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ボブ・トマス『ウォルト・ディズニー 創造と冒険の生涯』あらすじと感想~ディズニー社公認伝記!バイブルとしてのウォルター伝

ウォルト・ディズニー 創造と冒険の生涯
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ボブ・トマス『ウォルト・ディズニー 創造と冒険の生涯 完全復刻版』概要と感想~ディズニー社公認伝記!バイブルとしてのウォルター伝

今回ご紹介するのは2010年に講談社より発行されたボブ・トマス著、玉置悦子、能登路雅子訳の『ウォルト・ディズニー 創造と冒険の生涯 完全復刻版』です。

早速この本について見ていきましょう。

みなさんもご存じのミッキーマウスを始め、様々なキャラクターを創り出し、ディズニーランドなどのテーマパークも運営して、今やアメリカの大衆文化の象徴と言えるディズニーという会社は、このウォルト・ディズニーからすべてが始まっています。この本は、この巨大なエンターテイメント王国を創り上げた天才的な男、ウォルト・ディズニーの波瀾万丈の一代記です。

東京ディズニーランドのグランドオープンにあわせて、1983年に刊行された名著を完全復刻。
いまや世界中の人気者となったミッキーマウスやディズニーランドの生みの親、ウォルト・ディズニー。
彼は一体どんな人間だったのか、そしてどのように人気キャラクターたちは生まれたのか……ディズニーの原点がわかる1冊です。

Amazon商品紹介ページより
ウォルト・ディズニー(1901-1966)Wikipediaより

本書『ウォルト・ディズニー 創造と冒険の生涯 完全復刻版』はディズニー社公認のウォルト・ディズニー伝です。

1928年に『蒸気船ウィリー』でデビューしたミッキーマウス。本書はその生みの親ウォルト・ディズニーの規格外の生涯を知れるおすすめ伝記です。

ですが実は、私はこの本を読む予定ではなかったのです。

と言いますのも、私はすでにウォルトの伝記としてニール・ゲイブラーの『創造の狂気 ウォルト・ディズニー』という本を読んでいたのでありました。

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『ウォルト・ディズニー 創造と冒険の生涯 完全復刻版』を読まずに『創造の狂気 ウォルト・ディズニー』を読むことにしたのには理由があります。それは新井克弥著『ディズニーランドの社会学 脱ディズニー化するTDR』の中で次のように書かれていたからでした。

ディズニーの歴史を学ぼうとする際に重要なのは、やはりウォルトの伝記だろう。この分野の定本としてはディズニー認定本である『ウォルト・ディズニー—創造と冒険の生涯 完全復刻版』(ボブ・トマス、玉置悦子/能登路雅子訳、講談社、ニ〇一〇年)がある。本書で提示した「ウォルト主義」を理解するためには最適の文献といえる。ただし少々大本営的な発表の仕方のため、いわゆる偉人伝的な色彩が否めない。もう少し人間くさいウォルトをつづった伝記に『創造の狂気ウォルト・ディズニー』(ニール・ゲイブラー、中谷和男訳、ダイヤモンド社、二〇〇七年)がある。帯文のコピーに「ミッキーの生みの親、実は「嫌なヤツ」?」とあるように、ウォルトの豊かな創造力、そして狂気を六百ぺージ以上にわたって展開している。とはいえ、記述は比較的中立だ。さながらヴィランの一人のようにウォルトを描いているものとしては『闇の王子ディズニー』(マーク・エリオット、古賀林幸訳、草思社、一九九四年)がある。本書はウォルトが労働組合を徹底的に弾圧したこと、レッドバージでFBIに積極的に協力したことなど、ウォルトの右翼的気質に焦点を当てた描写をしている。ただし、これは少々論証が甘く、筆者の思い込み的な部分も多々みられる。

青弓社、新井克弥『ディズニーランドの社会学 脱ディズニー化するTDR』P195-196

「ただし少々大本営的な発表の仕方のため、いわゆる偉人伝的な色彩が否めない。」

ディズニー社公認の伝記なのでそれは当たり前と言えば当たり前なのですが、実は『ウォルト・ディズニー 創造と冒険の生涯 完全復刻版』はディズニー社のチェックが入り、ウォルトのネガティブな側面がカットされた伝記なのでした。だからこそ私は中立的な伝記として定評のある『創造の狂気 ウォルト・ディズニー』を読むことにしたのでありました。

ですが、その後も勉強を進めている内に以前当ブログでも紹介した能登路雅子著『ディズニーランドという聖地』で次のように説かれているのを読み、私はハッとすることになりました。能登路氏は1983年の東京ディズニーランド開業のためにアメリカにやって来た日本人とディズニー社の橋渡しの仕事をしていました。

日本からの研修者の第一陣が到着して、いよいよオリエンテーションがはじまった。第一日目の日程は、ディズニーランドの歴史と経営理念に関する講義で、私にもぜひ聞くようにとディズニーの人事担当者から誘いがかかった。その日の朝、ディズニーランドで初めて会った日本人研修者は、東京ディズニーランドの経営母体であるオリエンタルランド社の幹部たちで、ディズニーランドのすべてを吸収しようという気概に満ちていた。私たちが案内された研修室には、何枚もの写真のパネルが用意されていた。「ディズニー・ユニバーシティ」と呼ばれるディズニーランドの社員教育部門の若い女性社員がその日の講師であった。

「すべては、ここからはじまったのです」と言いながら、最初に彼女は粗末なガレージの写真を私たち日本人に見せた。それは、若き日のウォルト・ディズニーがロサンゼルスでアニメーション作りをはじめたという叔父の家の車庫であった。続くパネルを一枚一枚指でさしながら、この講師はディズニーがいかに苦労してアニメーション映画の新分野を開拓し、ディズニーランド建設に至ったかを、実に慣れた、しかも誇らしげな口調で説明した。彼女がまるでひとつの国の壮大な建国物語を語るがごとくに、自分の会社の歴史を語るのを私は驚きの気持ちで聞いていたが、同時に、創始者ウォルト・ディズニーのことを、年若い彼女が苗字なしで「ウォルト」と呼んでいたのも、印象に残った。

ディズニー関係者が尊敬と親愛の情をこめて「ウォルト」と呼ぶ人物が、一体どこで生まれて、何を考え、何をなしたのかを私が詳しく知る機会が、数か月後にめぐってきた。ディズニーランドにおける何回かの研修を通じて知り合った日本人通訳者のひとりが、ボブ・トマス著のウォルト・ディズニーの伝記を共訳しないかと誘いをかけてくれたのである。ディズニーと個人的な親交もあった伝記作家によるこの本は、ディズニーランド社員の一種のバイブルとして、社内で広く推薦されているとの話であった。

さっそく目を通したところ、この伝記は、ウォルト・ディズニーの祖先がフランスからイングランド、アイルランドを経てアメリカに移住した経緯からはじまって、ディズニーの死後、フロリダに第二のディズニーランド「ウォルト・ディズニー・ワールド」が完成するまでの過程を、アニメーションの変遷およびハリウッドの歴史とともに丹念に記録した内容であった。「ウォルト・ディズニー」というタイトルに添えた副題に「アン・アメリカン・オリジナル」、つまり「純アメリカ産」という意味の言葉が使われているこの本のなかで、作者はディズニーがいかにアメリカ性と独創性をもった文化のクリエーターであったかを読者に伝えていた。

日本ですでに広く親しまれているディズニーという人物がどういう背景や思想をもっていたのか―それを日本語で紹介する意義は十分にあると思われた。私の共訳者はディズニーランドのフルタイムの通訳の仕事があり、私も学業に追われていたため、翻訳の準備には日本の出版社との交渉も含めて二年近くの時間がかかったが、この伝記は一九八三年一月に『ウォルト・ディズニー—創造と冒険の生涯』(講談社)という邦題で出版の運びとなった。東京ディズニーランド開園の三カ月前のことであった。

岩波書店、能登路雅子『ディズニーランドという聖地』P10-12

「彼女がまるでひとつの国の壮大な建国物語を語るがごとくに、自分の会社の歴史を語るのを私は驚きの気持ちで聞いていた」

「ディズニーと個人的な親交もあった伝記作家によるこの本は、ディズニーランド社員の一種のバイブルとして、社内で広く推薦されているとの話であった。」

この箇所を読んで私は「あ!しまった・・・!」と頭を抱えました。

私がディズニー関連の本を読み始めたのはそもそもディズニーランドの思想や宗教性を学ぶためでした。ですが時間の制約もあり、私は読む本をできる限り絞ることにしたのです。そう、いかにも効率的に。

だからこそ私は中立的で評判も良いニール・ゲイブラーのウォルト伝を読んだのです。これで人間ウォルトの良きも悪きも含めた人物像、歴史を知れたぞと私は満足していたのです。

しかしそれが落とし穴でした。

私は時間や効率を重んじるあまり、肝心のことを忘れていたのです。

「ディズニーと個人的な親交もあった伝記作家によるこの本は、ディズニーランド社員の一種のバイブルとして、社内で広く推薦されているとの話であった。」

思想的、宗教的な存在としてのディズニーランドを学ぶのなら、そのバイブルとされているこの本こそ重要だったのではないか!何たる失態!私は慌ててこのバイブルたる伝記を手に取ったのでありました。

新井克弥氏の解説にも「大本営発表的」と書かれていましたように、この本がディズニー社のバイブルである以上、ウォルトに対する神話化が行われているであろうと私は想像していました。

ですが読み始めてみるとあら不思議。そこまで露骨な神話化は行われておらず、このレベルであるならば問題ないのではないかという印象を持つことになりました。

もちろん、ニール・ゲイブラーの伝記に比べるとウォルトの気難しい性格やうつ病、労働者に対する強権、闘争など都合の悪い側面はかなり薄めて書かれるか、カットされています。私の印象としては、ウォルトを過度に讃美して神格化した書というよりは、都合の悪い点を見ないようにしたという雰囲気です。ウォルトを深く尊敬している人が見ようとしたウォルトの姿と言ってもよいかもしれません。

この本はたしかにそういった大本営発表的な面もありますが、ディズニーが好きで、もっとディズニーを知りたいという方にはぜひおすすめしたい伝記です。ウォルトの生涯や彼の理念がわかりやすく説かれています。

歴史研究が進んだ現代において、イエス・キリストにせよブッダにせよ、歴史的存在としてのキリスト、ブッダ像が言われることが多くなりました。「神話的、宗教的な伝承は正確ではなく、史実ではこうだった(であろう)」という論説です。

ですが、たとえ史実はそうであろうと、それを信仰してきた側においては神話的、宗教的な伝承を受けとり大切にしたきた歴史があります。それは動かしがたい事実です。宗教とは何かを考える上でこのことは非常に重要な視点です。

ディズニーの人気の秘密、そしてディズニー神話について学ぶならやはりバイブルとして大切にされている本を忘れてはならない、そのことを再確認した読書となりました。

伝記そのものとしてはニール・ゲイブラーの方が内容も充実していて面白いのですが、いかんせんかなり分厚く、読むのにも少し骨が折れます。それに対し、ボブ・トマスの伝記は割とすっきり書かれ、さらにウォルトのよい面や功績がわかりやすく説かれるので入門としてはこちらの方が読みやすいかもしれません。私個人としてはどちらを読んでも問題はないと思います。(できれば両方を読んでその違いを比べてみるのがベストではありますが)

ディズニーファンにぜひおすすめしたい一冊です。よりディズニーのことが好きになること間違いなしです。ぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。

以上、「ボブ・トマス『ウォルト・ディズニー 創造と冒険の生涯』~ディズニー社公認伝記!バイブルとしてのウォルター伝」でした。

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この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

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