木村汎『プーチン 内政的考察』あらすじと感想~プーチン大統領はなぜロシア国民に支持されているのか、その仕組みを知るのにおすすめ!
木村汎『プーチン 内政的考察』概要と感想~プーチン大統領はなぜロシア国民に支持されているのか、その仕組みを知るのにおすすめ!
今回ご紹介するのは2016年に藤原書店より発行された木村汎著『プーチン 内政的考察』です。
早速この本について見ていきましょう。
言論弾圧、経済疲弊、頭脳流出―混迷のロシアは何処に向かうのか?プーチンはロシアをどう変えてきたか?ロシア史上、稀に見る長期政権を継続中のプーチン。「強いロシアの再建」を掲げ、国内には苛酷な圧政を敷く一方、経済は低迷、内政の矛盾は頂点に達している。ロシア研究の碩学が沈みゆく大国“プーチンのロシア”の舞台裏を詳細かつ多角的に検証する。
著者について
●木村汎(きむら・ひろし)
Amazon商品紹介ページより
1936年生まれ。京都大学法学部卒。米コロンビア大学Ph.D.取得。北海道大学スラブ研究センター教授、国際日本文化研究センター教授を経て、現在、北海道大学および国際日本文化研究センター名誉教授、拓殖大学客員教授。専攻はソ連/ロシア研究。
主な著書として、『ソ連とロシア人』(蒼洋社)、『ソ連式交渉術』(講談社)、『総決算 ゴルバチョフ外交』(弘文堂)、『ボリス・エリツィン』(丸善ライブラリー)、『プーチン主義とは何か』(角川oneテーマ21)、『遠い隣国』(世界思想社)、『新版 日露国境交渉史』(角川選書)、『プーチンのエネルギー戦略』(北星堂)、『現代ロシア国家論――プーチン型外交』(中央公論叢書)『メドベージェフvsプーチン――ロシアの近代化は可能か』(藤原書店)など編著書多数。
この作品はロシア政治の専門家木村汎氏によって書かれた『プーチン三部作』の第二作目になります。
『プーチン三部作』(『人間的考察』、『内省的考察』、『外交的考察』)はそれぞれの作品すべてが600ページ超というすさまじい大ボリュームで、プーチンとはいかなる人物かを知るのに非常におすすめな作品となっています。
さて、今回ご紹介している『プーチン 内政的考察』はプーチン大統領の国内政治に特化した作品です。
こちらの目次を見て頂ければわかりますように、この作品はかなり細かくプーチン大統領の国内政治を見ていきます。
その中でも特に印象に残ったのはやはりメディア統制によるプロパガンダです。なぜプーチン大統領が国民からここまで支持され、長期政権を可能にしているのかがよくわかります。
また、ナワリヌイ氏についての分析も非常に興味深かったです。ニュースでもよく取り上げられるナワリヌイ氏ですが、この方がどのような経歴で、なぜプーチン大統領に狙われているかがわかりやすく解説されています。
そして本の後半ではプーチン政権が抱える問題点が考察されていきます。「強いロシア」を掲げて他国への圧力を強めるプーチン大統領ですが、その副作用に苦しむ実態が明らかにされます。国内外に敵を作りだし、それらを攻撃することで国民の支持率を稼ぐ一方、世界各国の制裁により経済は衰退を続けています。
さらに経済だけでなく、人的資本も失われています。自分の能力を自由に発揮できない社会に絶望し、優秀な頭脳がどんどん海外に流出しています。将来の発展という意味では非常に厳しい実態をこの本では知ることになります。
最後にこの本についての著者の言葉を紹介します。
■現ロシアは〝プーチンのロシア〟以外の何物でもない。ロシアの作家、ウラジーミル・ソローキンは記した。ロシアは、「その指導者、プーチンの気が向くままに自由自在に動く存在へと堕落してしまった」と。
■プーチノクラシー(プーチン統治)は、もっぱらプーチン個人の意向や力量に依拠するシステムにほかならない。プーチンなしには一日たりとも存続が困難である。
■いま、プーチンは〝攻め〟から〝守り〟へと基本姿勢を転換した。己の政治的サバイバルに戦々兢々としている。これは、政権が末期的症状にあることの一証左とみなせるかもしれない。じじつ、ヒトもカネもプーチン・ロシアから流出する一方のようである。まるで船の難破を予知して鼠が逃げ出すように。
(「第16章 今後」より)■プーチン政権は、今日すでに16年以上もつづいている。仮に米国大統領が2期8年勤めるにしても、その2倍以上の長さである。
藤原書店、木村汎『プーチン 人間的考察』表紙裏、裏表紙より
■プーチンが一貫して提唱している政治的主張は「強いロシアの再建」である。ロシア連邦を米国と並ぶグローバルな超大国へと復活させるという野望である。
■ソチ五輪やクリミア併合という華々しい打ち上げ花火によってプーチンの支持率は80%台にまで上昇し、シリアの空爆直後には89.9%にも達した。
■一方、国際原油価格の大暴落に端を発する原油安、ルーブル安、さらにクリミア併合に対する米欧の経済制裁という、経済“三重苦”に直撃され、ロシア経済はなす術がないようにすら思われる。
■派手な打ち上げ花火によって、ロシア国内の失政、なかんずく経済的困難から国民の目をそらす――。このようなプーチン式「手品」は、はたして何時まで有効なのか。これが、今後のプーチノクラシー(プーチン統治)の最大の見どころである。
(「本書の狙いと構成」より)
「派手な打ち上げ花火によって、ロシア国内の失政、なかんずく経済的困難から国民の目をそらす――。このようなプーチン式「手品」は、はたして何時まで有効なのか。これが、今後のプーチノクラシー(プーチン統治)の最大の見どころである。」
鋭い言葉ですよね。ですがこれは非常に重要な指摘だと思います。
国内政治の欠陥を軍事攻撃などの派手な打ち上げ花火によって目をそらす。
これはロシアだけに限らず、どの国にも当てはまりうる政治的手法です。オーウェルの『一九八四年』でも意図的に敵国を作り出し、戦争状態を継続させている状況が描かれていました。国民をより強固に支配するのには「敵国」、「脅威」、「戦時の非常事態」が有効であるとオーウェルは指摘しています。
国内政治は外交と非常に密接なつながりがあると木村汎氏も本書でも何度も述べています。
この作品ではプーチン大統領の国内政治をかなり詳しく知ることができます。次の三部作最後の作品『プーチン 外交的政策』に繋がる作品です。これはぜひぜひおすすめしたい一冊です。
以上、「木村汎『プーチン 内政的考察』プーチン大統領はなぜロシア国民に支持されているのか、その仕組みを知るのにおすすめ!」でした。
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