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『蜷川幸雄の稽古場から』あらすじと感想~若手俳優から見た蜷川幸雄の人間性、仕事とは。現場の戦いを知れる名著!

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『蜷川幸雄の稽古場から』~若手俳優から見た蜷川幸雄の人間性、仕事とは。現場の戦いを知れる名著!

今回ご紹介するのは2010年にポプラ社より発行された『蜷川幸雄の稽古場から』です。

早速この本について見ていきましょう。

「世界のニナガワ」と呼ばれ、国際的な活躍を続ける一方で、
多くの若手を見出し、鍛え、育ててきた蜷川幸雄。

その稽古場がどのようなものであったのか、
若きスターたちへのインタビューから、
日本を代表する演出家の秘密を解き明かす。

巻末に蜷川自身へのインタビューも収録。

◯松岡和子「蜷川幸雄の稽古場」
◯木俣冬「取材ノート」
◯舞台・稽古場写真:カラー16ページ
◯蜷川実花による撮りおろしグラビア12ページ、初の親子コラボが実現!

Amazon商品紹介ページより

この本は2010年当時、まだ若手俳優時代だった蒼井優、小栗旬、尾上菊之助、勝地涼、鈴木杏、寺島しのぶ、成宮寛貴、長谷川博己、藤原竜也、松たか子(※敬称略)が蜷川幸雄との仕事を回想し語るという作品です。

2010年当時はまだ若手だったとはいえ、すでに頭角を現していた10人。2023年の今から見ればこれら10人の活躍ぶりはもう言うまでもないですよね。

そしてその活躍の背景には蜷川幸雄さんの稽古場があった。これは興味深いです。

巻末の木俣冬氏による「取材ノート」では次のように述べられていました。

「蜷川幸雄さんって、稽古で灰皿を投げるんでしょう?」

若い俳優が初めて演出家・蜷川幸雄の舞台に出演するとき、まず、そう心配するらしい。数年間にわたり、稽古場を取材させてもらうなかでわかったことは、「蜷川幸雄の灰皿」というのは「プロメテウスの火」のように神話的なもので、この火を手渡された俳優は、目覚ましい進化を遂げるというものだった。

今の自分を許容するな!

「もっと輝かしい自分になりたいから、フィクションをやるんじゃないか?」

二〇〇五年、夏。『天保十二年のシェイクスピア』の稽古場で蜷川が俳優たちに向かってこう言っていた。それは群衆のシーンで、ともすれば、大人数の中に個々が埋没してしまいそうなところだ。でも蜷川は、ひとりひとりにしっかり個性を表現させようと、大きな声で煽っていた。蜷川の言葉は人の心を突き動かす。

この本に登場する十人は今でこそ「輝かしい俳優たち」だが、蜷川の舞台に初めて参加したときは、「もっと輝かしい自分」を探している真っ最中だった。

蜷川はそんな彼らに、いつも強く呼びかけた。

「今の自分を許容するな!」「自分の不得手なものに食らいついていけ」

「世界はもっと混沌として猥雑で破天荒なエネルギーで満ちている」

「ちっぽけなプライドなんか捨ててさ。世界はこんなにも広いんだから」

自分が勝手に決め込んでいる発想は、広い世界から見たらとてもちっぽけだ。もっとたくさんの可能性を見つけなくちゃもったいないだろう?そう、蜷川は問いかけ、若い俳優たちに、現実の彼らから遥かに遠い役を課すのだった。

例えば、生きるべきか、死ぬべきか、とアイデンティティに悩むハムレット。残虐の限りを尽くすローマ皇帝カリギュラ。天使の啓示を受けフランス軍を指揮したジャンヌ・ダルク。自ら命を絶つほどの愛を貫いたヴェローナの少女ジュリエット。実の母を殺害する古代ギリシャの娘エレクトラ。天涯孤独の身になりながらも男装して生き抜く令嬢ヴァイオラ。革命時代のロシアを見つめた哲学者スタンケーヴィチなどなど……一見果てしなく遠く思える「役」を、蜷川は「あり得たかもしれない自分」だと言う。

コミュニケーションは努力だぞ

「初めての立ち稽古って、初めてデートしているようなものだから、その人のいいところを出してほしいんですよ。だから全部のダメ出しはしないんです。待つなら待つ。この俳優はここまでいけるんだなという手がかりがほしいだけ。稽古は恋愛みたいなもの。みんなで愛しあって(笑)、それぞれのいいところが出てくるといいなあと思うんです」。初めての稽古場で、大きな目標を前にした若い俳優たちに、蜷川は優しい(寺島しのぶには最初から厳しかったようだが)。装置や衣装や小道具が、すっかりそろっていて(スタッフの奮闘もすばらしい)、それらが俳優を高く跳ばす追い風になる。

また、蜷川が語る、先達の演劇人スタニスラフスキーやぺーター・シュタイン、イェジー・グロトフスキ・タデウシュ・カントール、思想家のバフチン、映画監督の今村昌平や黒澤明、古今東西の名優たちの逸話など、見聞きしたことのないエピソードが、若者たちを刺激していく。『幻に心もそぞろ狂おしのわれら将門』の稽古開始直前のある日、「キム・ギドク監督の『春夏秋冬そして春を見ろ!」という蜷川の言葉に、映画館に蜷川組が集結した、なんてこともあった。

俳優が前進できるように、蜷川はいろいろな稽古方法を採る。例えば、演技のダメ出しの言い方も幾通りもある。その場で言う。時間を置いてからにする。みんなに聞こえる声で。こっそりと。厳粛に。ジョークを交える。豊富にアイデアを出せる者には自由に任せ、発想が固まってしまっている者には、蜷川自らが動いて見せることもある。本、映画、過去の経験談、いろいろな例を用い、俳優ひとりひとりに対して誠実に向き合い、各々の個性にあった方法で稽古が進行していく。

見学を続けていると、蜷川は作品ごとに〝稽古場というドラマ〟を作っているようにも思えた。

ポプラ社『蜷川幸雄の稽古場から』P301-303

私が蜷川幸雄さんに興味を持つようになったのは、以前当ブログでも紹介した松岡和子著『深読みシェイクスピア』がきっかけでした。

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この本で読んだ松たか子さんや蒼井優さんのシェイクスピア劇のエピソードがあまりに強烈で、役者さんに対する敬意が私の中でさらに高まったのでありました。

そしてその役者さんたちと深い深いつながりがあるのが蜷川さんだと知り、私は興味を抱いたのでした。この本では『深読みシェイクスピア』に出てきた松たか子さん、蒼井ゆうさんも出てきますし、藤原竜也さん、小栗旬さんなど今や大スターの若かりし頃のお話も聞くことができます。これは面白いです。

そして先日観劇した彩の国シェイクスピア・シリーズの『ジョン王』。これも大きかったです。

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この彩の国シェイクスピア・シリーズは元々、蜷川幸雄さんが舞台演出を務めていました。そして現在、その役を吉田鋼太郎さんが引き継いで上演を続けています。

私は去年見た『ヘンリー八世』に引き続き、このシェイクスピア・シリーズに大感動してしまいました。「こんな素晴らしい舞台を作っている人たちはなんとすごいのだろう!もっともっと舞台について知りたい!」と私は思ったのでありました。

そんな私にとってこのシェイクスピア・シリーズを導いてきた蜷川さんの仕事ぶりを知れるこの作品は最高の逸品でした。

『深読みシェイクスピア』では松岡和子さんが見た役者さんたちの姿を知ることができましたが、今作では役者さんから見た蜷川さんや舞台裏、シェイクスピア作品を知ることができます。

読んでいて「これはまたとてつもない本を見つけてしまった」とドキドキするほど刺激的な作品でした。

いやあ面白い!ぜひぜひおすすめしたい名著です!ぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。

以上、「『蜷川幸雄の稽古場から』~若手俳優から見た蜷川幸雄の人間性、仕事とは。一流の現場の戦いを知れる名著!」でした。

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この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

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