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星野宏美『メンデルスゾーンの宗教音楽』あらすじと感想~忘れられていたバッハを再発見したメンデルスゾーンの偉業を知るのにおすすめ!

目次

星野宏美『メンデルスゾーンの宗教音楽 バッハ復活からオラトリオ《パウロ》と《エリヤ》へ』概要と感想~忘れられていたバッハを再発見したメンデルスゾーンの偉業を知るのにおすすめの参考書!

今回ご紹介するのは2022年に教文館より発行された星野宏美著『メンデルスゾーンの宗教音楽 バッハ復活からオラトリオ《パウロ》と《エリヤ》へ』です。

早速この本について見ていきましょう。

ロマン派を代表する作曲家メンデルスゾーン。バッハの難解な大作へ取り組み、新時代に向けたオラトリオを送り出した天才の知られざる本質に迫り、「ドイツ・プロテスタント音楽の継承者」としてその生涯を再評価する、本邦初の研究書。

Amazon商品紹介ページより
メンデルスゾーン(1809-1847)Wikipediaより

著者の星野宏美氏は以前当ブログでも紹介した『メンデルスゾーンのスコットランド交響曲』の著者でもあります。

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私はメンデルスゾーンの『スコットランド交響曲』が大好きです。その作品について詳しく解説してくれるこの作品は非常にありがたいものがありました。この曲が出来上がるきっかけとなったイギリス・スコットランド旅行の流れはとても興味深かったです。

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そして今作『メンデルスゾーンの宗教音楽 バッハ復活からオラトリオ《パウロ》と《エリヤ》へ』はメンデルスゾーンの宗教音楽にスポットを当てた作品になります。

この作品について著者は「はじめに」で次のように述べています。少し長くなりますがこの本の特徴がわかりやすくまとめられていますのでじっくりと読んでいきます。


ドイツ・ロマン派を代表する作曲家、フェーリクス・メンデルスゾーン・バルトルディ(1809-1847)は、ホ短調のヴァイオリン協奏曲や、交響曲《スコットランド》と《イタリア》、ピアノのための無言歌、歌曲《歌の翼に》などを通して私たちに親しい存在である。有名な《結婚行進曲》は、作曲家の名を知らずとも、誰しもが耳にしたことがあるはずだ。明るく軽やかな調べ、近世のとれた形式美が、一般に知られるメンデルスゾーンの魅力であろう。

しかし、彼には隠れた名曲、それも骨太の大作がたくさんある。新約聖書の使徒パウロ、旧約聖書の預言者エリヤをそれぞれ主人公とし、独唱と合唱、オーケストラによって壮大な音楽絵巻を織り上げたオラトリオ《パウロ》と《エリヤ》もその例である。

メンデルスゾーンは、ロマン派の作曲家にしては珍しく、生涯を通して熱心に宗教音楽に取り組んだ。最新の研究では、メンデルスゾーンの作品総数は約七五〇作とされており、そのうち九〇作が宗教曲である。作曲の学習を始めてまもない一二歳から、三八歳で没する直前までその創作年代はわたっている。音楽を職業として意識する以前から、宗教音楽は常に彼とともにあり、彼の人生を通して重要な意味を持ち続けた。一九世紀前半という世俗化が進んだ時代に、ロマン派特有の夢幻の世界を次々と作曲したメンデルスゾーンが、もう一方で、生涯にわたり宗教曲にこだわり続けたのは、なぜだろうか。

こんにち、メンデルスゾーン自身の宗教曲以上に広く知られているのが、過去の大家の宗教曲に対する彼の功績である。一八ニ九年、彼はヨハン・ゼバスティアン・バッハ(一六八五ー一七五〇)の《マタイ受難曲》を復活上演し、大きな反響を呼んだ。

今でこそキリスト教音楽の最高峰と見なされている《マタイ受難曲)だが、ロマン派の時代には古くさい作曲家の難解な作品と敬遠され、一般の音楽生活から忘却されていた。過去の長大な作品を約一〇〇年の眠りから蘇らせて、その不朽の価値を知らしめたのは、音楽史上、画期的な偉業だった。この時、メンデルスゾーンは若干二〇歳。早熟の天才として既に名を轟かせていたが、彼の輝ける才能、並外れた統率力、そして意志の強さは、大勢の人を動かし、新しい時代を切り開いていくものだった。

過去の宗教曲に対するメンデルスゾーンの関心と情熱、とりわけ《マタイ受難曲》復活上演への尽力は、彼自身の宗教曲の創作と分かちがたく結び付いている。彼は過去の偉大なる音楽作品を同時代に鳴り響かせ、生きた伝統を現前せしめるとともに、それらの作品を意識的に模範とした宗教曲を作曲し、伝統の真の継承者として自らを世に示した。

バッハからメンデルスゾーンの伝統の継承を明確に辿れるものとして、彼の大作オラトリオがある。第一作にあたる《パウロ》(作品三六)は、一八三六年、メンデルスゾーン二七歳の時に初演された。二〇歳にして《マタイ受難曲》の復活上演を果たした若き天才が、二〇代半ばに五年近くの歳月をかけて取り組み、満を持して世に送りだした最初の大規模な宗教曲である。

一方、一八四六年初演の《エリヤ》(作品七〇》は、三八歳の若さで急逝した彼の最後の大作となった。バッハの強い影響下にある《パウロ》から一〇年の歳月を経た《エリヤ》には、教派と時代を超えた多種多様な様式が流れ込んでいる。生々しい感情表現や迫力ある自然描写を含むことから、《エリヤ》はメンデルスゾーンのオペラと呼ばれることもある。なお、一八四七年に彼はオラトリオ第三作《キリスト》(作品九七)の作曲を開始したが、まもなく病に倒れ、断片のまま終わった。
※一部改行しました

教文館、星野宏美『メンデルスゾーンの宗教音楽 バッハ復活からオラトリオ《パウロ》と《エリヤ》へ』P3-5

この本ではまずバッハとメンデルスゾーンの関係について語られます。

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バッハについてはひのまどかさんのこの伝記が非常におすすめなのですが、教会音楽家として務めていたバッハの作品は時を経るごとに忘れ去られてしまいました。

そんなバッハを世間の忘却から救い出したのが何を隠そう、メンデルスゾーンなのです。

このことは彼の伝記でもドラマチックに語られており、メンデルスゾーンの数々の偉業の中でもハイライトをなすものとなっています。

そしてこの作品のメインとなるのがタイトルにもありますように、メンデルスゾーンの宗教音楽になります。

上の動画が『パウロ』、下が『エリヤ』になります。

動画時間を見て頂ければわかりますようにものすごい大作です。

これを全て聴くのはなかなか至難の技です。私もCDを借りて聴いてはみたのですが部分部分でしか聴けていません。

さらに言えば、宗教音楽ということで『スコットランド』や『イタリア』などと比べてとっつきにくさがあるというのも難しい点でした。気軽に聴いてみようという風になかなかならないのが『パウロ』と『エリヤ』だと思います。

ですが星野宏美氏の『メンデルスゾーンの宗教音楽 バッハ復活からオラトリオ《パウロ》と《エリヤ》へ』を読めばこれらの曲がどのような意図で書かれ、どこにその特徴や素晴らしさがあるのかを知ることができます。

これはこれらの曲を聴く上で素晴らしい道案内になります。おかげで私はものすごくこれらの曲に興味を持つようになりました。

やはり曲が作られた背景や、楽しむポイントを教えてもらえれば断然イメージも変わってきますよね。

この本はそんなメンデルスゾーンの宗教曲を楽しむための格好の解説書となっています。正直私は音楽家ではないので細かい音楽理論はわかりません。ですがそれでも楽しくこの本を読むことができました。

この本の帯でも、

音楽史上の重要さにもかかわらず語られることが多くなかった事象そして作品を、正鵠を射る視座で明らかにしている。楽理論文であるのに、読者を惹きつける語り口に感嘆する。
池辺晋一朗(作曲家)

天才メンデルスゾーンの捉え方を一新できる会心のー冊が、その音楽を愛してやまない専門家、星野宏美さんの手によって書かれ、快哉を叫びたい気持ちである。
鈴木優人(バッハ・コレギウム・ジャパン主席指揮者)

教文館、星野宏美『メンデルスゾーンの宗教音楽 バッハ復活からオラトリオ《パウロ》と《エリヤ》へ』帯より

と絶賛されています。私もまさにその通りだと思います。タイトルをパッと見ると難しそうな本だなと思ってしまうかもしれませんが読んでびっくりの読みやすさです。

メンデルスゾーンについてもっと知りたい方にぜひともおすすめしたい作品です。

以上、「星野宏美『メンデルスゾーンの宗教音楽』忘れられていたバッハを再発見したメンデルスゾーンの偉業を知るのにおすすめ!」でした。

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この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

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