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S・マッケイ『ドレスデン爆撃1945 空襲の惨劇から都市の再生まで』あらすじと感想~ドイツの美しき古都が消滅した悲惨な爆撃とは

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S・マッケイ『ドレスデン爆撃1945 空襲の惨劇から都市の再生まで』概要と感想~ドイツの美しき古都が消滅した悲惨な爆撃とは

今回ご紹介するのは2022年に白水社より発行されたシンクレア・マッケイ著、若林美佐知訳の『ドレスデン爆撃1945 空襲の惨劇から都市の再生まで』です。

早速この本について見ていきましょう。

広島・長崎と同様に語り継がれる悲劇

ドイツ東部の都市ドレスデンは「エルベ河畔のフィレンツェ」と呼ばれ、豊かな歴史と文化、自然に恵まれ、教会や古都の街並み、陶磁器や音楽で知られていた。しかし1945年2月13日~14日、軍事施設がないにもかかわらず、英米軍から三度も無差別爆撃され、焼夷弾の空襲火災によって灰燼に帰し、25000人の市民が殺害された。本書は、英国の歴史ノンフィクション作家が、市井の人々の体験と見聞をもとに、ドレスデンの壊滅と再生を物語る歴史書だ。

「ドレスデン爆撃」については、広島・長崎と同様に「戦争の悲劇」の象徴として長く語り継がれ、さまざまな研究がなされてきた。本書はそのような蓄積をもとに、個人と家族の物語に焦点を当てつつ、空襲以前から、三波にわたる空襲の恐怖と火災の脅威、戦後の混乱と東独時代、現在の復興までを詳細に叙述している。独英米の当事者の多様な証言、日記、手紙など新史料を駆使して肉声を再現し、都市の多難な歩みを克明に描いている。

「耳を傾けてもらえるのを待っている大勢の声がある。その多くが初めて聞かれるものである」。ウクライナが戦火に見舞われている今、本書には耳を傾けるべき声が満ちている。

Amazon商品紹介ページより
1900年頃のドレスデン市街遠望 Wikipediaより

ドレスデンはかつて「エルベ河畔のフィレンツェ」と呼ばれた美しき古都でした。

その「宝石箱」にも例えられたこの街がたった一日で焼失してしまったのです。それが1945年2月13日から14日にかけての英米連合によるドレスデン爆撃でした。

ドレスデンはヨーロッパ人すべてにとっても愛すべき街でした。多くの人がこの地を訪れその美しき姿を目に焼き付けていました。

ロシアの文豪ドストエフスキーもドレスデンとは縁が深く、彼が最も長く滞在した外国の街になります。彼はここでラファエロの『システィーナの聖母』をはじめ多くの美術品を鑑賞し絶賛しています。

ラファエロ『システィーナの聖母』アルテ・マイスター絵画館 Wikipediaより

そして妻のアンナ夫人と共にエルベ河畔のカフェで時を過ごしてもいました。『悪霊』の執筆がなされていたのもこの街です。

ドストエフスキーを学んでいる私にとってもドレスデンという街はどこか身近に感じられる古都でした。

そのドレスデンが爆撃されていく過程を詳細に追っていくのが本作『ドレスデン爆撃1945 空襲の惨劇から都市の再生まで』になります。

私はこの作品を一気に読み切ってしまいました。

ドレスデンが爆撃されるまでの英米首脳部の葛藤、兵士たちの精神状況、そしてドレスデンに生きていた人たちの生活。そして爆撃が始まってからの地獄絵図・・・

これは恐るべき作品です。

私たちは広島、長崎を通して原爆のことを学んでいます。そして東京大空襲など、各地を襲った大規模空襲の歴史も知っています。

そんな私たちであっても息を呑んでしまう地獄がここに描かれています。

日本とドレスデン、どちらがよりひどかったとかそういう話ではありません。戦争はどれも地獄です。

ですが改めて他国で起きた地獄絵図を知るということも、私たち自身の歴史を考える上で大切なことなのではないでしょうか。

また、この作品を読んでいて思わず頭を抱えてしまったことがあります。

それは「ドレスデンは非戦闘員が住む街で、爆撃の標的にされるべきではなかったのではないか」という問題です。

これは爆撃前から英米首脳部でも交わされていた問題でした。「戦争を早く終わらせるために必要だった」、「相手の戦意を喪失させるためにはこれが有効である」と正当化され爆撃は実行されることになりはしましたが、戦後もこの問題はくすぶり続けています。

ただ、この作品を読めばわかるのですが、これはただ単に非戦闘員の住む街が無慈悲に爆撃された悲惨な事件という形で単純化できるものではありません。

ドレスデンはドイツの街です。当然、ヒトラーのドイツだったわけです。いくらドレスデンが直接戦闘していなかったとしても、ヒトラーのドイツの一員であり、彼らの経済活動がナチスを支えていたのも事実です。

だとしたら直接戦闘員ではなくても同罪か。戦時目標として妥当な存在か。

これは非常に難しい問題です。これは私たち日本にも突きつけられた問題です。

この作品では爆撃直前のドレスデン市民の日常も書かれています。彼らは戦争の極限状況にいたわけではありません。ですので直接人を殺めたり、蛮行を行っていたわけではありませんでした。もちろん、戦時下ですのでかなりの制限はあります。しかし血で血を洗う地獄のような戦場ではありませんでした。

そうした環境に生きる「普通の人々」。

彼らはこのドレスデンという街の中で平和な(相対的なものではありますが)日々を送っていたわけです。

そこに突然英米の爆撃機がやって来て全てを破壊した。

戦争を早く終わらすために・・・

そしてドレスデンの人々は地獄に叩き落されることになったのでした。

ナチスは当然ながら、この攻撃を「テロ攻撃」と世界中に報道しました。ですがそれに対しての反応はやはり世界中で分かれたのでした。「ナチスが蛮行を起したからこうなった」と肯定する論や、「この爆撃はナチスの蛮行と何ら変わるものではないではないか」と批判する声も起こりました。

皆さんはどう考えますか?

これは現代にも直結する問題です。現在ロシア・ウクライナ戦争が続いていますが、ロシアの街では今も「普通の人々(※あえてここでは普通という言葉を使います)」が生活を続けています。この人たちを狙ってモスクワやサンクトペテルブルクを爆撃するのはテロ攻撃でしょうか。

「モスクワやサンクトペテルブルクの市民生活なくしてロシアは成り立たない。そこを完全に叩けばロシアの戦意は失われるだろう」。

この論理で攻撃した場合どうなるでしょうか。

正直、私ならためらってしまうでしょう。ですが同時に、「これまでロシア軍はウクライナ各地に猛烈な攻撃を浴びせかけてきたではないか、それこそウクライナの人々の街や生活は完全に破壊されてしまったではないか。これではあまりに一方的ではないか」という葛藤にも悩まされてしまいます。

こうした問題がまさしくドレスデン爆撃でも起きていたのでありました。

正直、私にはわかりません。何も言えません。ただ、「戦争はいけない。平和は大切だ」といくら言っても戦争は起こる。そして一度起こってしまったらもう引き返せないということをやはりこの本で痛感しました。

もちろん、「戦争反対」と訴え続けることは大切です。ですが「世の中みんな平和になればいいのに」という漠然とした願いだけではどうにもならない現実があることも事実だと思います。悲しいとしか言いようがありません。

であるならばどうすればいいのか、私にできることは戦争のこと、人間社会の歴史のことを学び続けるしかないと思っています。私一人が歴史を学んだところで世の中は変わるのか。残念ながらほとんど変わらないでしょう。ですが、何もせずに諦めて傍観し続けるのか。それもまた違うのではないでしょうか。

私はこれまで当ブログでも戦争や悲惨な歴史についてお話してきました。そして今ちょうどローマ帝国の歴史を学んでいます。あのローマ帝国も滅んだのです。であるならばいつどこであっても崩壊はあり得ないことではありません。日本ももしかしたら・・・

正直、私は怖いです。歴史を学べば学ぶほど恐怖を感じています。この先、私たちの生きる世界がどうなるのか、改めてこの本を読んで恐れを感じたのでありました。

原爆や大空襲を経験した日本にとってもこの本で提起されている問題は重要な意味を持っているのではないでしょうか。

以上、「S・マッケイ『ドレスデン爆撃1945 空襲の惨劇から都市の再生まで』~ドイツの美しき古都が消滅した悲惨な爆撃とは」でした。

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この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

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