三島由紀夫作品は何から読むべき?おすすめの順番を考えてみた
昭和を代表する作家、三島由紀夫。
当ブログでも三島由紀夫のおすすめ作品については以下の記事で紹介しました。
そして今回の記事ではそんな三島由紀夫作品を読むならば何から読んでいけばスムーズかを私なりに考えてみました。
上の記事ではおすすめ作品を15作紹介しましたが、今回の記事では5作品に絞り「何をどの順番で読めば入りやすいか」に特化して紹介していきたいと思います。
では、さっそく始めていきましょう。
三島作品を読む前に・・・
三島由紀夫は1925年に生まれ、1970年に衝撃の自決を果たした作家です。2024年を生きる私達にとっては遠い過去になりつつある存在です。21世紀以後に生まれた若い世代には特にそれは顕著でしょう。
というわけでまずはいきなり三島由紀夫作品に突入する前に、彼の大まかな生涯の流れやその作品の特徴についての入門書を読むことをおすすめします。
その中でも私が一番おすすめしたいのが新潮社の『文豪ナビ 三島由紀夫』というガイドブックになります。
この本がとにかく優秀!コンパクトでありながら三島由紀夫の生涯やその特徴がわかりやすくまとめられています!
新潮社さんのこの試みは実にありがたいです。難しそうで敬遠しがちな文豪たちへの入り口として非常に優れています。文豪たちの名作の何が面白くて何がすごいのか、そしてどの作品から読むのがおすすめかまで懇切丁寧に語られます。小難しい文学論や哲学談義もないのもありがたいです。誰もが気軽に入門できるこの本に拍手喝采です。
そしてもう一冊。
きずな出版より2020年に発行された櫻井秀勲著『三島由紀夫は何を遺したか』もおすすめです。
三島由紀夫と親しい関係であった著者だからこそ知る姿をこの本で学ぶことができました。
これらの入門書でざっくり三島由紀夫や彼の作品の流れを学んだ後、私はいよいよ三島作品に取りかかりました。そして私はあっという間に三島沼にはまることになってしまったのです。
では、いよいよ三島作品の最初にふさわしい作品をこれより紹介します。
『金閣寺』(1956年)
やはり三島由紀夫といえばこの作品。三島文学の入り口としてぜひ私はこの本をおすすめしたいです。
まさに黒魔術。三島由紀夫の驚くべき魔力を体感するには最高の一冊です。作品自体も難解すぎることもなく、その独特な語り口に慣れてしまえば一気に小説世界に入り込んでしまいます。
この文体。この熱量・・・!恐るべき作品です。
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『憂国』(1961年)
『金閣寺』の次におすすめしたいのがこの『憂国』という短編です。
この作品は2.26事件に際し親友を討たねばならなくなった中尉が「今夜腹を切る」と妻に告げ、そのまま命を絶つという衝撃的な物語です。ページ数にしてわずか30ページほどの短編ですが恐るべき濃密さです。
三島自身、この作品について次のように述べています。
『憂国』は、物語自体は単なるニ・二六事件外伝であるが、ここに描かれた愛と死の光景、エロスと大義との完全な融合と相乗作用は、私がこの人生に期待する唯一の至福であると云ってよい。しかし、悲しいことに、このような至福は、ついに書物の紙の上にしか実現されえないのかもしれず、それならそれで、私は小説家として、『憂国』一編を書きえたことを以て、満足すべきかもしれない。かつて私は、「もし、忙しい人が、三島の小説の中から一編だけ、三島のよいところ悪いところすべてを凝縮したエキスのような小説を読みたいと求めたら、『憂国』の一編を読んでもらえばよい」と書いたことがあるが、この気持には今も変りはない。
新潮社。三島由紀夫『花ざかりの森・憂国―自選短編集―』P331
「もし、忙しい人が、三島の小説の中から一編だけ、三島のよいところ悪いところすべてを凝縮したエキスのような小説を読みたいと求めたら、『憂国』の一編を読んでもらえばよい」
三島自身がこう述べるほどの作品が『憂国』です。私自身、最初の三島体験となった『金閣寺』の次にこの作品を読んだのですが、この『憂国』を読んで私はいよいよ三島の魔力に取り憑かれてしまったのでした。
三島はこの小説を発表した9年後の1970年に自刃しています。自らの身体に刀を突き刺し、さらにそこから腹部を割いてゆく・・・まさにこの小説通りの死に様、生き様を見せたのが三島由紀夫という男だったのでした。三島を知る上で必読の一冊です。
「『金閣寺』が長い、難しい」と感じた方にはこちらの『憂国』から読み始めるのも大いにありだと思います。わずか30ページほどの作品ですので気軽に読み始めることができます。ただ、その内容はあまりに濃密。驚くこと間違いないでしょう。
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『不道徳教育講座』(1959年)
次におすすめする作品はこちらの『不道徳教育講座』です。この作品は小説ではなく三島のエッセイ集になります。
この作品はタイトルこそ『不道徳教育講座』という刺激的でダークなイメージを醸し出していますが、中身は意外や意外、結論は不道徳どころではない王道へと着地します。この挑戦的なタイトルは三島由紀夫流のユーモアが込められた大いなる逆説なのでありました。
『金閣寺』や『憂国』を読んだ後にこのエッセイを読んだ私ですが、三島由紀夫ってこんなに面白い人なんだ!と新鮮な驚きを感じながらの読書となりました。
『金閣寺』や『憂国』とは全く異なる三島のリラックスした言葉を聞くことができます。私もくすっと笑ってしまうような箇所が何度もありました。三島の多面的な人間性を知る上でもこの本は興味深く刺激的です。
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『宴のあと』(1960年)
シンプルに面白い作品を挙げるとするならば私はこの『宴のあと』という作品をおすすめしたいです。
三島と言えば思想的なものが強いイメージがあるかもしれませんが、この作品はエンタメ作品として実に面白い小説です。
この作品の女主人公たる、かづのエネルギーは凄まじいです。彼女の圧倒的なエネルギーには読んでいるこちらもぐいぐい引っ張られてしまいます。猪突猛進で無茶苦茶なことをしているのですがなぜか応援せずにはいられません。夫の野口がぶっきらぼうで堅物で鈍重であるが故にかづの溢れんばかりの活力、野心、熱量がさらに引き立ちます。
物語の展開もスピーディーで、さらにそこに政治的な陰謀や駆け引き、人間ドラマが織り込まれるので目が離せません。シンプルに三島由紀夫小説の面白さを体感するならこの作品です。
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『豊饒の海』(1965-1970)
さて、いよいよラストの5作品目です。この作品は三島由紀夫の最後の長編小説であり、彼の全てを懸けた畢生の大作です。三島はこの作品を書き上げて自決しました。
三島はこの四部作を通して「生命とは」「人生とは」を追求していきます。私達の生きる「生」とは何なのか。私達にとって「死」とは何なのか。「善く生きる」とは何なのか。どう生きるべきなのか。こうしたことを壮大なスケールで描き出していくのが『豊饒の海』です。はっきり言いましょう。この作品の巨大さは想像を絶します。私はこの作品に文字通り圧倒されました。
私は以前当ブログで「名刺代わりの小説10選」の記事を書きましたがこの『豊饒の海』もここに新たに加わることでしょう。間違いなく私の人生に大きな衝撃を与えた作品です。
『豊饒の海』は日本を超えて世界文学史上の大事件だと私は考えています。それほど巨大な作品でした。
読む順番のラストにこの作品を置かせて頂きましたが、やはりこの小説は最後の終着点としておすすめしたい究極の三島作品です。長編4部作という大ボリュームとその内容の難しさもあり簡単には「おすすめです」とは言えませんが、恐るべき作品であることは間違いありません。ぜひ三島作品のゴールとして手に取ってみてはいかがでしょうか。
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おわりに
以上、三島由紀夫作品の読むべき順番として5つの作品をご紹介しました。
これまで当ブログで紹介してきた通り、三島由紀夫にはまだまだたくさんの名作があります。ですが、そのダイジェストとして三島作品を味わうならばこの5作品の流れが個人的にはおすすめです。もちろん、ここでは紹介できませんでしたが、三島由紀夫をもっと味わうのに必読の作品や参考書がいくつもあります。それらについては以下のまとめ記事でお話ししていますので、興味のある方はぜひそちらもご参照頂けましたら幸いでございます。
以上、「三島由紀夫作品は何から読むべき?おすすめの順番を考えてみた」でした。
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