ディケンズおすすめ作品『オリヴァー・ツイスト』あらすじと解説

イギリス・ドイツとドストエフスキー

オリヴァー少年の一言「お代わりをください」が忘れられない。ディケンズ『オリヴァー・ツイスト』

『オリヴァー・ツイスト』はディケンズによって1837年に発表された作品です。

私が読んだのは新潮文庫、加賀山卓郎訳の『オリヴァー・ツイスト』です。

早速あらすじを見ていきます。

孤児オリヴァー・ツイストは薄粥のお代わりを求めたために救貧院を追い出され、ユダヤ人フェイギンを頭領とする少年たちの窃盗団に引きずり込まれた。裕福で心優しい紳士ブラウンローに保護され、その純粋な心を励まされたが、ふたたびフェイギンやその仲間のサイクスの元に戻されてしまう。どんな運命がオリヴァーを待ち受けか、そして彼の出生の秘密とは―。ディケンズ初期の代表作。

新潮文庫、加賀山卓郎訳『オリヴァー・ツイスト』裏表紙

オリヴァー少年は孤児で救貧院という貧しい孤児たちを収容する施設に入れられていました。

そこでの生活はあまりに劣悪で、食事もほとんど与えられず、常に皆お腹を空かせている状態でした。

オリヴァー・ツイストと仲間たちは三カ月にわたって、ゆるやかな飢餓という拷問を受け、ついには飢えの限界に達して心がすさんだ。そこで歳のわりに背が高く、この手の苦しみに慣れていなかったひとりの少年が(というのも、実家が小料理店だったからだが)、毎日薄粥をもう一杯追加してくれなければ、いつか夜隣に寝ている子を食ってしまうかもしれないと暗い声で仲間に打ち明けた。たまたま年端も行かない病弱な子だった。背の高い少年は飢えた凶暴な眼をしていて、まわりの連中はそのことばを信じた。相談がなされ、その日の夕食後に誰が給仕係のところまで歩いていってお代わりを要求するかを決める、くじ引きがおこなわれた。当たりを引いたのはオリヴァー・ツイストだった。

新潮文庫、加賀山卓郎訳『オリヴァー・ツイスト』p23-24

こうした状況で、他の子どもたちのために言ったのがあの「お代わりをください」という有名な一言だったのです。

自分が空腹だったから言ったのではありません。あくまでくじ引きで当たってしまったので仕方なく皆を代表して言ったまでなのです。

しかしこの一言が彼を波乱万丈な世界へと投げ込むことになっていくのです。

さて、ここで島田桂子氏の『ディケンズ文学の闇と光』を参考にこのオリヴァ―の生活を改めて見ていきます。

一八三四年の救貧法改正法によって設立されたのが救貧院であったが、その運営と環境は劣悪なものであり、そこに送られた貧民たちに与えられたものは過酷な労働と貧しい食事であった。そのような社会情況の中で、ディケンズは、その辛辣な風刺によって救貧法を徹底的に批判した。肥った血色のいい救貧院の院長に向けられた、やせて青白いオリヴァーの「お願いです。もっと、お粥をください。」という弱々しい声は、貧民たちの精一杯の訴えだったのである。バンブル氏とマン夫人は、この救貧院制度という社会悪を支える者の代表者として描かれている。彼らは権力の上にあぐらをかき、小さいものを迫害する。身寄りの無い貧しいオリヴァーは、教区にとって厄介なお荷物であり、単に死すべき‛item’でしかない。

新潮文庫、加賀山卓郎訳『オリヴァー・ツイスト』p62

ディケンズが描いたオリヴァーは虐げられた弱き人々の象徴なのです。

そして「お代わりをください」という一言の結果、彼は救貧院を追い出され、その後悪の世界に引きずり込まれることになります。

また、『オリヴァー・トゥイスト』は救貧院の非人道的な冷酷さだけでなく、そこを出た者たちを待っている恐ろしい犯罪の巣、すなわち、泥棒、強盗、ごろつきの浮浪者、売春婦、人殺し、オリヴァーのような孤独な逃亡児たちが織り成す複雑怪奇な社会の暗部を見事に暴きだしている。フェイギンやサイクスたち悪の集団は、下層杜会の犯罪集団の代表者として、その凶暴性と恐ろしさを露呈し、世界中を震え上がらせた。ディケンズはジャーナリストの目で社会を捉え、芸術家の筆で描いたのであり、実際の社会状況の調査が、主人公の人生の旅(『オリヴァー・トゥイスト』の副題は‛The Parish Boy’s Progress’である)という隠喩的フィクションの枠組みの中で、より現実味を持ったものとして描き出されたのである。

新潮文庫、加賀山卓郎訳『オリヴァー・ツイスト』p62

世の中には「悪人がいるのではなく、悪人を生み出す社会がある」。

ディケンズは世の中の悪を、個人の悪の問題であると同時に、社会の仕組みが生み出す悪としても考えます。

貧富の差が虐げられた人を生み出し、そこから抜け出したくてもどうしようもなくなった人が、生きるために罪を犯す。

悪いことをしたいから犯罪に手を染める人間などほとんどいない。悪人を悪人だからと切り捨てるのは問題の解決にならないとディケンズは考えるのです。

オリヴァー少年もまさしくそんな境遇に生まれ育ち、救貧院を追い出されそんな悪党集団の中に取り込まれてしまうことになります。

優しくて善良な子、オリヴァーははたしてどうなってしまうのか。

そしてオリヴァーの出生における秘密もこの物語の後半で明らかにされていきます。

感想~ドストエフスキー的見地から

『オリヴァー・ツイスト』がドストエフスキー作品に直接大きな影響を与えたかは定かではありませんが、ドストエフスキーの虐げられた子どもたちに対する優しいまなざしはディケンズの影響があるように思われます。

フランスの偉人ユゴーの『レ・ミゼラブル』もそうですが、「世の中の仕組みそのものが悪人を作り出し、虐げられた惨めな人たちが負のスパイラルに落ち込まざるをえない」という視点を持っています。

たしかに悪いことをした人間は物語上悪人かもしれませんが、全てが全てその人固有の性質ではないということをディケンズは言っているようです。

だからこそ、そこに目を向け行動し、社会をよりよくしていく必要がある。

そしてディケンズの思想は世の中を実際に動かしていきました。

伝記作家ツヴァイクはこのことについて次のように述べています。

『オリヴァー・ツウィスト』が世に出たとき、街頭の子供たちはそれまでより多くのほどこしを受けるようになった。政府は救貧院を改善し、私立学校の監督を強化した。イギリスの同情と善意がディケンズによって強められたのである。それによって苛酷な運命をやわらげられた貧民や不幸な人たちは、莫大な数にのぼるだろう。

みすず書房 ツヴァイク 柴田翔、神品芳夫、小川超、渡辺健共訳『三人の巨匠』P90

『オリヴァー・ツイスト』は単に「小説として面白かったね」で終わらずに、社会そのものに強い影響を与えたのです。

こうした「善を呼び覚ます小説の影響力」。

これはものすごいことであります。

ドストエフスキーが多くの人、特に子どもたちにディケンズの小説を勧めるのはこういうところにもその理由があるのかもしれません。

『オリヴァー・ツイスト』は前作の『ピクウィック・クラブ』と違って悪の世界を描いた暗い側面が強く出ている作品です。

しかし、暗いながらもそこには救いがあります。

物語をその危うさから救っているのは、オリヴァーの高潔な心と信仰であり、物語を貫いている愛と善の働きに対する確信のメッセージである。さまよえる人間オリヴァーは、危険と苦しみに会いながらも、メイリーやブラウンローに守られ、ナンシーの犠牲によって救われるというハッピーエンドを迎える。オリヴァーはフェイギンの悪の世界に引き込まれることなく、最後には善の力が勝利するのである。

彩流社 島田桂子氏『ディケンズ文学の闇と光―悪を照らし出す光に魅入られた人の物語』P68

こうした高潔な信仰や善の力が悪にも負けず、最後は勝利を迎えるという筋書きは読者に生きる勇気を与えていたことでしょう。

ドストエフスキーもそのひとりだったのではないでしょうか。

ディケンズの代表作『オリヴァー・ツイスト』、読みやすく物語展開も目まぐるしい面白い作品でした。

以上、「ディケンズおすすめ作品『オリヴァー・ツイスト』あらすじと解説」でした。

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