MENU

メリグーノフ『ソヴィエト=ロシアにおける赤色テロル(1918~1923)』あらすじと感想~レーニン時代の凄惨な弾圧システムに衝撃を受ける…

目次

S.P.メリグーノフ『ソヴィエト=ロシアにおける赤色テロル(1918~1923)レーニン時代の弾圧システム』概要と感想~レーニン時代の凄惨な弾圧システムに衝撃を受ける…

S.P.メリグーノフ著、梶川伸一訳『ソヴィエト=ロシアにおける赤色テロル(1918~1923)レーニン時代の弾圧システム』は評論社より2010年に出版された作品です。

早速この本について見ていきましょう。。

内容(「BOOK」データベースより)

死者はわれわれに声に出して語っている。いや。死んだ者は黙っていない。レーニン時代のチェー・カーによる恐怖支配の実態。

著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)

メリグーノフ,セルゲイ・ペトローヴィッチ
1879~1956。モスクワ大学歴史文学部在学中に学生運動に参加し、同時に様々な雑誌の編集にも関わる。1907年以後、ナロードニキの流れをくむ人民社会主義(エヌエス)党員となる。十月政変後、いくつかの反ボリシェヴィキ闘争に関わり、チェー・カーによって再三逮捕される。1919年、「民主主義」をスローガンに発足した反ボリシェヴィキ組織「戦術センター」に参加した。20年に逮捕され、死刑判決を受ける(のち減刑)

Amazon商品ページより

内容にありますチェー・カーというのはレーニンのボリシェヴィキ政府の秘密警察で、国内の粛清を一手に担っていた機関のことです。

この本ではロシア革命の後、紆余曲折を経て成立したレーニン政権が国内の反対勢力をいかに粛清していったかを語っていきます。

ここで重要なのは敵対勢力の粛清と言っても、それは敵対勢力の疑いありとされた者への粛清だったということです。

この粛清は熾烈を極め夥しい数の人が無罪にも関わらず拷問の末虐殺されることになりました。

タイトルにもあります赤色テロルというのは、「赤色」つまり共産主義による暴力行為を指します。

ただ単に敵対者を殺害するだけではなく、暴力によってどれだけ相手を恐怖の底に叩き込み支配できるかということが赤色テロルの最大の目的となります。

著者のS.P.メリグーノフもチェー・カーに逮捕されますが辛くも国外に亡命し、この本を書きました。

ソ連時代に一体何が起きていたのか、それを知るために私はこの本を読んだのですが、想像をはるかに超えた悲惨さでした。人間はここまで残酷に、暴力的になれるのかとおののくばかりでした。

私は2019年にアウシュヴィッツを訪れました。その時も人間の残虐さをまざまざと感じました。ですがそれに匹敵する規模の虐殺がレーニン・スターリン時代には行われていたということを改めて知ることになりました。

この本はかなり衝撃的です。読んでいて目を反らしたくなるほどのものでした。

今回の記事ではその詳しい内容については紹介できませんが、この本に書いてあるいくつかの部分を引用していきたいと思います。

虐殺の犠牲者

いつも死体は虐殺された後に、速やかに荷馬車かトラックで郊外に運ばれ、そこに埋められた。上記の墓地の片隅で別のもっと旧い墓地に出くわし、そこには約八〇体の死体があった。

ここでわれわれは想像するのも難しい、様々に損壊され毀損された死体を見つけた。

そこには胴体を裂かれた死体、生殖器がない死体があり、いくつかは完全に滅多斬りされていた。何人かの目玉はくりぬかれ、同時に彼らの頭部、顔、首、胴体は打ち身で覆われていた。

さらにわれわれは心臓に楔を打ち込まれた死体を発見した。何人かの舌がなかった。墓場の片隅でわれわれはいくつかの手足だけを見つけた。墓地から離れた公園の柵付近で虐待の痕がない数体の死体を見つけた。数日後に医者が彼らを解剖したときに、口、呼吸器、気管が土で塞がれていたことが分かった。

つまり、囚人は生きながらにして埋められ、息をしようとして土を吸い込んだのだ。

この墓地には様々な年齢と性別の人が埋められていた。そこには老人も男も女も子供もいた。一人の女性は八歳くらいの娘と一緒に縄で縛られていた。二人ともに銃創があった
※一部改行しました

評論社、S.P.メリグーノフ著、梶川伸一訳『ソヴィエト=ロシアにおける赤色テロル(1918~1923)レーニン時代の弾圧システム』P172

虐殺の犠牲者⑵

「いたぶられる者が壁や柱にくくりつけられた。次に彼を幅数インチの鉄パイプの端にしっかりとくくりつけた」……「もう一方の穴からそこにクマネズミを入れ、その穴を金網で塞ぎ、それに火を近づけた。熱さで気の狂った動物は出口を探そうと死刑囚の肉体を囓りはじめた。そのような拷問は数時間、ときには犠牲者が死ぬまで次の日も続いた」。

委員会資料は、そのような類の拷問が行われたことを確認している。

「拷問を受ける者を頭まで土に埋め、囚人が我慢できなくなるまで放置した。拷問を受ける者が気を失えば、彼を掘り出し、気がつくまで地面に寝かせ、再び埋めた」(中略)

内戦初期には地域ごとに人間の残虐性が発揮きれる専門的特徴を持っていた。

ヴォロネジでは拷問を受ける者を、釘を打ちつけた樽に裸にして閉じこめ、転がした。額に五芒星の焼きごてを当てた。司祭の頭に有刺鉄線の冠をかぶせた。

ツァリーツィンとカムィシン〔サラトフ県〕では骨を鋸で挽いた。ポルタヴァとクレメンチューグではすべての司祭を杭につないだ。(中略)

エカチェリノスラフでは磔刑、石による殴打が好まれた。オデッサでは将校を拷問し、鎖で板に縛りつけゆっくりとバーナーを当てて焼き、別の将校をウインチで半分に引きちぎり、また別の将校を順番に熱湯がたぎる釜や海に漬け、その後に火炉に投げ込んだ。

あざけりや拷問のやり方は数限りない。キエフでは死体がならべられている箱に犠牲者を入れ、その上を銃撃した後、生きたまま箱の中に葬ってやると怒鳴った。箱を埋め、半時間後に今度は開けられ、……そこで尋問が行われた。

そのようなことが何度も続けざまに行われた。人間が本当に正気を失うのも驚くことではない。

評論社、S.P.メリグーノフ著、梶川伸一訳『ソヴィエト=ロシアにおける赤色テロル(1918~1923)レーニン時代の弾圧システム』P173-174

あまりの残虐さにもはや言葉が出てきません・・・

ホロコーストの時も「なぜこんなことができるのか」と私は疑問に思ってしまいました。しかし現実に人間はこういうことをできてしまうということをかつて私は学びました。

ですがロシアの粛清において私が特に疑問に思うのは「同じ国民同士なのになぜここまで残虐なことができるのか」ということでした。

他国や異民族を敵視しそれを根絶やしにするためというのではないのです。あくまで「レーニン政権(ボリシェヴィキ)に従わない」ということに対しこれだけの残虐行為がなされているのです。

同国民だろうが何だろうが自分たちの政権の邪魔になる者は全て消す。

それが赤色テロルでした。

なぜそうまでしなければならなかったのかということまではここでお話しできませんが、この本を読めばそれも見えてきます。

かなり刺激の強い本ではありますが、世界情勢が混乱している今だからこそこうした歴史を学ぶことは大切なことなのではないかと私は思います。

以上、「S.P.メリグーノフ『ソヴィエト=ロシアにおける赤色テロル(1918~1923)』~レーニン時代の凄惨な弾圧システムに衝撃を受ける…」でした。

Amazon商品ページはこちら↓

ソヴェト=ロシアにおける赤色テロル(1918-23): レ-ニン時代の弾圧システム

ソヴェト=ロシアにおける赤色テロル(1918-23): レ-ニン時代の弾圧システム

次の記事はこちら

あわせて読みたい
高本茂『忘れられた革命―1917年』あらすじと感想~ロシア革命とは何だったのか。著者の苦悩が綴られ... この本の特徴は、かつて著者自身がロシア革命の理念に感銘を受け、マルクス思想に傾倒したものの、やがて時を経るにつれてソ連の実態がわかり、今ではそれに対して苦悩の念を抱いているという立場で書かれている点です。 最初からマルクス主義に対して批判をしていたのではなく、長い間それに傾倒していたからこそ語れる苦悩がこの本からは漂ってきます。

関連記事

あわせて読みたい
V・セベスチェン『レーニン 権力と愛』あらすじと感想~ロシア革命とはどのような革命だったのかを知る... この本ではソ連によって神格化されたレーニン像とは違った姿のレーニンを知ることができます。 なぜロシアで革命は起こったのか、どうやってレーニンは権力を掌握していったのかということがとてもわかりやすく、刺激的に描かれています。筆者の語りがあまりに見事で小説のように読めてしまいます。 ロシア革命やレーニンを超えて、人類の歴史や人間そのものを知るのに最高の参考書です。
あわせて読みたい
神野正史『世界史劇場 ロシア革命の激震』あらすじと感想~ロシア革命とは何かを知るのにおすすめの入門... 神野氏の本はいつもながら本当にわかりやすく、そして何よりも、面白いです。点と点がつながる感覚といいますか、歴史の流れが本当にわかりやすいです。 ロシア革命を学ぶことは後の社会主義国家のことや冷戦時の世界を知る上でも非常に重要なものになります。 著者の神野氏は社会主義に対してかなり辛口な表現をしていますが、なぜ神野氏がそう述べるのかというのもこの本ではとてもわかりやすく書かれています。 この本はロシア革命を学ぶ入門書として最適です。複雑な革命の経緯がとてもわかりやすく解説されます。
あわせて読みたい
神野正史『世界史劇場 第一次世界大戦の衝撃』あらすじと感想~この戦争がなければロシア革命もなかった 前回の記事に引き続き神野正史氏の著作をご紹介していきます。 というのも、ロシア革命は第一次世界大戦がなければ起こっていなかったかもしれないほどこの戦争と密接につながった出来事でありました。 『世界史劇場 ロシア革命の激震』でもそのあたりの事情は詳しく書かれているのですが、やはりこの大戦そのものの流れや世界情勢に与えた影響を知ることでよりこの革命のことを知ることができます。 単なる年号と出来事の暗記ではなく、歴史がどのように動いていったのかを知るのにも最高な入門書です。しかもとにかく面白くて一気に読めてしまう。これは本当にありがたい本です。 ロシア革命や当時のロシアが置かれていた状況を知る上でもこの本はおすすめです。
あわせて読みたい
死の収容所アウシュヴィッツを訪れる①~ホロコーストから学ぶこと ポーランド編④ 2019年4月14日。 私はポーランド最大の目的地、アウシュヴィッツに向かいました。 幸い、朝から天候にも恵まれ、前日までの凍てつくような寒さも少し和らいだようだ。 クラクフのバスターミナルからバスでおよそ1時間半。 アウシュヴィッツ博物館前で降車します。 この記事では私のアウシュヴィッツでの体験をお話しします。
あわせて読みたい
ボスニア紛争で起きた惨劇、スレブレニツァの虐殺の地を訪ねて ボスニア編⑩ 2019年4月29日、私は現地ガイドのミルザさんと二人でスレブレニツァという町へと向かいました。 そこは欧州で戦後最悪のジェノサイドが起こった地として知られています。 現在、そこには広大な墓地が作られ、メモリアルセンターが立っています。 そう。そこには突然の暴力で命を失った人たちが埋葬されているのです。 私が強盗という不慮の暴力に遭った翌日にこの場所へ行くことになったのは不思議な巡り合わせとしか思えません。 私は重い気持ちのまま、スレブレニツァへの道を進み続けました。
あわせて読みたい
(5)なぜ口の強い人には勝てないのか~毒舌と暴言を駆使するレーニン流弁論術の秘密とは レーニンは議論において異様な強さを見せました。その秘訣となったのが彼の毒舌や暴言でした。 権力を掌握するためには圧倒的に敵をやっつけなければならない。筋道通った理屈で話すことも彼にはできましたが、何より効果的だったのは毒舌と暴言で相手をたじたじにしてしまうことでした。 この記事ではそんなレーニンの圧倒的な弁舌についてお話ししていきます。
あわせて読みたい
(9)第一次世界大戦とレーニン~ドイツの支援と新聞メディアの掌握 なんと、レーニンの政治活動の背後にはドイツ政府の秘密資金があったのでした。しかもその金額が桁外れです。そうした資金があったからこそロシアでのメディア掌握が可能になったのでした。
あわせて読みたい
トビー・グリーン『異端審問 大国スペインを蝕んだ恐怖支配』あらすじと感想~ソ連や全体主義との恐るべ... この本で見ていくのはまさしくスペイン・ポルトガルで行われた異端審問です。 この異端審問で特徴的なのは、宗教的なものが背景というより、政治的なものの影響が極めて強く出ているという点です。 この点こそ後のスターリンの大粛清とつながる決定的に重要なポイントです。
あわせて読みたい
ノーマン・M・ネイマーク『スターリンのジェノサイド』あらすじと感想~スターリン時代の粛清・虐殺とは この本ではスターリンによる大量殺人がどのようなものであったかがわかりやすく解説されています。 ナチスによるホロコーストは世界的にも非常によく知られている出来事であるのに対し、スターリンによる粛清は日本ではあまり知られていません。なぜそのような違いが起きてくるのかということもこの本では知ることができます。
あわせて読みたい
(4)スターリンと中世の暴君イワン雷帝のつながり~流血の上に成立する社会システムとは スターリンは自らを16世紀のロシア皇帝イワン雷帝になぞらえていました。 イワン雷帝はロシアの歴史を知る上で非常に重要な人物です。 圧倒的カリスマ、そして暴君だったイワン雷帝。彼も恐怖政治を敷き、数え切れないほどの人間を虐殺し拷問にかけました。 しかしその圧倒的な力によってロシア王朝を強大な国家にしたのも事実。こうした歴史をスターリンも意識していたのでしょう。 スターリンとイワン雷帝の比較は非常に興味深い問題です。
あわせて読みたい
独ソ戦のおすすめ参考書16冊一覧~今だからこそ学びたい独ソ戦 この記事では独ソ戦を学ぶのにおすすめな参考書を紹介していきます。 独ソ戦は戦争の本質をこれ以上ないほど私たちの目の前に突き付けます。 なぜ戦争は起きたのか。戦争は人間をどう変えてしまうのか。虐殺はなぜ起こるのかということを学ぶのに独ソ戦は驚くべき示唆を与えてくれます。私自身、独ソ戦を学び非常に驚かされましたし、戦争に対する恐怖を感じました。これまで感じていた恐怖とはまた違った恐怖です。ドラマや映画、ドキュメンタリーで見た「被害者的な恐怖」ではなく、「戦争そのものへの恐怖」です。

この記事が気に入ったら
いいね または フォローしてね!

  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

コメント

コメントする

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください

目次