MENU

R・ブレースウェート『アフガン侵攻1979-89』あらすじと感想~ソ連崩壊の要因ともなった泥沼の軍事侵攻

目次

R・ブレースウェート『アフガン侵攻1979-89 ソ連の軍事介入と撤退』概要と感想~ソ連崩壊の要因ともなった泥沼の戦争

今回ご紹介するのは2013年に白水社より発行されたロドリク・ブレースフェルト著、河野純治訳の『アフガン侵攻1979-89 ソ連の軍事介入と撤退』です。

早速この本について見ていきましょう。

一九七九年十二月に始まったソ連によるアフガニスタン侵攻は、たび重なる反乱に直面した共産党政権を支援するためのものだった。当初、ソ連軍の任務はアフガン軍を支援し、部隊の訓練・強化を行うという限定的なものだったが、やがて、米国やパキスタンの支援を受けたムジャヒディン(イスラム戦士)との全面的な戦争に巻き込まれていく。撤退までの九年間に約一万五〇〇〇人の兵士が戦死し、無数のアフガン人犠牲者を出し、双方に大きな傷を残した。

元モスクワ駐在英国大使の著者は、主にロシア側の詳細な資料に基づいて、アフガン侵攻について従来広く信じられてきた説(領土拡大主義による侵略だった、この戦争がソ連の解体につながった、など)を否定する。当初、ソ連政府はあくまでも軍事介入を避けようとしていた。また、政府の失策や戦略的誤りによって兵士たちが困難な状況に置かれたのは確かだが、ソ連軍はけっして戦争に負けたわけではないし、撤退も整然と計画的に行われたという。


軍事介入に至る歴史的背景から説き起こし、ソ連・アフガン双方の複雑な国内事情や、兵士たちが経験した戦闘の緊迫感とその後の厭戦気分まで、紛争の全貌を詳細に描く。冷戦期の神話を覆すアフガン戦史の決定版。

Amazon商品紹介ページより
アフガニスタンに展開するソ連軍の部隊 (1984年)Wikipediaより

1979年に始まったソ連のアフガン侵攻。

泥沼化したこの戦争はソ連崩壊の要因となった出来事として知られていますが、この本はそんなアフガン侵攻の経緯をかなり詳しく知れる作品となっています。

読んでいてまず驚いたのは、この戦争にソ連は元々乗り気ではなかったということです。

脆弱なアフガニスタン共産党政権を支援するためにやむなく軍を派遣したはずが、いつの間にか泥沼の戦闘に引きずり込まれてしまいます。

国民が納得するような大義もなく、戦う目的もはっきりしないまま悲惨な戦闘を繰り返すソ連軍。

それに対しゲリラ戦を展開し、ソ連軍に大きなダメージを与えていくムジャヒディン(現地抵抗勢力)。

そしてその陰でムジャヒディンを支援するアメリカの存在・・・

ゲリラ戦が展開されたことでソ連軍はいつ攻撃されるかわからない恐怖におそわれることになりました。そして疑心暗鬼になった彼らは村全体を破壊せざるをえなくなり、ソ連軍はますますアフガニスタン国民から憎まれることになります。アフガニスタンの治安を安定させ、よりよい国家を作る手助けをするためにやってきたはずが、残されたのは廃墟となった街や村々・・・

あまりに不毛な戦争の実態をこの本で見ていくことになります。

アフガニスタンのこうした惨状を考えると、2019年に亡くなった中村哲さんを思い浮かべてしまいます。

医師としてアフガニスタンの地で多くの人を救った中村さん。中村さんが活動していたのはこうしたアフガン戦争や、その後のアメリカによるアフガン空爆の混乱の中でありました。荒廃しきったアフガンの中で一人戦い続けた中村さんには驚くしかありません。

現在ロシアによるウクライナ侵攻が続いていますが、かつてのアフガン侵攻のことを学ぶことは大きな示唆を与えてくれるのではないでしょうか。

ソ連末期の状態や、アフガンをめぐるアメリカとの対立の構図、そして911に繋がる背景もこの本では学ぶことができます。現代の歴史を考える上でもこれは非常に興味深いものでした。

ぜひぜひおすすめしたい作品です。

以上、「R・ブレースウェート『アフガン侵攻1979-89 ソ連の軍事介入と撤退』ソ連崩壊の要因ともなった泥沼の軍事侵攻」でした。

Amazon商品ページはこちら↓

アフガン侵攻1979-89: ソ連の軍事介入と撤退

アフガン侵攻1979-89: ソ連の軍事介入と撤退

次の記事はこちら

あわせて読みたい
中村哲『アフガニスタンの診療所から』あらすじと感想~今こそ読みたい名著!ソ連のアフガン侵攻とその... この本は今こそ読むべき名著中の名著です。 文庫本で200ページほどというコンパクトなサイズですので、気負わずに手に取ることができますので、ぜひぜひおすすめしたい作品です。 ロシアのウクライナ侵攻をきっかけに読んだこの作品でしたが、強烈な印象を残した読書になりました。

前の記事はこちら

あわせて読みたい
D・E・ホフマン『死神の報復 レーガンとゴルバチョフの軍拡競争』あらすじと感想~冷戦末期の核・生物兵... この作品は冷戦末期のソ連とアメリカの軍拡競争、そしてソ連の生物兵器開発をめぐるノンフィクションです。 この本も強烈です。 米ソ核軍拡競争の最終段階とも言えるゴルバチョフ、レーガンの外交交渉は読んでいて非常に緊迫したものを感じました。さすがピュリツァー賞受賞作品。読ませます。語りに引き込まれてしまいました。 大国間の駆け引きを目の当たりにできる名著です。冷戦末期からソ連崩壊への時代背景を知るのにもおすすめの作品です。

関連記事

あわせて読みたい
W・トーブマン『ゴルバチョフ その人生と時代』あらすじと感想~その生涯とソ連崩壊の時代背景を学ぶの... この本ではゴルバチョフが生まれた1931年からソ連崩壊後まで、その時代背景と共にゴルバチョフの謎に満ちた生涯を辿っていきます。 ゴルバチョフ自身の生涯も非常に興味深いものなのですが、この本でやはりありがたいのはソ連の時代背景を知れる点にあります。特にソ連が崩壊に向かっていく流れは読んでいて頭を抱えたくなるほどの混迷ぶりでした。ソ連がいかに出口のない迷路に迷い込んでいたかがわかります。
あわせて読みたい
V・セベスチェン『東欧革命1989 ソ連帝国の崩壊』あらすじと感想~共産圏崩壊の歴史を学ぶのにおすすめ... セベスチェンの作品はとにかく読みやすく、面白いながらも深い洞察へと私たちを導いてくれる名著揃いです。 この本は、世界規模の大きな視点で冷戦末期の社会を見ていきます。そして時系列に沿ってその崩壊の過程を分析し、それぞれの国の相互関係も浮かび上がらせる名著です。これは素晴らしい作品です。何度も何度も読み返したくなる逸品です
あわせて読みたい
O.A.ウェスタッド『冷戦 ワールドヒストリー』あらすじと感想~冷戦時代の世界を網羅したおすすめ通史 この本を読んでいて驚いたのは冷戦が本格的に始まる第二次世界大戦後からソ連の崩壊に至るまで、それこそ世界のどこかで絶え間なく争いが起きているということでした。しかもその争いというのもいつ全面戦争になってもおかしくないほど危険なものだったということです。 第二次世界大戦の後は戦争が終わり、世界は平和だったと日本では考えがちですがまったくそんなことはなく、たまたま日本が戦場になっていないというだけの話で、世界中危険な空気があったということを思い知らされました。
あわせて読みたい
クリスチャン・カレル『すべては1979年から始まった』あらすじと感想~冷戦終盤の驚くべき物語がここに ソ連崩壊に大きな影響を与えた人物達。その4人こそイギリスの首相サッチャー、中国の政治家鄧小平、イラン・イスラーム革命の指導者ホメイニー、そしてローマ教皇ヨハネ・パウロ二世という四人の人物でした。この本ではそんな4人がどのように冷戦に影響を与えたのかを見ていきます
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

コメント

コメントする

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください

目次