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河合祥一郎『シェイクスピア 人生劇場の達人』あらすじと感想~巨匠の生涯と時代背景、作品の特徴も知れるおすすめ入門書!

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河合祥一郎『シェイクスピア 人生劇場の達人』概要と感想~巨匠の生涯と時代背景、作品の特徴も知れるおすすめ入門書!

今回ご紹介するのは2016年に中央公論新社より発行された『シェイクスピア 人生劇場の達人』です。

早速この本について見ていきましょう。

ウィリアム・シェイクスピア(1564~1616)は、世界でもっとも知られた文学者だろう。『マクベス』や『ハムレット』などの名作は読み継がれ、世界各国で上演され続けている。本書は、彼が生きた動乱の時代を踏まえ、その人生や作風、そして作品の奥底に流れる思想を読み解く。「万の心を持つ」と称された彼の作品は、喜怒哀楽を通して人間を映し出す。そこからは今に通じる人生哲学も汲み取れるはずだ。

Amazon商品紹介ページより

この作品はシェイクスピアの生涯や時代背景、作品の特徴を知れるおすすめの入門書です。

著者の河合祥一郎先生は以前当ブログでも「河合祥一郎『シェイクスピアの正体』~時代背景や丁寧な資料読解を用いて異説や陰謀論と正面から向き合った名著!」の記事で紹介しました。

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他にも当ブログでも紹介したピーター・アクロイド著『シェイクスピア伝』やスティーブン・グリーンブラット『シェイクスピアの驚異の成功物語』、シェイクスピア『アテネのタイモン』などの翻訳も手掛けています。

河合先生の著作はどれも面白く、私もシェイクスピアを学ぶ上で参考にさせて頂いております。

そんな河合祥一郎先生が新書でシェイクスピアを語って下さるこの本は手に取りやすさも相まってとてもありがたい作品となっています。

まえがきでは日本のシェイクスピア演劇事情も絡めて次のように語っています。

ウィリアム・シェイクスピアは、四〇〇年も昔の詩人・劇作家である。にもかかわらず、その劇は今日でも頻繁に上演され、オぺラ、バレエ、音楽、美術などさまざまなジャンルで取り上げられている。そもそもシェイクスピアとは、どのような人物なのか。また、その作品群から読み取れるものは何なのだろうか。

本書、シェイクスピアの生きた時代を振り返り、作品全体を通して浮かび上がる劇作家の姿に迫り、その精神世界を明らかにすることを目的とする。

シェイクスピア劇上演の本場はイギリスであり、彼の故郷ストラットフォード・アポン・エイヴォンに本拠地を置くロイヤル・シェイクスピア劇団がもっとも権威のある公演をしていると、ニ〇世紀後半まで考えられていた。しかし、時代は変わった。

二〇〇六年に蜷川幸雄演出、吉田鋼太郎主演『タイタス・アンドロニカス』(そのほか小栗旬、鶴見辰吾、壤晴彦、麻実れい、真中瞳らが出演)が、ロイヤル・シェイクスピア劇団の主劇場で上演されて大絶賛を浴び、日本発信のシェイクスピアが勝利を収めたと胸を張れる時代がやってきた。

もちろん蜷川演出のシェイクスピア作品は、それまでもイギリス公演で成功を収めてきた。(中略)だが、ロンドンではなくロイヤル・シェイクスピア劇団の本拠であるロイヤル・シェイクスピア劇場で吉田鋼太郎が大暴れしてみせたのは、やはり画期的な事件だった。もはやシェイクスピアはイギリス人だけのものではなく、日本人のものでもあり、世界中の演劇人の財産と見なされるようになったのだ。

中央公論新社、河合祥一郎『シェイクスピア 人生劇場の達人』Pⅰ-ⅱ

ここで語られるように、日本のシェイクスピア演劇が世界的に評価されるという素晴らしい時代が来ているとは嬉しいことですよね。

私もその蜷川幸雄さんを引き継いだ吉田鋼太郎さん演出の彩の国シェイクスピア・シリーズ『ジョン王』を一月に観劇してきました。

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実際に舞台で観るシェイクスピアは最高です。とにかく面白い!

蜷川幸雄さんがそうであったように、吉田鋼太郎さんも、誰もが楽しめるシェイクスピアを私たちに見せてくれます。シェイクスピアというと、小難しいイメージがあるかもしれませんが実際に観劇するとその先入観が吹き飛んでしまうことを実感すると思います。シェイクスピアが生きていた当時は、芝居小屋に集まった様々な人達がみんな一緒にげらげら大笑いしていたのです。そのように気楽に楽しめるのがシェイクスピアだったのです。

そうしたシェイクスピアの作品を、世界的に評価されるほどのクオリティで日本で観れるというのはありがたいですよね。

河合先生は続けて本書について次のように述べます。

個々の公演の魅力は、実際に劇場へ足を運んで体験するよりほかないが、シェイクスピアとはどのような人だったのか、全体としてどんな作品世界を描いたのかを知るには書物をひもとくのが一番だ。それを明らかにするのが本書の狙いである。

そのためには、まずシェイクスピアの時代に帰るところからはじめる必要がある。そこで、第1章から第3章にかけて、シェイクスピアの人物像を、時代を追って概観していく。シェイクスピアの人となりがわかりにくい理由の一つは、時代背景に求められることがわかるだろう。

第4章では、その劇世界の魅力をご紹介する。とくに芝居を見ているときには気づかない〝シェイクスピア・マジック〟について解き明かそう。

第5章では喜劇世界、そして第6章では悲劇世界を解説する。

そのうえで最終章として、シェイクスピアの哲学についてまとめてみよう。シェイクスピアが考え抜いた「人はどうやって生きていくべきか」といった問題は、その作品世界でどのように展開しているのか。「私」という主体をどう認識すればよいのか。シェイクスピアを理解すると、ものの見方は一通りではないとわかるようになる。

「万の心を持つシェイクスピア」(myriad-minded Shakespeare)と言われるが、それは多くの人の心に訴えかけるほど多様なものの見方が作品に籠められているという意味だ。シェイクスピア自身の本心は多くの仮面の背後に隠れて見えないと言われることもある。

しかし、大切なのは、人生という劇場においてさまざまな役を演じるためにどのような仮面をつけるのかであって、仮面の背後にある「真の私」など誰にもわからないと、シェイクスピアなら言うだろう。だからこそ、自分さえ知らない「私」に出会えるかもしれない―シェイクスピアの哲学を学びとった者ならば。

中央公論新社、河合祥一郎『シェイクスピア 人生劇場の達人』Pⅲ-ⅳ

この本を読めばシェイクスピアの生涯や時代背景を知ることができます。やはり時代背景がわかれば作品も違って見えてきます。そして第4章の「シェイクスピア・マジック」も必見です。シェイクスピアの面白さの秘密がここで明らかにされます。読めば思わず「なるほど~!」と膝を打ちたくなること間違いなしです。

シェイクスピアをこれまで読んだことがなかった方にもおすすめです。きっとシェイクスピア作品を読みたくなることでしょう。

ぜひぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。

以上、「河合祥一郎『シェイクスピア 人生劇場の達人』~巨匠の生涯と時代背景、作品の特徴も知れるおすすめ入門書!」でした。

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この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

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