MENU

新関公子『セザンヌとゾラ その芸術と友情』あらすじと感想~親友セザンヌ・ゾラは本当に絶交したのかを考察したおすすめ作品! 

目次

新関公子『セザンヌとゾラ その芸術と友情』概要と感想~画家と作家、印象派絵画に決定的な影響を与えた2人の友情とは

今回ご紹介するのは2000年にブリュッケより発行された新関公子著『セザンヌとゾラ その芸術と友情』です。

早速この本について見ていきましょう。

近代絵画の父セザンヌと自然主義文学の旗手ゾラは中学生の同級生で,文学と絵画のことを語り合う親友でしたが,40代半ばで絶交したといわれます。その原因は,セザンヌをモデルにした画壇小説「作品」で主人公が画家への夢をあきらめ自殺する内容にあったとされてきました。しかし,本当にそうだったのか? 著者は,「作品」を丹念に読み解き,二人の手紙やゾラの美術批評などを丹念に調査することで,おどろくべき事実を明らかにします。同時にこの本は,印象派台頭期の美術史を,文学と美術の両面から再検討する内容にもなっています。

Amazon商品紹介ページより

「ゾラとセザンヌは中学の同級生で、パリに出てからも親友のままだった。しかしゾラの小説『制作』の主人公クロードが作品を完成できず自殺してしまうという筋書きがきっかけで2人の親友関係は終わってしまった」というのが2人の友情関係の定説です。

ですが、ゾラとセザンヌの絶交はあくまで後の学者の推論であり、絶対的な事実ではなく、あくまでも通説です。ですがその通説があまりに根付いてしまったのでこれが動かしようもない事実のようになってしまっていたのでした。

というわけで、ゾラとセザンヌに造詣の深い著者が、この作品で本当にゾラとセザンヌは絶交していたのかということを検証していくのがこの本の大きな流れとなります。

ゾラの作品『制作』は以前当ブログでも紹介しました。

あわせて読みたい
ゾラ『制作』あらすじと感想~天才画家の生みの苦しみと狂気!印象派を知るならこの1冊! この物語はゾラの自伝的な小説でもあります。主人公の画家クロードと親友の小説家サンドーズの関係はまさしく印象派画家セザンヌとゾラの関係を彷彿させます。 芸術家の生みの苦しみを知れる名著です!

この作品はゾラの自伝的な小説として知られ、その登場人物はゾラ自身やセザンヌがモチーフになっています。

主人公の画家クロードと親友の小説家サンドーズの関係はまさしく印象派画家セザンヌとゾラの関係を彷彿とさせます。

セザンヌと言えば印象派の巨匠です。ゾラは彼と15歳の時から学校の同級生で、パリに出てからも互いに深い交流を持ち続けていました。印象派の発展のためにゾラは美術評論を数多く書き、ゾラ自身も天才画家セザンヌから多くのことを学んでいたのでありました。いわば二人は芸術界を切り開く盟友でした。

もちろん、この小説はフィクションです。主人公のクロードがそのままセザンヌというわけではありません。印象派の巨匠マネやモネなどの影響も混じっていて、セザンヌそのものというより、実力はあるが革新的であるがゆえにアカデミーに認めてもらえない天才画家たちのイメージがそこに込められています。

そしてその友人サンドーズもまさしくゾラの境遇そのままであり、サンドーズを通してゾラ自身の思いを語らせています。

ゾラはセザンヌら印象派画家の苦労を最も近いところで見ていました。実力のある彼らが、ただ新しいというだけで世間から馬鹿にされるのを見るのはゾラも辛かったことでしょう。

またゾラ自身がどのように小説家としてここまでやって来たか、どのような思いを持ってここまで戦ってきたのかも知ることができます。

物語自体は主人公クロードが天才であるがゆえに、芸術の狂気に憑りつかれ、幸せな家庭をも犠牲にし、最後は完成できぬ苦しみから自殺してしまいます。

芸術家の生みの苦しみをとことんまでに描いたのがこの『制作』という作品なのでした。

そして先ほども述べましたがこの作品によってゾラとセザンヌが絶交したというのが定説です。

ですが新関公子氏が疑問に思ったように、私もこの作品がそこまでセザンヌを怒らせたというのはなかなか信じられないものがありました。というのも、この作品はセザンヌら印象派画家を中傷したものではないからです。逆にパリの社会から中傷されていた印象派画家たちの苦しみに寄り添った作品と言うべきものです。

しかも本書でも述べられいるように、セザンヌのアドバイスがなければ書けないような小説が『制作』でもあったのです。

それにも関わらず「この作品がきっかけで絶交した」とされてしまったのは一体なぜなのか。

この本ではそのことについて驚きの事実が語られます。私もこの本を読んで仰天しました。

印象派絵画に興味のある方にも、ゾラの小説に興味のある方にもぜひぜひおすすめしたい作品です。印象派とゾラがつながる素晴らしい作品です。

また、以前当ブログで紹介した木村泰司著『印象派という革命』という本と合わせて読むとさらに深く学ぶことができますのでこちらもおすすめです。

あわせて読みたい
木村泰司『印象派という革命』あらすじと感想~ゾラとフランス印象派―セザンヌ、マネ、モネとの関係 前回までの記事では「日本ではなぜゾラはマイナーで、ドストエフスキーは人気なのか」を様々な面から考えてみましたが、今回はちょっと視点を変えてゾラとフランス印象派絵画についてお話ししていきます。 私はゾラに興味を持ったことで印象派絵画に興味を持つことになりました。 それとは逆に、印象派絵画に興味を持っている方がゾラの小説につながっていくということもあるかもしれません。ぜひともおすすめしたい記事です

ぜひ2冊合わせて手に取ってみてはいかがでしょうか。

以上、「新関公子『セザンヌとゾラ その芸術と友情』親友セザンヌ・ゾラは本当に絶交したのかを考察したおすすめ作品! 」でした。

Amazon商品ページはこちら↓

セザンヌとゾラ: その芸術と友情

セザンヌとゾラ: その芸術と友情

次の記事はこちら

あわせて読みたい
尾﨑和郎『ゾラ 人と思想73』あらすじと感想~ゾラの生涯や特徴、ドレフュス事件についても知れるおすす... 文学史上、ゾラほど現代社会の仕組みを冷静に描き出した人物はいないのではないかと私は思っています。 この伝記はそんなゾラの生涯と特徴をわかりやすく解説してくれる素晴らしい一冊です。ゾラファンとしてこの本は強く強く推したいです。ゾラファンにとっても大きな意味のある本ですし、ゾラのことを知らない方にもぜひこの本はおすすめしたいです。こんな人がいたんだときっと驚くと思います。そしてゾラの作品を読みたくなることでしょう。

前の記事はこちら

あわせて読みたい
エミール・ゾラとドストエフスキーまとめ―「ルーゴン・マッカール叢書」を読んで この記事ではゾラとドストエフスキーについての所感をまとめています。 私自身、フランスのことをここまでやるとは考えていなかったので、遠回りになってしまったなと思いつつ、思いがけない収穫があったのでとても満足しています。 正直、私はフランスのことがあまり好きではなかったのですが、今はむしろ好きになってきている自分がいます。恥ずかしながら今やパリに行きたくて仕方がないほどになっています。 食わず嫌いだったというわけではありませんが、相手のことをよく知ってみると意外といいところも見えてくるなと改めて思わされた体験となりました。

関連記事

あわせて読みたい
『居酒屋』の衝撃!フランス人作家エミール・ゾラが面白すぎた件について ゾラを知ることはそのままフランス社会を学ぶことになり、結果的にドストエフスキーのヨーロッパ観を知ることになると感じた私は、まずゾラの代表作『居酒屋』を読んでみることにしました。 そしてこの小説を読み始めて私はとてつもない衝撃を受けることになります。
あわせて読みたい
僧侶が選ぶ!エミール・ゾラおすすめ作品7選!煩悩満載の刺激的な人間ドラマをあなたに 世の中の仕組みを知るにはゾラの作品は最高の教科書です。 この社会はどうやって成り立っているのか。人間はなぜ争うのか。人間はなぜ欲望に抗えないのか。他人の欲望をうまく利用する人間はどんな手を使うのかなどなど、挙げようと思えばきりがないほど、ゾラはたくさんのことを教えてくれます。 そして何より、とにかく面白い!私はこれまでたくさんの作家の作品を読んできましたが、ゾラはその中でも特におすすめしたい作家です!
あわせて読みたい
ゾラの代表作『居酒屋』あらすじと感想~パリの労働者と酒、暴力、貧困、堕落の必然的地獄道。 『居酒屋』は私がゾラにはまるきっかけとなった作品でした。 ゾラの『居酒屋』はフランス文学界にセンセーションを起こし、この作品がきっかけでゾラは作家として確固たる地位を確立するのでありました。 ゾラ入門におすすめの作品です!
あわせて読みたい
ゾラの代表作『ナナ』あらすじと感想~舞台女優の華やかな世界の裏側と上流階級の実態を暴露! ゾラの代表作『ナナ』。フランス帝政の腐敗ぶり、当時の演劇界やメディア業界の舞台裏、娼婦たちの生活など華やかで淫蕩に満ちた世界をゾラはこの小説で描いています。 欲望を「食べ物」に絶妙に象徴して描いた作品が『パリの胃袋』であるとするならば、『ナナ』はど直球で性的な欲望を描いた作品と言うことができるでしょう。
あわせて読みたい
エミール・ゾラの小説スタイル・自然主義文学とは~ゾラの何がすごいのかを考える ある作家がどのようなグループに属しているのか、どのような傾向を持っているのかということを知るには〇〇主義、~~派という言葉がよく用いられます。 ですが、いかんせんこの言葉自体が難しくて余計ややこしくなるということがあったりはしませんでしょうか。 そんな中、ゾラは自分自身の言葉で自らの小説スタイルである「自然主義文学」を解説しています。それが非常にわかりやすかったのでこの記事ではゾラの言葉を参考にゾラの小説スタイルの特徴を考えていきます。
あわせて読みたい
ユゴーを批判したゾラが世紀の傑作『レ・ミゼラブル』をどう見るだろうか考えてみた 今回の記事ではユゴーの偉大なる作品『レ・ミゼラブル』に対し、ゾラはどんなことを言うのだろうかということを考えていきたいと思います。
あわせて読みたい
高階秀爾『近代絵画史』あらすじと感想~ロマン派絵画とは何かを知るのにおすすめの解説書! この作品はロマン派絵画についての解説が非常にわかりやすかったのが印象的でした。 文学や音楽の時もそうでしたが、ロマン派というジャンルはわかるようでわからない、何とも難しいジャンルであるなというのが私のイメージでしたが、この本ではなんとユゴーの言葉を用いてそんなロマン派美術を解説します。 これは非常に興味深い解説でした。

この記事が気に入ったら
いいね または フォローしてね!

  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

コメント

コメントする

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください

目次