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中村元選集第20巻『原始仏教から大乗仏教へ』概要と感想~仏教史の転換点!日本仏教を考える上でも重要な示唆が満載の名著
今回ご紹介するのは1994年に春秋社より発行された中村元著『中村元選集〔決定版〕第20巻 原始仏教から大乗仏教へ』です。
早速この本について見ていきましょう。
原始仏教から部派の分裂をへて大乗仏教にいたる仏教の思想の流れを,主要なテーマにそって展開。仏教の諸体系における無我説,仏教における慈悲,悪,因果,心などを収録。
煩瑣で無味乾燥と思われがちなアビダルマ仏教。その奥に秘められた瑞々しい思索を再評価し、原始仏教から大乗仏教への発展の歴史をたどる。
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今作ではこれまで見てきた原始仏教教団から時代を経た、まさに過度期の仏教教団の思想や時代背景を見ていくことになります。
中村元先生は本書における過度期の仏教教団について「はしがき」で次のように述べています。
インドで仏教が興起してから、のちに大乗仏教が出現するまでには、そうとう複雑な発展過程を経由している。教団の発展とともに伝統的保守的仏教(いわゆる小乗仏教)が成立して複雑な形態を示すに至った。古来からのその伝統を重んずる保守的態度は、今日でも南アジアでは依然として支配的であるが、その全貌を理解把捉することは、なかなか難しい。(中略)
伝統的保守的仏教は、大乗仏教に比べて決して遅れているとか、幼稚であるとかいうことではない。思想的哲学史的に極めて重要な問題を内含していて、しかも理解は容易ではない。その個々の問題については、機会あるごとに検討してきたが、本選集の一冊としてまとめる機会に恵まれたので、それらの所論をここに収めることにした。(中略)
伝統的保守的仏教の教学は一見したところ、ひからびた無味乾燥なもののように思われる。しかしその奥を探険すると、そこには瑞々しい思索が生きている。たとえ片鱗だけであろうとも、その思想の深さをうかがうと、到底、一般日本人の連想する「小乗」というようなものではないことも、ご理解いただけるであろうと思う。その思索のあとのすばらしさをここに露呈させようとするのである。
この時代の思想といえば『倶舎論』に説かれているようなものであると解せられ、その研究といえば、『倶舎論』の読解のことであった。それは日本の諸宗派の教学(宗学)を理解するための準備とのみ解せられていた。しかしガンダーラの丘陵の上にそびえ立つ大僧院のなかで、あるいはナーガールジュナコンダの大学院のなかで学僧たちが真剣に論議していたことは、人類の哲学思想史の上でも注目すべきものである。むろん当時の諸派の教義学がそのまま復活するということはありえない。しかしかれらの表明した個々の思索は貴重であり、今後の世界にも意味をもつものであると思う。
春秋社、中村元『中村元選集〔決定版〕第20巻 原始仏教から大乗仏教へ』Pⅰ-ⅱ
私はこの本を読んで改めて『倶舎論』という存在に恐れおののくことになりました。
仏教学を学んでいると『倶舎論』という存在は「遥かなる高み」というイメージが否が応でもついて回ります。私は仏教学専攻ではなく、浄土真宗を専門に大学院で学んでいたので『倶舎論』を読むことはありませんでしたが、その難解さはよく聞いていました。
この本ではそんな『倶舎論』の中心ともなるアビダルマ仏教の思想も詳しく見ていくことになります。これを全て頭に入れるとなると、めまいがしそうな思いになりました。
とはいえ、上の引用で中村元先生が述べるように原始仏教から大乗仏教への過度期で深められた仏教思想は煩瑣で無味乾燥というだけで終わるものでは決してありません。
今作ではこの時代の仏教思想の豊かさや当時の時代背景とのつながりを学ぶことができます。
また、大乗仏教が生まれてくる萌芽もこの本では詳しく見ていくことになります。大乗仏教は民衆を無視した既存教団への反発から生まれたという単純な構図で語られがちですが、実際はそう簡単な話ではありません。もちろん、そうした側面もあったかもしれませんが、そこには様々な社会要因も絡んでいたこともこの本では語られます。
入門書としてはかなり厳しい内容ですがより詳しく仏教を学びたい方にはとてつもなく読み応えのある大作です。ぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。
以上、「中村元選集第20巻『原始仏教から大乗仏教へ』~仏教史の転換点!日本仏教を考える上でも重要な示唆が満載の名著」でした。
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原始仏教から大乗仏教へ 大乗仏教I (決定版 中村元選集 第20巻)
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