元木泰雄『平清盛と後白河院』あらすじと感想~清盛の権力奪取がそう単純ではなかったことを知れるおすすめ本

元木泰雄『平清盛と後白河院』あらすじと感想~清盛の権力奪取がそう単純ではなかったことを知れるおすすめ本
今回ご紹介するのは2012年にKADOKAWA/角川学芸出版より発行された元木泰雄著『平清盛と後白河院』です。
早速この本について見ていきましょう。
後白河院とその最大の補佐役・平清盛。しかし両者はやがて激しく対立する。清盛暗殺の謀議・鹿ケ谷事件、治承三年の政変、平氏政権樹立――。対立の背景を詳細に検証し、「武士の世」前夜の権力闘争を描きだす。
Amazon商品紹介ページより

本書『平清盛と後白河院』はそのタイトル通り、平安末期から鎌倉時代初期にかけての激動の時代を深く学べるおすすめ参考書です。
私はこれまでも平安末期の政治状況の本や武士の本を読んでは来ましたが本書には驚きました。この本はものすごく深いところまでその歴史を掘り下げていきます。
私はこの本を読む直前、『平家物語』を読んでいました。「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり」という名フレーズは誰もが知っていますよね。そしてこの物語では権力の絶頂に立つ驕りによって平家が滅びたというシナリオとなっていますが、本書『平清盛と後白河院』を読めばそれがひとつの側面に過ぎないことを痛烈に感じさせられます。
何度も言いますが、本書にはとにかく驚かされました。しかもそうした驚きが何度も何度も襲ってくるのですからこれはもう大変です。
私達は平清盛が圧倒的な速度で権力を得ていたことは歴史の授業やドラマなどでも知っています。彼の圧倒的な力でそれが成し遂げられたというのが私達のイメージであると思います。
ですがことはそんなに単純な話ではなかったのです。清盛は後白河法皇をはじめ朝廷の有力貴族、さらには平家一門内の争いにもかなりの苦心を迫られていたのです。
私達現代日本人は『平家物語』の影響を強烈に受けすぎているのでしょうか。もちろん、この物語は日本人の心の故郷とも言うべき素晴らしい作品です。それは疑いようがありません。しかし「平家の驕り」が強調されるあまり、複雑な歴史が幾分単純化されてしまったのではないかという懸念があります。物語としてはあまり複雑にしすぎると面白くなくなってしまうのでこれは仕方ない話ではあるのですが、それを受け取る私達はある程度注意をしなくてはならないのではないかと思ってしまいます。
まさに本書ではそんな複雑な歴史を丁寧に丁寧に追っていくことになります。
正直、入門書としてはこの本はかなり厳しいです。保元の乱から源平合戦までのある程度の流れを知った上で読むことをおすすめします。人物名も多く、人間関係もかなり入り組んでいますので頭が混乱してしまいます。私自身、この本を読むのにはかなり時間を要しました。ページ数からいえば230頁ほどと、そこまで多くはないのですが情報量が多いので咀嚼しながらじっくり読む必要があります。
著者の語り自体はとてもわかりやすく、素晴らしい解説であることは間違いありません。ですが、平清盛と後白河院の闘いそのものがとにかく複雑すぎるのです。それを「平清盛が権力を奪取し、平家が全盛を迎えた」と一言でまとめるのは簡単です。ですが、そうして簡略化してすっ飛ばしてしまうと大事なことが見失われてしまうことにもなります。
まさにこの複雑さこそ平安末期から鎌倉時代への激動の内実だったのです。しかもそこには幾多の偶然も絡んでいました。
歴史の流れを「こうだからこうなった」「こういう思想があり、こういう狙いがあってこうなった。この時代はこうなのである」と理論化すればたしかにすっきりします。しかし人間の歴史とは不思議なもので、予期せぬ偶然が重なり時代が動くことも多々あるのです。その最たるものが有力者の急死であったり、頼みにしていた子どもたちの死でもあります。こうした「これからこうなるはずであった人間」の急死は政治状況を混沌に追い込みます。平清盛と後白河院の争いもまさにこうした不慮の死が大きな転換点となっていきます。
予測不能のカオスを丁寧に追っていく本書は非常にスリリングで刺激的です。たしかにこの本は複雑で難しいです。ただ、何度も言いますがそれは著者の責任ではなく、そもそもそういう複雑な人間関係が絡む難しい時代なのです。それをじっくりと感じていける点にこの本の最大の意義があると思います。
私はいいタイミングでこの本と出会いました。平安から鎌倉時代の概要を学び、そこから『平家物語』を読んでからこの本に出会ったわけです。まずはシンプルに大まかな流れを知り、その上で実はこんな複雑な事情があったのかと驚いたわけです。清盛が相続問題を利用して摂関家の領土を大量に獲得していたという話にはそれこそたまげました。そんなことまでしていたのかと。ちなみにその摂関家の一族には浄土真宗ともつながりの深い九条兼実がいます。兼実はまさにそうした清盛の所業をつぶさに見ていたのでありました。こうした歴史のつながりを新たな視点から見れるのも私にとっては大きな楽しみとなりました。
入門書としてはたしかに難しい本ではありますが、素晴らしい作品であることは間違いありません。ぜひぜひおすすめしたい一冊です。
また、源平合戦の入門書としては板野博行氏の『眠れないほどおもしろい吾妻鏡: 北条氏が脚色した鎌倉幕府の「公式レポート』という本がおすすめです。
眠れないほどおもしろい吾妻鏡―――北条氏が脚色した鎌倉幕府の「公式レポート」 (王様文庫)
板野先生は私も受験時代にお世話になったカリスマ塾講師です。当ブログでも前回の記事で先生の『平家物語』を紹介しましたが、この『吾妻鏡』編も非常にわかりやすい入門書となっています。入門にはこの本がおすすめです。
そしてさらにもう一冊おすすめしたいのは上杉和彦著『源頼朝と鎌倉幕府』という参考書です。
今回の記事で紹介した『平清盛と後白河院』ではかなり詳しく歴史の流れを見ていきますが、この『源頼朝と鎌倉幕府』では、大きな流れで平安末期から鎌倉時代への流れを見ていくことができます。私は『平清盛と後白河院』を読んだ直後にこの本を読んだのですが、頭の整理に非常に役立ちました。この本は先に読んでも後に読んでも有益だと思います。やはり流れを掴むのは大切ですね。
ぜひこれらの参考書も合わせて読むことをおすすめします。
以上、「元木泰雄『平清盛と後白河院』あらすじと感想~清盛の権力奪取がそう単純ではなかったことを知れるおすすめ本」でした。
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