『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』あらすじと感想~『ブレードランナー』の原作となった傑作SF!
『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』あらすじと感想~『ブレードランナー』の原作となった傑作SF!
今回ご紹介するのは1968年にフィリップ・K・ディックにより発表された『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』です。
私が読んだのは早川書房、朝倉久志訳の『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』2017年第77刷版です。
この作品は有名なSF映画『ブレードランナー』の原作になります。
SF映画の金字塔として知られるこの作品ですが、その原作『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』も非常におすすめな小説となっています。映画と原作はストーリーもかなり違うので、全く別の作品として読むことができます。そして小説版もものすごくいいんです・・・!映画とはまた違った魅力がこの小説に詰まっています。
では、早速この作品について見ていきましょう。
第三次大戦後、放射能灰に汚された地球では生きた動物を持っているかどうかが地位の象徴になっていた。人工の電気羊しかもっていないリックは、本物の動物を手に入れるため、火星から逃亡してきた〈奴隷〉アンドロイド8人の首にかけられた莫大な懸賞金を狙って、決死の狩りをはじめた! 現代SFの旗手ディックが、斬新な着想と華麗な筆致をもちいて描きあげためくるめく白昼夢の世界!
リドリー・スコット監督の名作映画『ブレードランナー』原作。
Amazon商品紹介ページより
この作品は第三次大戦後死の灰に覆われ、ほとんどの動物が死滅してしまった世界が舞台です。
そして『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』という不思議なタイトルが示すように、この作品はアンドロイドと電気羊(機械の羊)が大きな意味を持ちます。
アンドロイドと機械動物というテーマはSFの王道中の王道ですよね。
そして数々の名作がひしめく王道作品の中でも特に絶賛されているのがこの『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』になります。
巻末の訳者あとがきではこの作品について次のように述べられています。
「フィリップ・K・ディックの描く未来世界は、われわれ自身の世界の歪んだ鏡像だ。その歪みがそれをSFにし、そのイメージが急所をえぐり出す」―デーモン・ナイト
「もしあなたがこのジャンルの根底にあるテーマやシンボルをわれわれが思いもよらぬ観点から扱う巨匠の作品を読みたいと思うなら、フィリップ・K・ディックの本をどれか読むことだ。いや、そんなみみっちいことをいわず、全部読んだらいい」―ジョン・ブラナー
「わたしの考えでは、フィリップ・K・ディックとJ・G・バラードだけが、現代に即した、読むにたる小説という点で、見るべき仕事を生み出しつつある―ブライアン・オールディスたいへんな絶讃ではありませんか。しかも、いつもだと惚れこんで訳しはじめたつもりが、半分いかないうちに熱のさめてくる飽き性のぼくなのに、この長篇にかぎってふしぎにそれがなかった。いや、校正のためにゲラを読みかえしたときでさえ(そして、今回新版のために手を入れ、再度ゲラを読みかえしたときでさえ)、傑作だという確信は揺るがなかった。だから、もしあなたがいま書店でたまたまこのぺージを開いておられるとしたら、ためらわずにお買いになるべきだと思う。(中略)
火星から脱走してきた八人のお尋ね者のアンドロイドとそれを追う警官―という、一見アクション・スリラー風なプロットを上台に、「人間とは何か?」という大きなテーマに取り組んだのがこの長篇なのですが、ディックのトレード・マークである目まぐるしい展開とアイデアの氾濫をいくぶん抑えて、ユーモアの衣をかぶせてあるために、違和感の少ない、親しみやすい小説になっています。二度にわたって描かれる感情移入度テストのくだりも滑稽だが、とくに、自分が人間かどうかに確信が持てなくなった主人公が、自分で自分にテストを試みるところは、おかしくもまた悲しいではありませんか。
早川書房、フィリップ・K・ディック、朝倉久志訳『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』P321-324
ものすごい絶賛ぶりですよね。ですが、私も読んで思ったのですがたしかにこの作品は名作です。読めば読むほど味が出てきます。何度読んでも飽きない魅力がこの本にはあります。
上の引用にもありますように、この作品は人間そっくり、いや「ある意味人間よりも人間らしい」アンドロイドとの対決を通して自分達人間とは何なのかという問いを突き付けられる作品です。
どこが「ある意味人間より人間らしい」かということはぜひこの小説を読んで確かめて頂きたいのですが、この作品では人間とアンドロイドとの決定的な違いを共感能力の有無にあるとしています。
アンドロイドは他の存在に共感できない。思いやりの心とか哀れみの心は一切存在しない。
これが人間との決定的な違いとされるのですが、はてはて、人間もそれと大して変わりはないのではないかと段々思わされてきます。人間だって自分の利益のために情け容赦なく他者を利用し、平気で人を傷つけるではないかと。
一体、人とアンドロイドは何が違うのか。たしかに何かが違うのかもしれないが、平気で処理、いや、殺害なんてできるだろうかと、私たちは主人公と一緒に悩み、考えていくことになります。
この辺りの解説も巻末の訳者あとがきに詳しく書かれていますので、SFが苦手だった方でも気軽にこの小説に入っていくことができます。SFの入門書としてもこの本は非常に優れているなと私は感じました。
映画『ブレードランナー』は圧倒的な映像美やアクション、構成でSF映画の傑作という地位を不動のものとしました。
ですがこの原作『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』はそういう視覚的な美しさや手に汗握るアクションというよりは、ダークな空気感の中、自分の心とじっくりと向かい合っていくような「静的な」作品となっています。
これは本ならではの魅力であると私は思います。
じっくりと著者の語る言葉に聴き入り、それを反芻していく・・・。そうして自分の心の奥底にぽたっぽたっと雫が垂れていくような、そんな奥深い感覚を味わえるのが小説の魅力ではないでしょうか。
この作品もぜひぜひおすすめしたい作品です。SFの王道中の王道です。ぜひこの面白さ、奥深さを体感して頂けたらなと思います。
以上、「『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』あらすじと感想~『ブレードランナー』の原作となった傑作SF!」でした。
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