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鈴木真弥『現代インドのカーストと不可触民』あらすじと感想~デリーの清掃カーストから見る差別の実態とは

現代インドのカーストと不可触民
目次

鈴木真弥『現代インドのカーストと不可触民』概要と感想~デリーの清掃カーストから見る差別の実態とは

今回ご紹介するのは2015年に慶應義塾大学出版会より発行された鈴木真弥『現代インドのカーストと不可触民―都市下層民のエスノグラフィー』です。

早速この本について見ていきましょう。

第28回アジア・太平洋賞(主催:毎日新聞社、(社)アジア調査会)を受賞しました。

平成28年度・第11回樫山純三賞[学術書](主催:(公)樫山奨学財団)を受賞しました。

▼差別と困難に抗う新たな「不可触民」像

大都市デリーを舞台に、清掃カースト(バールミーキ)の人びとの声と運動からカーストの変容と現代的特質に迫る。

「自由・平等・民主主義」が憲法上保障された独立後のインドにおいて、カーストや不可触民差別というインド社会を特徴づけてきた問題はどのように変容しているのか?
不可触民とされてきた人びとをとりまく福祉政策の現状と課題、さらに、かれらにたいする減ることのない暴力・差別行為に抗する組織的活動や地位向上運動から、カーストの現代的特質を論じる。
デリーの清掃カースト・コミュニティにておこなってきたフィールドワークをもとにした意欲作。

Amazon商品紹介ページより

この本はデリーの清掃カーストを切り口にインドのカースト差別の実態について見ていく作品です。

インドのカースト差別の実態については以前当ブログでも池亀彩著『インド残酷物語 世界一たくましい民』や藤井毅著『歴史の中のカースト 近代インドの〈自画像〉』を紹介しました。

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これらの本でもインドのカースト差別の実態は詳しく語られていましたが、今作では現地でのフィールドワークやデータを基にデリーの清掃カーストに特化して見ていく点にその特徴があります。

本書について著者は冒頭で次のように述べています。

本書は現代インドのカースト、不可触民問題を包括的に解明することをめざしたい。具体的には、不可触民のなかでもとりわけ厳しい差別を受けてきたとされる清掃カースト(カースト名はバールミーキ)の事例を中心に、首都デリーを調査地としながら、かれらの社会経済的状況、差別からの解放と地位向上をめざす実践を考察する。

清掃カーストとされる社会集団は、ヒンドゥー社会で最も「不浄」とされる清掃(屎尿処理や道路清掃)を生業としてきたことで、「不可触民のなかの不可触民」といわれるほど厳しい非差別的状況に置かれてきた。カースト起源は実証的に明らかにされていないが、イギリスによる統治時代に設立され始めた都市自治体の清掃業に従事させる目的で、農村から移住させられたいくつかのカースト集団が「清掃カースト」を形成したのではないかという見方が有力である[Prashad 2000:篠田 一九九五]。

インドが独立以降、政治的・経済的・社会的に変容するなかで、清掃カーストの社会環境も変化してきたことは確かである。急速な都市化にともない、インフラ整備が急務の課題とされ、下水道敷設の拡充や従来の汲み取り式便所(乾式便所(dry latrine)とよばれ))から水洗便所への転換も政策を通じて進められてきた(第4章で詳述)。これにより、清掃カーストは、従来の手作業による屎尿処理という危険で不衛生な労働環境から「解放」された。清掃カーストを差別する根拠(不浄なものを扱う職業性)が失われたことで、彼らにたいする蔑視や侮蔑的態度は改善されると見込まれるが、現実は大きく異なっていた。清掃業から離脱した者でさえも、差別・偏見に苛まれている。

他の不可触カーストと比較しても、清掃カーストの社会経済的発展は著しく立ち遅れていることが多くの先行研究で指摘されている(第3章で後述)。このような清掃カーストの厳しい状況は、どのように理解したらよいのだろうか。本書においては、従来のカースト研究、不可触民研究では十分に取り上げられてこなかった都市に生きる不可触民を対象とすることで、現代におけるカースト、不可触民差別の持続性や変容を読み解く。不可触民カーストの内的多様性、賎業とのかかわり、カースト的アイデンティティの形成などの動態的な側面についても検討していく。

慶應義塾大学出版会、鈴木真弥『現代インドのカーストと不可触民―都市下層民のエスノグラフィー』P6-7

ここで述べられるように、本書ではデリーにおける清掃カーストの悲惨な状況を見ていくことになります。

また、この本ではガンジーによる改革の内容や問題点についても考えていくことになります。ガンジーが理想としたインド社会はどのようなものだったのか。ガンジーがカースト制、不可触民についてどのように考えていたのかがよくわかります。ガンジーといえばインド独立に大きな指導力を発揮した聖人のようなイメージが根強いですが、そのガンジーがカーストをどのように考えていたのかというのは非常に重要なポイントだと思います。

データやフィールドワークを中心にした貴重なインド情報を知れるのが本書です。カースト差別を知る上で非常にありがたい作品でした。次の記事で紹介する佐藤大介著『13億人のトイレ 下から見た経済大国インド』と合わせてぜひおすすめしたい作品です。

以上、「鈴木真弥『現代インドのカーストと不可触民』~デリーの清掃カーストから見る差別の実態とは」でした。

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現代インドのカーストと不可触民:都市下層民のエスノグラフィー

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この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

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