おうかと悩んだことはありませんか?

私は新潮文庫版をおすすめしていますがその理由がこの本にすべて凝縮されています。

外国小説や古典における読みやすさ、わかりやすさとは一体何なのかということをとても考えさせられます。

ぜひおすすめしたい1冊です。

以上、「木下豊房『ドストエフスキー その対話的世界』~ドストエーフスキイの会会長によるドストエフスキー論」でした。

ドストエフスキーのおすすめ書籍一覧はこちら
「おすすめドストエフスキー伝記一覧」
「おすすめドストエフスキー解説書一覧」
「ドストエフスキーとキリスト教のおすすめ解説書一覧」

Amazon商品ページはこちら↓

ドストエフスキーその対話的世界
ドストエフスキーその対話的世界

次の記事はこちら

あわせて読みたい
高橋誠一郎『ロシアの近代化と若きドストエフスキー「祖国戦争」からクリミア戦争へ』あらすじと感想~... この本ではドストエフスキーの若かりし頃の作品を主に論じています。 しかも単にドストエフスキー作品の解説をするのではなく、当時の混沌としたロシア情勢やドストエフスキーがどのようにして作家としての道を歩んでいったのかが詳しく書かれています。

前の記事はこちら

あわせて読みたい
ツヴァイク『三人の巨匠』あらすじと感想~バルザック、ディケンズ、ドストエフスキー、比べてわかるそ... 「なぜドストエフスキーは難しくて、どこにドストエフスキー文学の特徴があるのか。」 ツヴァイクはバルザック、ディケンズとの比較を通してそのことを浮き彫りにしていきます。

関連記事

あわせて読みたい
ドストエフスキーおすすめ作品7選!ロシア文学の面白さが詰まった珠玉の名作をご紹介! ドストエフスキーといえば『罪と罰』や『カラマーゾフの兄弟』など文学界では知らぬ者のない名作を残した圧倒的巨人です。彼は人間心理の深層をえぐり出し、重厚で混沌とした世界を私達の前に開いてみせます。そして彼の独特な語り口とあくの強い個性的な人物達が織りなす物語には何とも言えない黒魔術的な魅力があります。私もその黒魔術に魅せられた一人です。 この記事ではそんなドストエフスキーのおすすめ作品や参考書を紹介していきます。またどの翻訳がおすすめか、何から読み始めるべきかなどのお役立ち情報もお話ししていきます。
あわせて読みたい
(28)温泉地バート・エムスのドストエフスキーゆかりの地を訪ねて~結婚後10年経っても夫人に熱烈なラ... 私にとってバート・エムスはドストエフスキーのアンナ夫人への愛を感じられる象徴的な場所です。 結婚後10年経っても妻を熱愛したドストエフスキー。 彼はエムスからアンナ夫人に熱烈なラブレターを送り続けます。 あの『悪霊』を書いた文豪とは思えぬほどのデレデレぶりをぜひ皆さんにお目にかけたいと思います。 愛妻家としてのドストエフスキーを知るならここを超える場所はないのではないだろうかと私は感じています。
あわせて読みたい
ドストエフスキー年表と作品一覧~ドストエフスキーの生涯をざっくりと この記事ではドストエフスキー作品一覧と彼の生涯を簡潔にまとめた年表を掲載します。 ドストエフスキーの生涯は簡易的な年表では言い尽くせない波乱万丈なものです。特にアンナ夫人とのヨーロッパ外遊の頃は賭博に狂った壮絶な日々を送っています。 ドストエフスキー作品は彼の生涯とも密接な関係を持っています。彼の生涯を知ることは作品を知る上でも非常に大きな助けとなるのではないでしょうか。
あわせて読みたい
モチューリスキー『評伝ドストエフスキー』あらすじと感想~圧倒的な情報量を誇るドストエフスキー評伝... 『評伝ドストエフスキー』は1947年にロシア語で出版され、瞬く間に多くの国で翻訳され「あらゆる言語で書かれたドストエフスキー文献のうちもっともすぐれた研究書」と呼ばれるようになりました。 ロシア正教の教義と実践に詳しいモチューリスキーによる詳細な作品解説がこの評伝の最大の特徴です。 この評伝はドストエフスキーを研究する際にものすごくおすすめです。
あわせて読みたい
フーデリ『ドストエフスキイの遺産』あらすじと感想~ソ連時代に迫害されたキリスト者による魂のドスト... 本書は内容も読みやすく、伝記のようにドストエフスキーの生涯に沿って作品を論じています。作品理解を深めるという意味でも非常に懇切丁寧でわかりやすいです。 ロシア正教の宗教者としてのドストエフスキー像を知るにはこの上ない一冊です。
あわせて読みたい
高橋保行『ギリシャ正教』あらすじと感想~ドストエフスキーとロシア正教を学ぶならこの1冊!おすすめ... そもそもロシア正教とは何なのか。 カトリックやプロテスタントと何が違うのか。 それらがこの著書に詳しく書かれています。 ドストエフスキーに関してもかなりの分量を割いて解説されています。
あわせて読みたい
『ロシア正教古儀式派の歴史と文化』~ドストエフスキーは無神論者で革命家?ドストエフスキーへの誤解... この記事では「ドストエフスキーは無神論者であり、革命思想を持った皇帝暗殺主義者だった」という説について考えていきます。 これは日本でもよく聞かれる話なのですが、これはソ連時代、ソ連のイデオロギー下で発表された論説が基になっていることが多いです。 この記事ではなぜそのようなことになっていったのかもお話ししていきます。
よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

コメント

コメントする

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください

目次