中村尚司『スリランカ水利研究序説』あらすじと感想~灌漑農業から見るスリランカ。古代に栄えた高度な治水の歴史を知るのにおすすめ
中村尚司『スリランカ水利研究序説―灌漑農業の史的考察』概要と感想~灌漑農業から見るスリランカ。古代に栄えた高度な治水の歴史を知るのにおすすめ
今回ご紹介するのは1988年に論創社より発行された中村尚司著『スリランカ水利研究序説―灌漑農業の史的考察』です。
早速この本について見ていきましょう。
スリランカ社会経済史の考察
過剰開発は、農村と農業に荒廃をもたらすとの視座からスリランカ灌漑農業の発展のあとを古代~現代へと辿りデーワフワ、アヌラーダプラ地方の現地調査を踏まえた水利史を基軸とする、本邦初のスリランカ社会経済史!
論創社、中村尚司『スリランカ水利研究序説―灌漑農業の史的考察』帯より
本書『スリランカ水利研究序説―灌漑農業の史的考察』はそのタイトル通り、スリランカの灌漑農業の歴史について学べる作品です。
スリランカはおよそ2000年ほど前から高度な治水技術を持っており、その灌漑農業は国家運営の肝とでも言うべき重要性を持っていました。
「技術ある所に王権あり。王権あるところに宗教あり」ということで、高度な技術とそれを運営する国家は不可分の関係であり、さらにはその権威の正統性を担保する宗教も絡んできます。
これまで私は宗教や政治の観点からスリランカを見てきましたが、この本では灌漑農業という切り口からスリランカを見ていくことになります。いつもとは違った視点からスリランカを見ていける本書はとても刺激的でした。
本書ではまずスリランカの歴史を概観していくことになります。スリランカがどのような歴史的変遷を辿り、それと灌漑農業がどのように関わっていたかを学ぶことになります。
そもそも、スリランカは北海道のおよそ8割ほどの面積という小さな島国です。しかしその島内にはドライゾーンとウエットゾーンという全く異なる気候風土が存在しています。これらはその名の通り、雨が多く降るか降らないかの違いになります。
観光地としても有名な南西部のコロンボや中央高地のキャンディはウエットゾーンになります。
灌漑技術が発達したのはそうしたウエットゾーンではなく古都アヌラーダプラがある北部のドライゾーンになります。水が常にあるわけではないからこそ高度な技術を発達させることになったスリランカ。その変遷を詳しく本書で見ていくことになります。
そしてオランダやイギリスなどの植民地支配との関係も興味深かったです。
1815年にイギリスがスリランカ全土を掌握したことによりプランテーション化が一気に加速していくのですが、そもそもプランテーションと灌漑農業は全く異なる農業だったということを改めて実感することとなりました。ウエットゾーンの豊富な水と熱帯気候を利用したプランテーションと、水の少ない地域の灌漑農業ではその生産作物も農法も全く異なります。当たり前と言えば当たり前ですが意外とこのことはこれまで私の中であまり意識されていないものでありました。
プランテーション農業というものがいかに近代の産物であるか、特殊なものなのかということをこの本を読んで改めて感じることとなりました。
他にも著者の実地調査によるスリランカ灌漑事業の実態やその考察も本書では語られていきます。
スリランカ仏教を学んでいるはずがまさか「水利事業」の本まで読むことになるとはと私も笑ってしまいましたが、とても刺激的な読書になりました。仏教もこうした灌漑事業と共にスリランカ古代世界に根付いていたことを想像してしまいました。私も現地に行った際はこうしたスリランカの灌漑技術に目を向けてじっくりと見てきたいと思います。
以上、「中村尚司『スリランカ水利研究序説』~灌漑農業から見るスリランカ。古代に栄えた高度な治水の歴史を知るのにおすすめ」でした。
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