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F・シャムー『ギリシア文明』あらすじと感想~ローマ帝国に巨大な影響を与えたヨーロッパ文明の源泉を学ぶのにおすすめの解説書!

目次

フランソワ・シャムー『ギリシア文明』概要と感想~ローマ帝国に巨大な影響を与えたヨーロッパ文明の源泉を学ぶのにおすすめの解説書!

今回ご紹介するのは2010年に論創社より発行されたフランソワ・シャムー著、桐村泰次訳の『ギリシア文明』です。

早速この本について見ていきましょう。

現代にいたる「文明」の源流である、アルカイック期および古典期のギリシア文明の基本的様相を解き明す。ミュケナイ時代からアレクサンドロス大王即位前まで。

論創社商品紹介ページより

この本はヨーロッパ、特にローマ帝国に巨大な影響を与えたギリシア文明について幅広く学べる素晴らしい参考書です。

古代ギリシアの象徴、アテナイのアクロポリス Wikipediaより

古代ギリシアといえばアテネのパルテノン神殿などが有名ですよね。また、オリンピックの発祥地ということで平和や文化・芸術のイメージもあるかと思います。

ですがこの古代ギリシアの歴史を辿っていくと意外な事実がどんどん出てきます。

まさにこのことについて訳者のあとがきでは次のように語られます。この本の大筋やローマ帝国とのつながりも知れる箇所ですので少し長くなりますがじっくり読んでいきます。

私がここに訳出したシャムーの『ギリシア文明』は、著者自身が「はじめに」で断っておられるように、氏の目に今映っているままに、ゆったりした形で示されたものである。おそらく、とくに現代日本人が「ギリシア文明」について抱いてきたイメージは、パルテノンに象徴される神殿建築や大理石彫刻に代表される美術であったり、ソクラテス、プラトンなどの哲学であったり、アルキメデスなどに代表される科学などの学問のふるさとという平和的イメージが主であろう。その意味で、本書を読まれた方は、この本はギリシア人について好戦的民族という歪んだイメージを与えるとお感じになるかもしれない。

しかし、「エパミンダス」が最初のギリシア人知己であった私にしてみると、これは、けっして予想を裏切るものではない。シャムー氏が、アルカイックおよび古典期のギリシアは三年のうち二年が戦時であったと指摘しておられるように、ギリシア人の歴史は、ぺルシアなど外敵の侵略に対する防衛戦だけでなく、同じギリシア人同士の血で血を洗う覇権争いの歴史であった。オリンピックについて論じられる際にしばしば言われる「オリンピック大会が開催されている間は休戦になった」というのも、それだけ、戦争が多かったということの裏返しであろう。

私は、戦争が占めていた重みを無視してギリシアの歴史と文明を知ったつもりでいることは、レオナルド・ダ・ヴィンチを芸術家という側面だけで捉えようとするのと同じであると思う。ダ・ヴィンチがある君主に自分を売り込むために書いた書面には、敵の城壁を壊す技術に通じていることや、矢の雨をくぐって敵の陣地に迫り、陥落させるための戦車の作り方を知っていることなど三〇項目ほど挙げた最後に、「絵もかける」と付記していることは、よく知られている。

もちろん、古代ギリシア人が、そのように好戦的で、戦争に明け暮れていたことは、けっして素晴らしいことではないし、まして、それを手本にすべきだなどとは思わない。贔屓目でみれば、才能豊かなギリシア人たちは、自主独立の精神が強すぎたのかもしれない。著者も指摘しているように、縦横に走る山脈と入り組んだ海岸線による自然環境が、そうした分裂主義的気風に輪をかけたという事情もあるもしれない。しかし、それにしても彼らは、厳しい分析的精神から、たえず、他を排除しようとするためか、勝敗が決したあとの措置も、あまりに寛大さに欠けることが多かったようである。

そうしたギリシア人における敗者に対する苛烈さは、シャムー氏も指摘しているとおりである。あれほど才能に恵まれたギリシア人が、アレクサンドロス大王によって一つに纏め上げられる以前は、ぺルシア戦争を別にすると、一つの力を形成することができなかった原因は、そこにあるのではないだろうか?

ギリシア人とローマ人は民族的に親戚であり、文化的にも共通しているが、この一点では対極にある。ギリシア人が、狭い国土のなかで、アテナイとスパルタ、スパルタとテーバイというように覇権をめぐって争い続けたのに対し、ローマ人は、戦っても、そのあとは敗者を受けいれ、その代表を自分たちと同じ資格で元老院に列せしめたばかりか、やがては、かつて敵として戦った民族の出身者を皇帝に戴くことさえ厭わず、《パックス・ロマーナ》を実現したのであった。これも、ギリシア文明を理解するうえで忘れてならない点であろう。

論創社、フランソワ・シャムー、桐村泰次訳『ギリシア文明』p455-456

「私は、戦争が占めていた重みを無視してギリシアの歴史と文明を知ったつもりでいることは、レオナルド・ダ・ヴィンチを芸術家という側面だけで捉えようとするのと同じであると思う。」

これはドキッとする言葉ですよね。ですがこれは私達が陥りがちな「ものの見方」でもあります。

この作品はそもそもギリシア文明がどのように出来上がっていったのかということを気候や地形から見ていきます。

地形がその地の人びとにどのような影響を与えていくかというのは非常に興味深いものがありました。この作品はとにかく視野が広いです。

古代ギリシアを様々な視点から総合的に見ていけるのでローマとギリシアのつながりを知りたかった私にとって非常にありがたいものがありました。古代ローマに興味のある方にもぜひおすすめしたい作品です。

実際にこの本に何が書かれているのかということまでは盛りだくさん過ぎてここでは紹介できませんが、古代ギリシアの芸術について書かれた箇所はまさに目から鱗でした。

なぜ古代ギリシア芸術はこんなにも素晴らしいのか。世界中たくさんの文明がある中でなぜギリシアが圧倒的美を生み出すことができたのか。これは面白かったです。鳥肌ものでした。

ぜひぜひおすすめしたい参考書です。

以上、「F・シャム―『ギリシア文明』~ローマ帝国に巨大な影響を与えたヨーロッパ文明の源泉を学ぶのにおすすめの解説書!」でした。

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この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

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