長有紀枝『スレブレニツァ―あるジェノサイドをめぐる考察』~スレブレニツァの虐殺を学ぶのにおすすめ

ボスニア紛争とルワンダ虐殺の悲劇に学ぶ~冷戦後の国際紛争

長有紀枝『スレブレニツァ―あるジェノサイドをめぐる考察』概要と感想~スレブレニツァの虐殺を学ぶのにおすすめ

今回ご紹介するのは2009年に東信堂より発行された長有紀枝著『スレブレニツァ―あるジェノサイドをめぐる考察』です。

この本について見ていく前に著者のプロフィールをご紹介します。

長有紀枝

1990年9月より難民を助ける会にてボランティアを開始し、91年より専従職員となる。紛争下のボスニア、チェチェン、アフガニスタン、パキスタンなどで緊急人道支援に携わるほか、地雷禁止国際キャンペーン(ICBL)の地雷廃絶活動等に携わる。旧ユーゴ駐在代表、専務理事・事務局長(00年~03年)などを経て、2008年7月理事長就任

特定非営利活動法人 難民を助ける会HPより

著者の長有紀枝氏は実際にボスニア紛争に関わり、現在も「難民を助ける会」の理事長を務めておられます。

では、この本について見ていきましょう。

国連の「安全地帯」に指定され、PKOオランダ部隊が展開するボスニア東部の町スレブレニツァ。ボスニア紛争末期の1995年7月、「第二次世界大戦以来の欧州最大の虐殺」はなぜ起きたのか。将来の「スレブレニツァ」をどう予防するのか。「人間の安全保障」の視点から捉えた本格的ジェノサイド研究。

Amazon商品紹介ページより

この本はボスニア紛争末期に起きたスレブレニツァの虐殺にスポットを当てた1冊です。

スレブレニツァの虐殺は、現在公開されている『アイダよ、何処へ?』の題材になった悲劇です。

この本ではそのスレブレニツァの虐殺はなぜ起こったのか、そしてどのような経緯で進んでいったのかをかなり詳しく知ることができます。

著者はこの本について次のように述べています。

本書は、このスレブレニツァ・ジェノサイドをめぐる考察であり、以下の三つの問題意識の解明を主たる目的としている。

まず第一の目的は、広く一般に流布している決して正確とはいえないスレブレニツァの事件像、イメージを解体し、スレブレニツァで実際に何が起きていたか、その事実関係を実証的に確認することである。(中略)

発生後10余年を経過した今日でも、スレブレニツァに対しては、ジェノサイドの要因そのものに関する研究・考察が十分に行われないまま、歴史研究の立場からは、セルビア人による「民族浄化」の典型例として語られ、国際政治学や平和構築論の分野では、国連PKOや人道的介入の失敗例として頻繁に言及されるものの、PKOや介入政策・過程の分析に焦点が置かれている。日本においては、いずれの分野においても、スレブレニツァそのものを対象とした先行研究がない。そこで本書では、まず何が起きたのかという事実関係の確認作業を行うことを第一の目的とする。

第二は、ではなぜ、スレブレニツァでこうした大量殺害が発生したのか、どのように発生したのか、という問題である。これを明らかにするために、本書では大量殺害の目的・要因・決定の時期、事前計画の有無、立案者、大量殺害の指示者と実行者、指揮命令系統、実行を支えたロジスティクス、背景など、スレブレニツァ・ジェノサイドの一連のメカニズムを解明し、その複合的要因の分析を試みる。

第三は、スレブレニツァを冷戦崩壊以後発生した他の二つのジェノサイド(1994年のルワンダ・ジェノサイドと2003年以来2008年現在も進行中のスーダン西部のダルフール危機)と比較することにより、スレブレニツァの特異性をより明らかにすると同時に、冷戦崩壊以後のジェノサイドをめぐる外部アクターの介入について普遍化可能な事項を整理し、ジェノサイド研究やジェノサイドの防止に寄与することである。比較における具体的な着目点としては、外部の介入を可能にした(あるいは不可能にした)要因や背景、共通利益の存在(あるいは欠如)、介入の主体や時期と形態、ジェノサイドという言説との関係(いつ、どういう背景で、だれにより「ジェノサイド」と呼ばれるに至ったか)である。こうした作業により、スレブレニツァの特徴をさらに際立たせるとともに、現代のジェノサイドをめぐる外部の介入の実態、制約と限界および可能性を把握することを目的としている。

東信堂、長有紀枝『スレブレニツァ―あるジェノサイドをめぐる考察』P4-5

ここで述べられていたように、スレブレニツァについて書かれた本がほとんどないというのは私も実感していたことでした。そんな中でこの本ではものすごく詳しくスレブレニツァについて解説してくれます。これだけ詳しく書かれた本はなかなかないと思います。

そして第2の点。この本では単に出来事の流れを追っていくのではなく、「なぜそうなってしまったのか、それを止める手立てはなかったのか」ということを常に考察していきます。悲劇を繰り返さないためには何が必要なのかという視点が強く感じられます。

最後に、他のジェノサイドと比較されている点。これも私にとって印象に残った部分でした。ボスニア紛争とほぼ同時期に起こっていたルワンダの虐殺についての言及は衝撃でした。

ルワンダの虐殺についてほとんど何も知らなかった私にとってその悲惨さは絶句してしまうほどでした。そしてその虐殺とスレブレニツァの虐殺を比べることでよりジェノサイドについて深く考えていけるというのは素晴らしい視点だなと思いました。

この本をきっかけに私はルワンダの虐殺やソマリアのブラックホークダウンについても関心が向くようになりました。これらの本については「ルワンダの虐殺を学ぶのにおすすめの参考書7作品~目を背けたくなる地獄がそこにあった…」の記事でまとめていますのでぜひご参照ください。

この本はスレブレニツァの虐殺について学ぶのに最適の1冊です。内容も、初心者にもわかりやすくありながらもかなり詳しいところまで伝えてくれるので非常に勉強になります。

読みやすさも抜群ですのでぜひおすすめしたい1冊です。

以上、「長有紀枝『スレブレニツァ―あるジェノサイドをめぐる考察』スレブレニツァの虐殺を学ぶのにおすすめ」でした。

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