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マルサス『人口論』あらすじと感想~リカード、マルクスにも大きな影響を与えたマルサスの人口論とは

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マルサス『人口論』概要と感想~経済学に大きな影響を与えたマルサスの人口論とは

今回ご紹介するのは1798年にマルサスによって発表された『人口論』です。私が読んだのは1973年に中央公論社より発行された永井義雄訳の『人口論』です。

早速この本について見ていきましょう。

人口は等比級数的に増加するが、食糧は等差級数的にしか増加しない―。人口急増期を迎え、人口増こそ富める国の証しとされた一八世紀ヨーロッパで、その負の側面に切り込んだマルサス。ケインズが「若々しい天才の作品」と評した論争の書は、今なお人口問題を考えるうえで多くの示唆に富む。
※私が読んだのは旧版ですが、こちらの商品紹介は新版より引用しています

Amazon商品紹介ページより
トマス・ロバート・マルサス(1766-1834)Wikipediaより

マルサスといえば古典経済学を学べば必ずと言っていいほど出てくるビッグネームです。

今回私がマルサスの『人口論』を読もうと思ったのは前回の記事「リカードウ『経済学および課税の原理』アダム・スミスの後継者~マルクスへの大きな影響!」で紹介したリカードがきっかけでした。

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この記事でお話ししたようにリカードはアダム・スミスの経済学を継承し、後のマルクスにも大きな影響を与えた人物です。

そのリカードと大きなつながりがあったのがこのマルサスだったのです。

前回の記事でも読んでいきましたが、リカードとマルサスのつながりについて改めて見ていきましょう。

リカードの著作には、後にマルクスも使用することになる語彙が初めて登場した。それは「階級」と「資本家」という言葉だ。「階級闘争」という概念こそまだ使用してはいないが、リカードの著作には、新たに浮かび上がってきた和解不能性の予感が貫かれている。アダム・スミスはまだいたるところにウィン・ウィンの状況を発見し、より良い世界の到来を予見していた。それに比べると、リカードははるかにペシミスティックだった。窮乏化は最終的に避けがたいようにリカードには思われた。

その理由のひとつは、親しい友人でもあった経済学者トーマス・マルサスの人口理論を受け入れたことだった。マルサスは次のような有名なパラドクスを提唱した。たとえ経済が成長しても、人びとは豊かにはならない。むしろより多くの子供が生まれることによって、養わねばならない人口が増えるだけだ。しかし農業生産の伸びは、人口増に追いつけず、いつかはその人口を養いきれなくなる時が来るだろう。そうなれば飢饉が発生し、人口は再び減少に転じる。リカードはこのマルサスの説から、労働者がその貧困から抜け出すことはまったく不可能だという結論を導き出した。労働者は調達可能な食糧の限界まで人口を増やし続け、それによってみずから貧困を招き寄せる。

しかし、リカードがぺシミストだったのは、労働者の未来に関してだけではなかった。資本家にとっても未来はけっしてバラ色でないことを彼は予見していた。人口が増えすぎると資本家も間接的にその被害な受けるという彼の推論は、一見すると意外に思える。しかしリカードから見ると、そこには避けがたい関連があり、それゆえリカードは「利潤率の傾向的低下」を予言した。


みすず書房、ウルリケ・ヘルマン、鈴木直訳『スミス・マルクス・ケインズ よみがえる危機の処方箋』P91-92

「マルサスは次のような有名なパラドクスを提唱した。たとえ経済が成長しても、人びとは豊かにはならない。むしろより多くの子供が生まれることによって、養わねばならない人口が増えるだけだ。しかし農業生産の伸びは、人口増に追いつけず、いつかはその人口を養いきれなくなる時が来るだろう。そうなれば飢饉が発生し、人口は再び減少に転じる。」

これがいわゆる有名な「マルサスの法則」になります。

この法則をいかにして乗り越えるか、それが当時の経済学者の目下の課題となったのでありました。

では、この有名な「マルサスの法則」ですが、本文では実際にどのように書かれていたのでしょうか。それを見ていきましょう。

人口は、制限されなければ、等比数列的に増大する。生活資料は、等差数列的にしか増大しない。数学をほんのすこしでもしれば、第一の力が、第二の力にくらべて巨大なことが、わかるであろう。

食糧を人間の生命に必要なものとしている、あのわれわれの本性の法則によって、これら二つのひとしくない力の結果が、ひとしいものに維持されなければならない。

このことは、生存することの困難さに起因する、人口にたいする強力かつ不断に作用する制限を意味する。この困難さは、どこかあるところにふりかからなければならないし、また必然的に、人類のおおきな部分によって、きびしくかんじられなければならない。

中央公論社、マルサス、永井義雄訳『人口論』P23-24

リカードの入り組んだ文章と比べればマルサスの文章はものすごく読みやすいです。上の箇所も言わんとしていることは何となく伝わってきますよね。

そしてここから30ページほど進んだところでイギリスの貧民救済策の欠点を語った箇所が出てきます。イギリスでは貧民救済のためにお金を集め、それを基に貧民たちの食糧支援をしようとしたのですが全く効果が上がりませんでした。なぜ貧民救済の資金分配は失敗したのか、マルサスは彼の法則と照らし合わせて次のように語ります。

一般の人びとのしばしばおちいる困窮を救済するために、イングランドの救貧法は制定されたのであるか、それは、個人の不幸の強度をすこし緩和したかもしれないけれども、もっとひろい地域に一般的害悪を伝播したことが、憂慮されるべきである。

イングランドにおいて毎年貧民のために徴収される巨大な金額にもかかわらず、なおまだかれらのあいだにははなはだしい困窮があることは、会話においてしばしばかたりはじめられ、つねにひじょうにおどろくべき問題としてのべられる主題である。

あるものは、その金が私消されているにちがいないと考えている。他のものは、教区世話人および監督者がその大部分を晩餐に消費していると考えている。それがどうも、はなはだ管理がわるいにちがいないと、すべてのものの意見が一致している。

要するに、毎年貧民のために三百万ポンドちかくが徴収されているが、それにもかかわらず、かれらの困窮は除去されないという事実は、たえざるおどろきのまととなっている。

しかし、ものごとを表面下にわずかでもたちいって見る人は、もし事実が観察されるものとちがっているとすれば、あるいはまた、(収入)一ポンドあたり四シリングでなく一八シリングをひろく徴収することが事実をいちじるしくかえることとなるとすれば、さらにいっそうはなはだしくおどろくであろう。わたくしは、わたくしのいう意味を説明してくれるとおもわれる例をのべよう。

つぎのように仮定しよう。富者の寄付により、労働者が現在かせいでいる一日あたり一八ペンスが五シリングにあげられれば、おそらくかれらはそのとき、安楽にくらすことができ、毎日夕食に一きれの肉をたべるだろう、と想像されよう。

しかしこのことは、ひじょうにあやまった結論であろう。一日に三シリング六ぺンスがすべての労働者に譲渡されることは、この国の肉の量を増大させるものではないであろう。現在、すべてのものが相応のわけまえにあずかるだけの量はないのである。

それではその結果はどうなるであろうか。肉市場における買手のあいだの競争が、急速に価格をボンドあたり六ペンスあるいは七ペンスからニないし三シリングにあげ、そしてその商品が、現在以上におおくのもののあいだでわけられることはないであろう。商品が希少で、すべてのものに分配されえないばあい、もっとも有効な特許証をしめすことのできるもの、すなわちもっともおおくの貨幣を提供するものが、その所有者となるのである。

もし肉の買手のあいだの競争がかなりながくつづいて、もっと多数の牛が毎年飼育されるようになると想定できるならば、このことは、穀物の犠牲においてのみおこなわれうるのであって、ひじょうに不利な交換であろう。なぜなら、そのとき、その国は同一の人口を扶養できないであろうことは、よくしられているからである。

また、人口数に比して生活資料が希少なばあいには、社会の最下層の人びとが一八ぺンスをもっているか、五シリングをもっているかは、重要ではない。どんなにしてもかれらは、もっともきりつめた衣食ともっともすくない物とで生活することを余儀なくされなければならない。
※一部改行しました

中央公論社、マルサス、永井義雄訳『人口論』P52-53

「一日に三シリング六ぺンスがすべての労働者に譲渡されることは、この国の肉の量を増大させるものではないであろう。現在、すべてのものが相応のわけまえにあずかるだけの量はないのである。」

「マルサスの法則」を具体的な生活状況を例にして語ったこの箇所ですがとてもわかりやすいですよね。

マルサスはこのようにして本書の論を進めていきます。リカードの作品を読んだ後だとマルサスの文章は非常に優しく感じられます。想像していたよりもはるかに読みやすくまとめられている本だなというのが私の感想でした。

有名な「マルサスの法則」の出典を読むことができたのは私にとってもありがたい経験となりました。こうした経済学の作品をマルクスやエンゲルスは必死になって勉強していたんだなと思うと私も身が引き締まる思いになりました。

以上、「マルサス『人口論』概要と感想~リカード、マルクスにも大きな影響を与えたマルサスの人口論とは」でした。

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この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

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