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扇田昭彦『舞台は語る』概要と感想~日本のシェイクスピア・ブームの背景を知れる1冊!現代演劇の流れを知るのにもおすすめ!
今回ご紹介するのは2002年に集英社より発行された扇田昭彦著『舞台は語る』です。
早速この本について見ていきましょう。
これは、一九六〇年代から演劇記者、劇評家として第一線に立ち、舞台の熱い現場から、読者に向けリアルタイムの情報と批評を発信し続けてきた著者ならではの、現代演劇・ミュージカルのラディカルな読み解きであり、真摯なガイドブックである。現代演劇の新しい可能性を切り開いた唐十郎、寺山修司、鈴木忠志、太田省吾、蜷川幸雄らの小劇場第一世代はもちろん、井上ひさし、つかこうへい、野田秀樹から三谷幸喜、永井愛、岩松了、平田オリザ、松尾スズキ、そしていま話題のミュージカルまで最新の演劇状況を盛り込んでいる。さらに現代演劇の流れを、身体、家族劇、シェイクスピア、地域演劇など、多彩な視点から解きほぐして、分析と批評の楽しさを味わわせてくれる好著でもある。
Amazon商品紹介ページより
この本は前回の記事で紹介した『日本の現代演劇』と対になる作品です。
著者は巻末のあとがきでこの本について次のように述べています。
私はすでに一九九五年に『日本の現代演劇』(岩波新書)という本を上梓しているが、これは一九六〇年代以降の小劇場運動を中心に、一九九〇年代までの日本の現代演劇の流れを、私自身が体験したエピソードを交えてたどった同時代演劇史である。ただし、限られた紙数のため、この本では「新劇」と「ミュージカル」にはあまり触れる余裕がなかった。それに比べると、本書は小劇場、新劇、ミュージカルなど、現代演劇全般を幅広く扱っている。また、時代の流れに沿って書いた『日本の現代演劇』に対し、本書はテーマ別、あるいはキーワード別の記述もなっている。『日本の現代演劇』が時間軸に沿った「縦糸」だとすれば、本書は多くのテーマに即して演劇の現状を分析した「横糸」である。「縦糸」と「横糸」を合わせれば、日本の現代演劇とミュージカルに関するコンパクトな織物が出来るのではないかと思う。
集英社、扇田昭彦『舞台は語る』P221-222
前回の記事で紹介した『日本の現代演劇』では戦後から90年代初頭までの演劇の流れを知ることができました。記事の中でもお話ししましたが安保闘争や学生紛争と演劇のつながりを知れたのは私にとっても非常に興味深いものがありました。
そして今作では本の出版も2002年ということでそこからさらに最近の演劇事情を知ることができます。
特に劇団四季や『レ・ミゼラブル』など私も大好きなミュージカルの話も聞けるのは嬉しい限りでした。
そして何と言っても日本におけるシェイクスピア演劇の流れを知れたのが大きかったです。シェイクスピアが日本でブームになっていった歴史的背景は非常に興味深かったです。翻訳家の小田島雄志や演出家出口典雄の登場、あの吉田鋼太郎さんも所属していたシェイクスピア・シアターの存在。ピーター・ブルックやトレバー・ナンら海外の著名な劇作家の影響。そして蜷川幸雄さんの斬新な演出。
こうした流れを扇田さんの名解説で聴くことができます。扇田さんの名解説には以前当ブログで紹介した井上ひさし著『ロマンス』からすっかりファンになっています。
この本も日本の演劇やミュージカルの大枠を掴むのに最高の手引書となっています。ぜひぜひおすすめしたい作品です。ぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。
以上、「扇田昭彦『舞台は語る』~日本のシェイクスピア・ブームの背景を知れる1冊!現代演劇の流れを知るのにもおすすめ!」でした。
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舞台は語る ―現代演劇とミュージカルの見方 (集英社新書)
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特に思想の吹き荒れた安保闘争、学生紛争時代における演劇界には強い関心があったのでこのことについて詳しく知ることができたのは非常にありがたいものがありました。
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