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エリック・ウィリアムズ『資本主義と奴隷制』あらすじと感想~奴隷貿易とプランテーションによる富の蓄積が産業革命をもたらした!?

資本主義と奴隷制
目次

エリック・ウィリアムズ『資本主義と奴隷制』概要と感想~奴隷貿易とプランテーションによる富の蓄積が産業革命をもたらしたとする新説を唱えた金字塔的名著!

今回ご紹介するのは2020年に筑摩書房より発行されたエリック・ウィリアムズ著、中山毅訳の『資本主義と奴隷制』です。

早速この本について見ていきましょう。

なぜイギリスは世界ではじめての工業化を成し遂げ、ヴィクトリア時代の繁栄を謳歌しえたのか。この歴史学の大問題について、20世紀半ばまでは、イギリス人、特にピューリタンの勤勉と禁欲と合理主義の精神がそれを可能にしたのだとする見方が支配的だった。これに敢然と異を唱えたのが、本書『資本主義と奴隷制』である。今まで誰も注目しなかったカリブ海域史研究に取り組んだウィリアムズは、奴隷貿易と奴隷制プランテーションによって蓄積された資本こそが、産業革命をもたらしたことを突き止める。歴史学の常識をくつがえした金字塔的名著を、ついに文庫化。

Amazon商品紹介ページより
エリック・ウィリアムズ(1911-1981)Wikipediaより

上の本紹介にありますように、本書はマックス・ヴェーバーの『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』で説かれたような定説を覆した歴史学の金字塔的名著として有名な作品です。

この本のメインテーマはまさに「奴隷貿易と奴隷制プランテーションによって蓄積された資本こそが、産業革命をもたらした」という説の論証にあります。

本書とその著者エリック・ウィリアムについて巻末の解説では次のように説かれていましたので引用します。少し長くなりますが重要な箇所ですのでじっくり読んでいきます。

植民地など、「周辺」とされる地域から世界の歴史をみようとする立場は、いわゆる世界システム論をはじめとして、いまではそれほど珍しくはない。そうした見方は、学問的にも市民権を得ているといえる。しかし、ほんの半世紀まえには、そうした立場は、まともな学問とはみられないものでもあった。先頭を切って、この困難な局面を切り開いたひとりが、本書の著者エリック・ウィリアムズである。

トリニダード・トバゴの郵便局員の息子として生まれたウィリアムズは、秀才の誉れ高く、周りの期待を背負って、宗主国イギリスのオックスフォード大学に送りこまれた。古典学を専攻した彼は、抜群の成績で卒業したものの、当時のイギリスには—というより、日本をふくむ世界には—、西洋文明の根源にかかわる古典学、つまりギリシア語やラテン語の哲学や文学を、カリブ海出身の黒人に教えさせようという大学はなかった。

失意のウイリアムズは、思考の大転換を図る。自分たちの祖先を奴隷化した西洋文明を賛美することになりかねない古典研究を放棄し、カリブ海域人としての自らのアイデンティティに即した、未開拓のカリブ海域史研究に転向するのである。それはまた、同時に、カリブ海域の独立と統合をめざす植民地ナショナリストとしての覚醒をも意味した。

その結果、彼が最初に取り組んだのが、イギリス産業革命をカリブ海域から見るという画期的な研究であり、その成果が本書である。

イギリスが世界で最初の産業革命(工業化)に成功し、ヴィクトリア時代の繁栄を謳歌したことは、近代史上、最大の出来事であった。したがって、なぜそれがイギリスだったのか、ということは、歴史学の大問題となってきたのも当然である。この問いに答えようとする場合、基本的に二つの立場がありうる。イギリス人の偉業としてそれを見る立場と、植民地を含む世界的な連関のなかにそれを置いて見ようとする立場とである。前者は、いわゆる一国史観であり、後者は世界システム論やグローバル・ヒストリの立場である。

たとえば、本書五章には、今日に続くイギリス系の有力な国際金融機関、バークレー銀行の創業者たちに関説した箇所がある。バークレー家は敬虔なクエーカー教徒、つまりピューリタンの一家であった。かつては、一国史観に基づいて、産業革命がイギリス人、とくにピューリタンの勤勉と禁欲と合理主義の精神によって生み出されたという見方が有力であった。とくに、西洋型近代を理想とする近代化論一色であった戦後日本の歴史学では、この点のみがとりあげられ、産業革命はプロテスタントの信仰とそのネットワークによってもたらされたかのように喧伝された。バークレー家の資産が、もともとは奴隷貿易や奴隷制プランテーションの経営によって蓄積されたものであることは、見落とされてきたのである。

西インド諸島人としてのウィリアムズの立場は、むろん、違っていた。カリブ海の黒人の立場からみれば、イギリス産業革命は、「アフリカ人奴隷の汗と血」の結晶でしかない。このことを、徹底的に主張したのが、本書であり、いまでは「ウィリアムズ・テーゼ」として広く知られている歴史観である。

筑摩書房、エリック・ウィリアムズ著、中山毅訳『資本主義と奴隷制』P435-437

本書では奴隷貿易の成り立ちやその発展過程を詳しく見ていくことになります。

本書序盤でもエリック・ウィリアムズは、

黒人奴隷制の起源は経済的なものである。人種的なものではない。それは労働者の皮膚の色ではなく、安価な労働力ということにかかわっている。黒人奴隷にくらべれば、インディアンと白人の労働は、はるかに劣っていた。

筑摩書房、エリック・ウィリアムズ著、中山毅訳『資本主義と奴隷制』P39

と述べるように、私達が奴隷貿易というものに対してつい抱いてしまう先入観を破壊していきます。

私たちは奴隷貿易や悪辣な植民地支配を単純に白人対黒人、キリスト教対その他の宗教という構図で見てしまいがちですがことはそう単純ではありません。

まさに経済こそが奴隷労働における極めて重要な問題であり、宗教やその他の身体的特徴は後々その事実を歪曲するために持ち出されたレッテルに過ぎないと著者は主張します。そして著者はそうした実例を本書で丁寧に示していきます。

本書中盤に出てきた次の箇所も非常に印象に残っています。

重工業は、産業革命の進行と三角貿易の発展の過程において重要な役割を演じた。冶金工業をまかなった資本の一部は、三角貿易から直接調達された。

ジェームズ・ワットと蒸気機関に融資された金は、西インド諸島貿易により蓄積された資本から出たものである。

筑摩書房、エリック・ウィリアムズ著、中山毅訳『資本主義と奴隷制』P172
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蒸気機関を発明したワットについては以前こちらの本を読みましたが、そのワットがどこから資金を調達したかということは考えたことすらありませんでした。ワットは奴隷貿易に直接関係する銀行から融資を受けていたのです。これは衝撃でした。産業革命が奴隷貿易から成り立っていたということの証拠としてこれ以上ないほどのインパクトを受けることになりました。

私が本書を読んだのはスリランカの紅茶が直接のきっかけでした。

鈴木睦子著『スリランカ 紅茶のふる里』を読み、かつてスリランカが紅茶よりもコーヒー栽培で有名だったことや世界貿易の流れと共にスリランカやインドの歴史が動いていたことを改めて知ることになりました。

そして私は以前マルクスを学ぶ流れで産業革命についても学んでいたので、これを機に改めて紅茶やコーヒー、砂糖やチョコなどのプランテーション商品と貿易について知りたいと思うようになったのでした。そして読んだのが以下の本たちです。

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これらの本を読み、そして本書『資本主義と奴隷制』を読んで改めて世界がとてつもないスケールで回っていることを実感したのでした。

スリランカの仏教を学ぶと言っても、やはり仏教の教義だけを見ても見えてこないものがあります。その当時の時代背景、国際関係にまで目を向けないと見えてこないものがどうしても出てきてしまいます。

宗教は宗教だけにあらず。あらゆるものが繋がって成立しています。

これは私が特に大切にしている考え方です。

だからこそ私は宗教の教義や歴史だけではなく、その時代背景や生活文化もできるだけ学ぼうとしています。

今回読んだ『資本主義と奴隷制』もまさに巨大なスケールで歴史の流れを見ていく刺激的な作品でした。

改めて世界の複雑さ、巨大さを実感した読書になりました。

私たちの先入観を破壊する超ド級の作品です。ぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。

以上、「エリック・ウィリアムズ『資本主義と奴隷制』~奴隷貿易とプランテーションによる富の蓄積が産業革命をもたらした!?」でした。

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この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

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