『写真で見る ヴィクトリア朝ロンドンの都市と生活』あらすじと感想~ディケンズも見た19世紀後半のロンドンを知るのにおすすめ!
『写真で見る ヴィクトリア朝ロンドンの都市と生活』概要と感想~ディケンズも19世紀後半のロンドンを知るのにおすすめ!
今回ご紹介するのは2013年に原書房より発行されたアレックス・ワーナー、トニー・ウィリアムズ著、松尾恭子訳『写真で見る ヴィクトリア朝ロンドンの都市と生活』です。
早速この本について見ていきましょう。
文豪ディケンズが作品世界に描き、シャーロック・ホームズが歩き回った19世紀ロンドンの町並みを貴重な写真とともにたどる。
Amazon商品紹介ページより
歴史的建造物から陸海交通網、商人から貧民街の人々を活写した詳細な写真記録があのころのロンドンを蘇らせる。
この本では19世紀中頃から後半にかけてのロンドンの姿を大量の写真で見ることができます。
そしてこの本の特徴は19世紀イギリスの偉大な文豪ディケンズと絡めてロンドンの街が語られる点にあります。
「はじめに」では次のように述べられています。少し長くなりますがこの本の雰囲気を感じるのに最適なのでじっくり見ていきます。
チャールズ・ディケンズが、一八四九年に執筆した『デイヴィッド・コパフィールド』の主人公、デイヴィッド・コパフィールドは、少年の時にロンドンへやって来た。コパフィールドにとって、ロンドンは、驚きと魅力と可能性に満ちた場所だった。また、多くの人がロンドンに引きつけられ、作家は想像を掻き立てられた。とりわけディケンズは、想像力を大いに刺激され、それが彼の創作につながった。
コパフィールドは、ロンドンにおいて苦しみも味わった。最初は、セイレム校で辛い目に遭った。その後、酒類を商うマードストン=グリンビー商会に働きに出され、酒瓶の洗浄やラべル貼りを行うのだが、ここでもたいへん苦労した。実は、ディケンズも、少年時代に苦労を味わっている。
ディケンズは、ロンドンにやって来てから間もなく、靴墨工場に働きに出され、ラべル貼りなどを行っていた。靴墨工場は当初、テムズ川沿いのハンガーフォード・ステアーズの近くに建っていた(一五頁参照)。マードストン=グリンビー商会は、ブラックフライアーズの川岸に建っていた。
コパフィールドは、その建物について次のように語っている。「建物はおそろしく古かった。専用の船着き場があったが、その船着き場は、満潮の時は水に接しているのだが、干潮の時は、泥の上に立っている状態になった。建物には、文字通り、鼠がはびこっていた」
ディケンズは、ロンドンの人びとの様ざまな人生や、人びとが心に抱く愛情、憎しみ、恐れなどを巧みに描いた。そして、作品の舞台となるロンドンの姿も詳しく描いた。ディケンズにとってロンドンは、登場人物と同様に重要な存在だった。
ディケンズが『デイヴィッド・コパフィールド』を執筆していた頃、写真という新しい技術が生まれた。黎明期の写真家たちは、一九世紀半ばのロンドンのランドマークや街の風景を記録した。そしてディケンズも、ロンドンの街や人の姿を記録した。写真では分からない音や匂い、生活風景も詳しく記録した。
ディケンズは、いくつかの異なる時代を生きている。一九世紀初めに生まれ、一八七〇年に五八歳で亡くなっており、決して長くはない生涯だったが、その間にロンドンは大きくなり、社会構造が変わった。ディケンズの少年期とニ〇代前半までは、ジョージ王朝時代及び摂政時代だった。そして、ディケンズが二五歳の時、ヴィクトリアが女王に即位し、いわゆるヴィクトリア朝時代が始まった。ヴィクトリアが即位したのは、一八三七年六月二〇日である。
ディケンズは、目まぐるしく変わるロンドンをしっかりと見つめ、その成長と発展、それに伴って生まれた様ざまな問題を記録した。私たちは、ディケンズが生まれてからニ〇〇年後の時代を生きているが、本書に収められている写真とディケンズの作品を通して、異なる時代のロンドンの姿を知ることができる。
原書房、アレックス・ワーナー、トニー・ウィリアムズ著、松尾恭子訳『写真で見る ヴィクトリア朝ロンドンの都市と生活』 P7-8
※一部改行しました
ディケンズについては当ブログでも以前紹介しました。
ディケンズ(1812~1870)はドストエフスキーにも大きな影響を与えたイギリスの文豪です。
彼のキャリアは法律事務所の事務員から始まり、そこからジャーナリストを志し速記術を習得。法廷の速記者として経験を積んだ後、新聞記者に転職します。
そして新聞記者としての仕事の傍ら執筆した『ボズのスケッチ集』が大ヒット。そこから彼の作家人生がスタートします。
彼の代表作は『ピクウィック・クラブ』、『オリヴァー・ツイスト』、『骨董屋』、『クリスマス・キャロル』、 『デイヴィッド・コパフィールド』、『二都物語』、『大いなる遺産』などがあり、様々な名作を残しています。
ディケンズは小説を通してロンドンの悲惨な環境を少しでも良くしたいと考えた作家でした。
特に『オリヴァー・ツイスト』では過酷な運命をたどる孤児オリヴァーを通して、貧民たちの悲惨な環境を告発しました。
そんなディケンズの小説はイギリス社会に絶大な影響をもたらしました。
虐げられた子どもたちを救いたいという思いが、小説を通して人々に届いたのです。そしてそれが実際に社会を動かしたのです。伝記作家ツヴァイクはそんなディケンズの偉業について次のように述べています。
『オリヴァー・ツウィスト』が世に出たとき、街頭の子供たちはそれまでより多くのほどこしを受けるようになった。政府は救貧院を改善し、私立学校の監督を強化した。イギリスの同情と善意がディケンズによって強められたのである。それによって苛酷な運命をやわらげられた貧民や不幸な人たちは、莫大な数にのぼるだろう。
みすず書房 ツヴァイク 柴田翔、神品芳夫、小川超、渡辺健共訳『三人の巨匠』P90
この本ではまさにそんなディケンズが見ていたであろうロンドンの街、そして彼の死後も発展を続けるロンドンの街をたくさんの写真で見ていきます。
この本の目次にもありますように、様々な角度から19世紀中頃から後半にかけてのヴィクトリア朝のロンドンを見ていきます。
ヴィクトリア朝は産業革命が進み、イギリスが最も繁栄した時代です。圧倒的な繁栄とそれに伴って生まれた格差。この光と闇が同時に生まれたのがヴィクトリア朝時代です。ディケンズはまさしくそのような大変化の時代を生きたのでありました。
この本ではそれぞれのディケンズ作品との関わりも解説されていきます。ですのでディケンズファンにはたまらない構成となっています。
また、そもそも私がヴィクトリア朝のロンドンを学ぼうと思ったのはマルクスが滞在していた当時のロンドンを知るためでした。
実はマルクスはディケンズの作品がお気に入りで、彼の作品から強い影響を受けていたとされています。貧困に苦しむ人々の姿を描いたディケンズに対し、マルクスも思う所があったのでしょう。
この本はそんなディケンズやマルクスも見たであろうロンドンの姿を知れる素晴らしい1冊です。当時の人びとの生活や文化の解説もわかりやすく、とても読みやすい作品となっています。おすすめです!
以上、「『写真で見る ヴィクトリア朝ロンドンの都市と生活』ディケンズも見た19世紀後半のロンドンを知るのにおすすめ!」でした。
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