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ユゴーの劇作品『リュイ・ブラース』あらすじと感想~スペインを舞台にしたユゴーらしさ溢れる演劇

目次

ユゴーの劇作品『リュイ・ブラース』あらすじ解説

ヴィクトル・ユゴー(1802-1885)Wikipediaより

ユゴーの『リュイ・ブラース』は1838年に上演された作品です。

私が読んだのは潮出版社の『ヴィクトル・ユゴー文学館 第十巻』所収の杉山正樹訳『リュイ・ブラース』です。

作品についてお話しする前に、劇作家としてユゴーについて少し見ていきましょう。巻末の解説では次のように述べられています。

わが国ではヴィクトル・ユゴーといえば、『レ・ミゼラブル』や『ノートル=ダム・ド・パリ』の作者として有名である。実際、『レ・ミゼラブル』は黒岩涙香訳の『噫、無情』以来、多くの翻訳、翻案によって、また度重なる映画化、特に記憶に残るものとしては数年前にジャン・ギャバンが主演した映画がテレビで放映され、それを見て、いわれなき迫害にあう主人公に涙された方も多いのではないかと思う。

そして、ミュージカル『レ・ミゼラブル』はいまだ毎年上演され、多くの若者を感激させている。『ノートル=ダム・ド・パリ』のほうも数多い映画化、特に数年前のディズニー・アニメ『ノートル=ダムの鐘』で多くの人びとに感銘を与えた。

このように、わが国ではもっぱら小説家としてのユゴーが有名であるが、フランスでは、詩人、それも国民的大詩人という評価は揺るぎないものである。詩人、小説家、文学理論家、社会批評家、さらに劇作家でもあったが、残念ながら劇作家としてのユゴーは、日本でほとんど知られていない。
※一部改行しました

潮出版社、『ヴィクトル・ユゴー文学館 第十巻』P372

ここで述べられていますように、私達日本人にとってユゴーとは偉大な小説家というイメージがあります。

しかし彼は生涯にわたって詩人であり続けました。そして詩人としての力を駆使しながら小説や劇作品を作り続けていたのです。彼の小説作品がなぜ人を惹き付けるのか、それは人間の感情を揺さぶる彼の詩人の才によるものが大きかったのです。

以前当ブログでも紹介した伝記『ヴィクトール・ユゴー《詩と愛と革命》』ではまさしくそのことがはっきりと見えてきます。

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私たちは翻訳した文章を読んでユゴーに親しむことになりますが、フランス人は母国語で彼の言葉を聴いています。日本人にとっての和歌や俳句、古文のような染み入る音のリズム、言い回しがそこにはあります。ユゴーはフランス人の心を揺さぶる言葉の天才だったのです。

さて、そんなユゴーですが1830年代は劇作品を数多く制作しています。小説を作るより収入がはるかにいいという理由もありますが、彼は演劇を通して旧態依然とした文学界を革新しようと戦っていたのでありました。

その顛末は長くなってしまうのでここではお話しできませんが、ユゴーは古い規則に囚われない自由な演劇を目指します。彼のような演劇、文学スタイルをロマン派と呼びます。そしてロマン派の王としてユゴーは君臨していたのでありました。ロマン派については以前紹介したこちらの記事で解説していますのでぜひご覧ください。

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そんな彼が1838年に発表したのが今回ご紹介する『リュイ・ブラース』という作品になります。

この劇の舞台は17世紀末のスペインはマドリード。

王妃のせいで失脚を余儀なくされた大貴族ドン・サリュストがその恨みを晴らすため復讐を誓います。

狡猾で抜け目ない悪人であるドン・サリュストは王妃を不倫の罪で陥れようと、部下で平民上がりの美男子リュイ・ブラースを親類の貴族ドン・セザールに成りすませてその近辺に送り込みます。ドン・セザールは放蕩を尽くした末に没落し行方不明になっていた人物です。その人物が帰って来たという体でリュイ・ブラースを貴族界に送り込んだのです。

リュイ・ブラースは元々平民でありながら王妃に恋をしていて、その叶わぬ恋に身を焦がしていました。身分違いの絶対に叶わぬ恋です。しかしこの後、ドン・サリュストの策略によって本当に王妃と恋に落ちることになるのです。

美貌の王妃は若くして政略結婚でスペイン王に嫁いできました。しかし、王は狩猟にご執心で一向に王妃に構う素振りを見せません。一人残された王妃は何をするにも退屈を感じ、日々鬱々と暮らしていたのでありました。

しかし、そこに現れたのがドン・セザールことリュイ・ブラース。偶然の助けもあり、二人は恋に落ちます。

これでめでたしめでたしかと思いきやそうは問屋が卸しません。

悪魔的な謀略を張り巡らしてきたドン・サリュストがついに攻撃を開始します。

リュイ・ブラースとの恋が露見すれば王妃の権威は失墜することになります。

リュイ・ブラースもドン・サリュストの謀略から逃れようとなんとか手を尽くしますが万事休す。ついに追い詰められてしまいます。

ですが彼は最後に王妃を守るために覚悟を決め、かつての主人ドン・サリュストを殺害します。そして自らがドン・セザールではないことを王妃に打ち明け、毒を飲み死んでいきます。

王妃は自分を欺いていたリュイ・ブラースを許し、彼に愛を告白し、物語は終幕を迎えます。

ざっくりとしたあらすじはこのようになります。もちろん、この劇では本物のドン・セザールも重要人物として出てきますし、他にも重要な場面が多々あります。

ですがリュイ・ブラースの大きな流れとしては悪魔的謀略家ドン・サリュストとその部下リュイ・ブラース、そして王妃の存在が中心となっていきます。

後の記事「ゾラのユゴー批判~ユゴーの理想主義を断固否定するゾラの文学論」ではこの作品についてのエミール・ゾラによる批評を紹介していきたいと思います。ユゴーのすごさがどの辺にあったのか。またユゴーに対するゾラの批判はどのようなものだったのかということをそこで知ることになります。

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ユゴーは詩人であり、劇作家でもありました。

ユゴーの最も有名な小説『レ・ミゼラブル』はそうした詩人、劇作家としての技能もふんだんに取り入れられた作品です。ユゴーは舞台化されやすいような演出を作品の中にすでに盛り込んでいたのです。どうすれば演劇的に盛り上がるか、そしてそれをどう小説に盛り込めば効果的か、そうした側面からもユゴーは作品制作をしていたのです。

そうしたことを知る上でもユゴーの劇作品に触れるのは非常に興味深い体験となりました。

後の記事でお話ししていきますがこの作品を題材にゾラがものすごい主張を展開していきます。これはユゴーファンにとってもゾラファンにとっても必見なものとなっています。私もその論を読みかなり衝撃を受けました。

ですが、それによってユゴーの特徴やゾラの特徴がより鮮明になったように感じます。

ゾラの批評眼はとてつもない切れ味があります。フランス文学の王様に対してそこまで切り込むかとこっちが恐縮してしまうほどです。

ぜひこの後も引き続きお付き合い頂けましたら嬉しく思います。

次の記事ではユゴー批評が収録されているゾラの『文学論集』を紹介していきます。

以上、『ユゴーの劇作品『リュイ・ブラース』あらすじと感想~スペインを舞台にしたユゴーらしさ溢れる演劇』でした。

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この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

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